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INTRODUCTION 劣化ウラン
 近年になって、甚大な放射線被害をもたらす原因となっていることが広く指摘されるようになってきたものに、劣化ウラン(弾)があります。原爆のような大規模な核爆発を伴わないことから「核兵器ではなく通常兵器」とされてきたため、湾岸戦争やユーゴスラビア、そして先のアフガニスタンやイラクでの戦争でも、米英軍によって大量に使用されました。例えば湾岸戦争では、大小の砲弾を合わせて少なくとも九五万個(約三二〇トン)もの劣化ウラン弾が、イラク南部とクウェートで使用されました。今でも不発弾がどれだけ埋まっているのかさえわかっていません。
 劣化ウランとは、天然ウランを原発用の核燃料や核爆弾の材料にするための濃縮過程で大量に生み出されるものです。天然ウランには核分裂を起こしにくいウラン二三八と容易に核分裂を起こすウラン二三五が含まれていますが、その割合はウラン二三八が約九九・三%に対しウラン二三五は約〇・七%に過ぎません。これを核燃料や核爆弾の材料に使えるようにするためにウラン二三五の濃度を上げたものを濃縮ウラン、濃度が天然ウランより低くなった「濃縮カス」が劣化ウランなのです。濃縮の過程では、一〇〇の天然ウランからは濃縮ウラン一五に対して劣化ウランは八五もの割合で生み出されます。劣化ウランは、米国ではこれまでに七〇万トン以上が蓄積され、日本でも現在毎年六百トンもが溜まり続けています。
 劣化ウラン弾を見れば、核の「平和利用」と「軍事利用」の境界は無きに等しいことがわかります。原発の核燃料を製造する同じ工程が、劣化ウラン弾の原料製造工程に他ならないからです。
 劣化ウランは鉄や鉛よりも比重が重く、このために砲弾の弾芯に利用すると戦車の頑丈な装甲をも貫通します。また射程距離を伸ばし、命中精度を高めることができます。さらに装甲を貫通する際の衝撃で三〇〇〇度もの高熱を発して燃焼し、戦車内の兵士をも焼き殺し、内部の砲弾や燃料の誘爆を引き起こすのです。米英軍が劣化ウラン弾の利用にこだわるのは、こうした軍事的利点があるからなのです。
広がる劣化ウランによる被害
 劣化ウランは、たとえ低レベルではあっても、それが放射性物質であることに何ら変わりはありません。当然、取り扱い時には被曝の危険性が伴います。とりわけ危険なのは、劣化ウラン砲弾が装甲を貫通する際の燃焼などにより、煙霧状の酸化ウランの微粒子となって大気中に放出されることにあります。これが体内に吸入されれば、体外に出されるまでには一〇年以上、場合によっては半永久的に肺にとどまって放射線を出し続けます。そうした体内被曝の結果、劣化ウランの粒子は血液を通じて骨やリンパ節、肝臓、腎臓などにたまり、ガンや白血病など、さまざまな病気の原因となっているのです。また、当人だけでなく家族にも被害は及んでおり、先天的な障害や病気などをもった子供が多数生まれているのです。
 また、劣化ウランは化学的にも毒性の強い重金属物質であり、その点からも健康への悪影響が指摘されているのです。
 劣化ウラン弾が、はじめて大規模に戦争で使用されたのは湾岸戦争でした。個々は低レベルの放射性物質であっても、このように一度に大量に使用されれば、その影響は大きくなるのです。
 九〇年代の後半になってイラクの子供たちに白血病やガンなどが急増していることが明らかになっています。湾岸戦争以来の経済制裁のために、医療設備はおろか医薬品すら不足して、十分な治療さえ行なえません。そもそも、劣化ウランによる放射線の影響に関する調査すら全くと言っていいほど実施されていないのです。
 それだけではありません。劣化ウランの被害は湾岸戦争に従軍した兵士にも大きな被害を与えています。劣化ウラン弾を大量に使った戦場に足を踏み入れた米英軍の兵士の多くが、その後、劣化ウランを原因とする放射線障害に悩まされ命を落としています。さらには米国内外の劣化ウラン弾に関連する核施設や射爆場の周辺でも、深刻な被害がひろがっているのです。しかし、米軍当局は、劣化ウランとの因果関係を認めようとしていないのです。
 まさに劣化ウラン弾とは、敵軍ばかりか一般民間人、そして自軍の兵士の命までも奪う、ある意味では核兵器以上の無差別大量殺戮兵器に他ならないのです。
(編集員 谷野 隆)