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レポート「重要な意義をもつ無防備地域宣言運動」
九条を実践する条例
 戦争を違法化する制度が、国際法を根拠に、自治体の条例で実現できる・・・無防備平和都市条例は「戦争放棄」「戦力不保持」という憲法の平和主義に活力を与え、住民の平和的生存権を第一に考えた条例です。
条例案の中身
 無防備地域宣言ができる条件は、紛争下の文民保護を規定したジュネーブ条約第一追加議定書に、@すべての戦闘員・移動用兵器・移動軍用設備の撤去A固定軍用施設又は造営物を敵対的目的に使用しないB当局又は市民による敵対行為がないC軍事行動を支援しない、の四条件とされ、宣言主体になれるのは、自治体等の「適当な当局」とされています。
 つまり「戦う意思がない」ことを示すと、国際法に従い、その地域への攻撃は禁止され、住民の生命・生活は保護の対象になるのです。白旗を揚げ敵に屈服するのとは違います。むしろ紛争下にない段階での宣言は、戦争反対・人権尊重の強い意思を示し、戦争を抑止する効果を生みます。
京都市で直接請求署名
 京都市では「無防備地域宣言を目指す京都市民の会」が結成され、条例案に文化財保護条項を入れて直接請求に向けた運動が始まりました。直接請求とは、住民が条例案の制定・改廃を直接要求できる権利で、一か月間に有権者の五〇分の一以上が署名することで実現します(地方自治法第七四条)。
 署名運動の結果、法定数の二万三千人を超える、四万一一二五人の方が平和への意思を示されました。署名運動を通して、戦争体験者の生の声を聞いて戦争の酷さを思い知らされ、署名運動が人から人へ広がっていく様子を見聞きしました。直接請求運動は、まさに平和教育の実践、住民自治の本質だと実感しました。
 一月四日に直接請求、月末の臨時市会までに、市長や議員に葉書をしたため、米国バークレー市から「正義と平和委員会」委員長を招いて国際シンポジウムを開催。万全の態勢で議会審議、となるはずでした。
自治体議会の厚い壁
 第一の壁は桝本市長でした。住民は条例案を市長に直接請求し、市長がそれを議会に提案します。このとき市長は賛否の意見書を添えます。請求者と直接会って話を聞くのは自然な流れでしょう。ところが、調整役の職員が「忙しくて会えない」旨を伝えるばかりで、副市長に会うのが精一杯でした。桝本市長は意見書で、条例案は「制定する必要もない」と言い切り、反対しました。
 第二の壁は住民を締め出す京都市の議会運営です。直接請求の代表者は五人いて、私はそのうちの一人でした。議会には、請求代表者に意見陳述させる義務があります。しかし、住民が傍聴できて全議員が集まる本会議での発言は、「慣例にない」の一言で認められず、二五分の委員会発言に限定されたのです。しかも住民は委員会質問の直接傍聴ができないので、議員が的外れの質問をして暴言を吐いても、モニターとイヤホンを通じて「見守る」しかないのです。各会派が態度表明する委員会討論結了はモニター傍聴すらできません。
 第三の壁は議員のレベルです。自民党議員は「署名した人は訳がわかってるのか」「直接請求といっても権限がないと市長が言っているものまで取り上げるのか」と直接請求制度を否定し、「国家を否定する運動」「反国民的」と決めつけ、まともに取り合いません。民主党系会派議員と無所属議員は質問・意見せずに反対に回りました。共産党議員だけが賛成しましたが、条例案は議論が尽くされないまま否決されてしまいました。
ぐんぐん広がる運動
 焦点は自治体の権限でした。軍事施設撤去の権限は自治体にない、と市長も議員も役人も否定したのですが、条例案は、軍事目標の撤去・戦時機能の停止を市が「政府に求める」よう要求したのです。政府が戦争準備を進めるなか、自治体は住民保護の役割を果たすため国に意見するべきだ―この問題提起に回答できなかったことが、いまの京都市の限界であり、私たちの課題と言えます。
 大阪市に始まった無防備宣言の運動はいま全国に広がっています(詳しくは全国ネットワークHP)。幾度もの悲惨な戦争を体験した人類が考え出した国際人道法、そして憲法九条を、地域から実らせましょう。
佐藤 大
京都市請求代表者。無防備地域宣言運動全国ネットワークHP http://peace.cside.to/
アジェンダ会員。さとう大WEB http://www.satodai.net/