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早崎直美さんに聞く
外国人労働者の人権保障を
 日本で働くニューカマーと呼ばれる人々は確実に増え続けています。彼ら・彼女らが労働の現場で実際にどういう状況を強いられているのかについて、RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)の早崎直美事務局長にお話をお聞きしました。
●外国人の労働問題ということで、今一番力をいれておられるのはどういう問題でしょうか?
 労働問題ということでいえば、研修生・実習生の問題ですが、ニューカマーの人からの一番多い相談は、実は在留資格の問題なんです。そしてそれと絡む家族関係の問題ですね。一口に外国人の労働問題といっても在留資格の違いによって抱えてる問題は異なります。
 その中で研修制度・実習制度は、日本政府の「単純労働者は受け入れない」という政策と、単純労働をさせたい経済団体などの圧力による妥協の産物です。公的な「資格」をもらって日本で単純労働を行う。日本の技術を学ぶというのは建て前に過ぎません。
●実習制度が創設された頃と比べて変化はあるのでしょうか。
 政府は最初、今みたいな実態になるのを恐れてかなり受け入れについて制限をしていました。もともと研修制度は、アジアに合弁会社なりがある企業がそこで働いている人を幹部候補生の研修として受け入れるという趣旨だったんです。ところが九三年に実習制度もでき、特に中小企業の団体の圧力があって制限が緩和される中で、もともとの研修の趣旨とは違うものになってきました。
 日本の中で特に繊維産業に多いんですが、小さい企業がいくつか集まって協同組合が作られ、研修・実習に責任を負うという形式のもとで、例えば中国なら中国の「送り出し機関」と呼ばれる団体が窓口となり、その企業とは全く関係なしに研修生を公募するようになりました。そして日本に送られてきたら協同組合から加盟企業に配属されます。日本人従業員の二〇分の一までという人数制限があったんですが、その制限が緩和され、協同組合が責任をもつなら五〇人以下の会社でも一回につき三人まで受け入れられることに変わりました。研修一年実習二年なので、一番極端にいうと日本人従業員ゼロの会社でも最大九人の研修生・実習生をうけいれられることになり、実際そういうところもあります。それはもう働き手がいなくて、海外にも生産を移すことのできない中小企業が日本の中で生き残っていこうと思ったら、労働者に負担を負わせるしかない。
 その際に研修生・実習生を企業の側からして使いやすいのは、大体居住するところが工場の二階とか敷地内のプレハブとかにあって、休みの日でも仕事があるといって呼び出されたり、夜かなり遅い時間までずっと仕事をさせられたり、あるいは部屋に持って帰って縫製なんかだったら最後の仕上げとかを内職でやったりとか、忙しいときはものすごく使われてるんです。つまり企業にとってのメリットは、忙しいときにはどんどん働かせることができるし、いらなくなったら帰しやすい。協同組合にちょっと相談すれば良くて、直接雇っている経営者は責任をとらなくてもいい仕組みになっているんです。
 本人たちはそれに異議申立することはできません。ひどい労働実態であるとか病気になって働けないようになったらそのまま治療も満足に受けられないまま送り返されたとか、本当に人権侵害としか思えないことを聞いています。この人たちはさっき言ったような状況で、外で誰かと知り合う機会も限られていますし、ひどい所はそれも制限しています。パスポートも取り上げて、ひどい場合は賃金の一部も勝手に貯金してちゃんと三年間勤めないとそれがもらえないような状況にして働かせているわけなんです。
●こういう問題の解決はかなり難しい点もあると思うのですが。
 そのとおりです。実習生には日本の労働基準法を適用するようになっていますが、一番ひどい例では基本給も最低賃金をクリアしていない。しかし労働基準法に照らして違法だらけの状況が明らかになると、今の入管局の受入れの指針では、そこは受入れ先としては適正ではないということで、受入れ停止プラス本人達も帰されることになります。本人たちには何の問題もないのにその時点で帰国指導という帰国措置がとられます。だから慎重にやる必要があります。本人たちも来るときに手数料など払い借金もしているので、途中で帰されるのを一番恐れています。私たちも嘘をつくことはできないので、問題にすると入管法上はそういう可能性も出て来るということを説明すると、次には相談には来ない、それなら我慢して働こうかと。給料も安いけれど、リスクを侵すより確実に稼げるほうを選ぶ場合がほとんどですね。帰国指導が出たら本人たちはどうしようもないんです。
●研修生と実習生の違いはどこにあるのですか?
 実習生の場合は労働法が適用されるので、労働基準監督署にも相談に行けます。監督署レベルでとどまれば、労働法の範囲内で今の労働条件の改善ですむんですが、入管まで行ってしまうと帰国させられることにもなるんです。だからケースバイケースで相談者の意向に添いながら、監督署レベルで止めたいと。でもこれでは研修生のときの問題は全然触れません。研修生は入管の仕組みの中では労働者と見做されないので、監督署は何もしてくれません。だけど本人たちにとっては研修生のときの方がひどい。残業は禁止されているので実際にさせても残業代は払わないとか、払ってもすごく安い。実習生の賃金と比べても研修手当は非常に低い。それでも入管にわかってちゃんと研修されてなかったということになると、実習生にも移行できなくなり、その時点で在留資格がなくなって帰国という危険性もあるのです。
●帰国覚悟で企業を訴えた例はあるのですか?
 かなり前ですが集団で訴えた例がありました。熊本県の農業関係の財団と、岐阜県の縫製関係の協同組合ですが、これは非常に珍しいケースです。実態があまりにひどくて集団で訴えようにも、日本に来た背景もみな違いますから、同じ所で働いていても意見がなかなかまとまりません。それに同じ故郷で次の人たちが順番待ちをしてたりするので、あとの人のことを考えると受け入れ停止になるようなことはできにくい。だから、この問題は本人たちに任せていても解決できないと思います。制度的に変えて行かないと。
 これが一人の場合だったら、そこだけで止められるので私たちのような団体でもやれることはあります。逃げて相談にきた人に代わって経営者と交渉して、本人さえ納得していれば、最初は渋る経営者からパスポートを取り返しちゃんとお金をとって、無事に帰国させます。経営者も公になるとまずいので、最終的には大体応じるんです。
●最後に
 研修生・実習生の問題だけでなく、在留資格の異なる日系ペルー人・ブラジル人の人たちや、「興行」や「技術」などの労働ビザで入国して働いている人の場合、留学生・就学生、在留資格を失ったいわゆる「不法滞在者」や、女性労働者に対する人身売買まがいの人権侵害の問題など、さまざまな問題があります。これだけ外国人がふえてきたのに外国人に関する法律は結局入管法と外登法しかありません。日本政府は、外国人を管理の対象であって、人権を守る対象とは見ていないということです。東京都知事の石原や自民党が「不法滞在者を徹底的に取り締まる」「五年で半減させる」と言ってますが、外国人労働者のほとんどは真面目に働いています。そして、中小企業を中心に実際に必要としているんです。
 いいこととは思いませんが、外国人と日本人の働いている場ははっきりと分離しています。日本の失業率が上がっていることと外国人労働者は関係ないことは政府の人間もわかっている筈です。今のキャンペーンは多分、皆が不安に感じている社会状況の原因をどこかに求めるという意図があると思います。そして、例えば有事法制とかの「国を守れ」というような風潮の中で、私たちが一番恐れているのは、日本の中で外国人が一番標的になりやすいということなんです。今はまず「不法」という攻撃しやすいところが標的になってますが、その次には「日本にあまり貢献しない、あるいは負担になるような外国人」へと対象がだんだんと広がっていくことなんです。
 それと労働現場のことでいえば、こうした問題は正式な雇用でない日本人労働者の問題とも絡んでいると思います。「かわいそうな外国人を助ける」というのではなくて、日本全体を外国人も日本人も含めて権利が守られて働けるものに変えていくということなんだと、多くの日本人にも気づいて欲しい。
 そして強調したいことは、少なくとも今、外国人登録している人だけでも一八〇万人いる外国人の状況の改善を第一に考えるべきだと思います。日本経団連は最近外国人受け入れ拡大を基調とする意見書をまとめましたが、研修生や実習生をはじめ働くうえでの権利が保障されなければ拡大も何もありません。私たちは法務省には実習制度はやめるべきだと言っています。堂々と労働者として受け入れたらどうかと。もちろんそうなっても問題は起きて来るでしょうが、こちらが対応しやすい。期限付きにはなるでしょうが、受け入れる場合には、労働法の完全適用と、最初の企業との間の契約が続かなかった場合でも転職は可能であるということが必要条件です。
(聞き手 本誌編集部員 谷野隆)
早崎直美さん
RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)事務局長