HOME雑誌・書籍・店舗創刊号目次 > 創刊号掲載文章
INTRODUCTION 駐韓米軍
戦時の韓国軍指揮権を持つ駐韓米軍
 韓国に駐留する米軍は、総兵力約三万七千人、その主力となるのが陸軍第二歩兵師団(一万四千人)です。この師団は、朝鮮戦争時に送り込まれた部隊で、その後一時的な帰還を除いて軍事境界線近くに配置され続けている、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と対峙する最前線部隊です。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)との軍事衝突に際して自動的に応戦する位置にあることから、俗に「トリップ・ワイヤー(罠の針金)」と言われています。
 米軍が駐留する法的根拠は、五三年一〇月、朝鮮戦争の休戦協定を機に締結された米韓相互防衛条約です(発効五四年)。第四条には「米陸・海・空軍を大韓民国の領土内とその付近に配置する権利を韓国は許容」すると書かれており、米国側が希望すれば駐韓米軍はいつでも、どこにでも韓国内の施設と区域に関する無償の排他的使用権を行使できるというのです。しかも七八年創設の米韓連合司令部では、駐韓米軍司令官は韓国軍の戦時における作戦指揮権を掌握するなどの権限を持っています。
 「抑止力」のために駐留しているという説明とは裏腹に、駐留米軍は韓国内において、数多くの犯罪行為や事故、環境破壊、騒音被害などを引き起こし続けています。
 現在、米国・ブッシュ政権の下で、全世界に展開している駐留米軍とその基地の再編計画が進められています。そんな最中、米国・国防長官のラムズフェルドは、「駐留を求められなければ、とどまらない」と韓国・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権に圧力を加えました。この発言には、昨年六月、韓国内で二人の女子中学生が米軍の装甲車にひき殺された事件が発生し、犯人の米兵二人が米軍事法廷で無罪になったことをきっかけとして、韓国民衆の怒りが爆発し、駐韓米軍基地の縮小や著しく不平等な米韓行政協定(SOFA)の改定を要求する運動が高揚したことに対する米国側の不満が反映しています。
北朝鮮への侵攻作戦「OPLAN5027」
 しかし、米国の狙いはそれだけではありません。「核開発」をめぐって、北朝鮮への戦争挑発の圧力を強めているブッシュ政権は、「あらゆる選択肢を排除しない」と公言しています。それは単なる政治的プロパガンダではなく、実際に朝鮮戦争を想定した「作戦計画」を作成しているのです。九四年の「核開発疑惑」で、朝鮮半島における一触即発の危機が高まった時、当時のクリントン政権が「OPLAN5027」と呼ばれる戦争計画を策定し、以後二年ごとに改定作業が行われてきました。
 今年に入って前倒しで改定作業が進められ、その内容は大きく分けて三つのシナリオで構成されています。@核関連・ミサイル施設への限定的空爆、A北朝鮮の軍事ドクトリンを想定した中規模の軍事作戦、B前方展開する韓国軍が北朝鮮全土を制圧する作戦、です。
 @については、最近パール前国防委員長がこうした選択肢を示唆する発言を行っています。Aに関しては、小型戦術核の使用を含むことが指摘されています。Bに関しては、先にも述べた駐韓米軍の再編計画と密接にリンクしています。米韓安保の再定義とも言うべき再編計画の中心は、前線に配置される地上部隊を韓国軍に担わせることです。ソウルの中心に位置する龍山(ヨンサン)基地に存在する米軍司令部など、駐留米軍全体の南方への移転が計画されています。特に、第二師団に関しては、陸軍の新型機動戦闘旅団化が図られようとしています。軍隊のハイテク化をテコに部隊をコンパクトにして機動力を高めることで、韓国だけでなく、東アジア全域をカバーしうる部隊へと強化しようという狙いが隠されているのです。これに連動して米軍基地の整理・統合を進めようとしているのは、沖縄の米軍基地と同じ動きです。
 ブッシュ政権の「先制攻撃」戦略とイラク戦争は、米国が朝鮮半島における新たな戦争の危機をもたらすとの危惧を、韓国の民衆に与えています。再び朝鮮半島に戦火をもたらせないためには、韓国だけでなく、日本の民衆による反戦運動と、米軍基地の撤去を求める運動の広がりが求められているのです。
(編集員 石橋 正)