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アジェンダ・プロジェクト企画 講演録(2)
ひとりからでもできる!
ユニオン労働運動
1 あなたならどうする?
「あなたならどうする?」という質問形式で話を始めたいと思います。
 一問目です。勤務中、急に風が吹き、目にゴミが入って痛いとなったら、どうしますか?
 まず、ふつうは目薬を注すなり、水で洗ったら取れるだろうと考えるかと思います。しかしこの場合、作業中に何か飛んで入ったのかもしれないので、これを労災だと考えて、取れなかった場合、「労働災害だから、病院に連れて行ってくれ」とはっきり言うべきです。
 実際、私の職場でも、清掃中の人の目にゴミが入って、その時は確か鉄粉でしたが、目に刺さったということがありました。病院に行かないと取れない、へたに水で洗ってもダメだということがわかったわけです。すぐに病院連れて行けと労働組合も言って、病院に連れて行ったのです。当然、翌日は休業です。目に傷がいっているにもかかわらず、仕事に出てこいということはおかしい。労災でなくて休業したら欠勤扱いです。給料を勝手に引かれることになるから、明確に労災だということを言うべきです。
 二問目です。勤務が終わったので帰ろうとしましたが、申し送りに手間取り、二〇分ほど超過しました。職場にはタイムカードがありません。あなたはどうしますか?
 これは、特別養護老人ホームなどで、すごく多いケースです。五時で終わっているのに、申し送りや、人が足りないのでちょっとやってくれと言われるわけです。タイムカードがあれば、これは残業ですよと言えるわけですが、タイムカードがないと、上司の決裁がいるわけです。きちんと言わないと残業にカウントされないというケースが多い。こうした場合では一分や二分だろうと、必ず残業をつけて一ヶ月トータルするわけです。会社の規定が一分でも遅刻にするというのであれば、一分超過したらカウントして残業手当をつけさせる。一分でも時給を六〇で割って計算できますから。あるいは遅刻が二九分まで切り捨てなら三〇分以上、月でトータルして三〇分超えたら残業にカウントさせる。そういうようなやり方をすべきです。確実に残業だという主張をしないと、残業にならない。五分を毎日残業したとして、月二〇日で一〇〇分、一年間なら、一二〇〇分の残業です。これだけタダ働きさせられたということです。企業側にしたら、数分でも毎日残業させれば、一年間で大きな儲けになる。それをちゃんとカウントさせるということが大事です。
 最後の質問です。急用で出勤できなくなり、職場に有給休暇を申し出たところ、会社の上司に「有給は事前に申し出なければ受けつけないので、欠勤処理になる」と言われました。あなたはどうしますか?
 有給休暇については、労働者に権利の大半があります。経営者には業務変更権がありますが、それはよっぽどでないと使えない。その人に有給を認めるために、上司が替わりをするなりの努力をしてもうまくいかないという時しか、変更権は有効ではありません。
 だけど、会社の方が偉そうにしているので、ダメだと言われたら、しょうがないということになりがちです。欠勤扱いになればボーナスなどにいろんな影響が出ます。有給休暇も捨てていくことになる。法律的に労働者を保護するような内容でも、上司が労働者に対する支配権を完全に通そうとするのが、企業のやり方です。
 これまでの三つの質問内容については、労働組合があり、その組合がきちんと対応する所なら、すべて解決すると思います。労働者が泣き寝入りするということは一切ないと思います。それが、労働組合でも労使一体になっている所では、逆に組合役員が、労働者に圧力をかけていくというケースがあります。
2 労働者をとりまく労働法
 次に、労働者を取り巻く労働法に話を移します。最初の労働基準法というのは、労働者が働く最低限の基準です。これに違反すれば経営者に罰則がかかるわけです。
 先程の残業の件ですが、手帳に今日何時何分に帰ったかを書きなさいとよく言います。そうなったのはどういう理由かということも書いておきます。それは、すごい証拠能力を持ちます。残業手当も有給休暇も、二年間は請求権がありますから、遡って払わせることが可能です。タイムカードがなくて、しかも書いていない場合でも、大丈夫な場合もあります。実際、私が手がけたケースですが、ある特別養護老人ホームで、五人の寮母さんが一年半から二年間、毎日五時間以上残業やっているにもかかわらず、一切残業代がついていないということがありました。もちろんタイムカードもない。このケースの場合、一人だけだと、裁判でも負けているケースが非常に多い。企業側についている人が知りませんと言ったら、それで通ってしまうのですが、五人がすべて残業したということだったので、団交を要求しました。ところが、団交拒否です。この場合はすぐに提訴しました。裁判だけでなく、新聞や府・市に内部告発したりして、いろいろな状況を周りで作っていった結果、相手が交渉すると言ってきました。この場合、本当に裁判になったら、どこまで取れるかは非常に不明だったので、公判が始まる前に交渉で決着をつけました。
 さらに、残業手当や有給休暇をもらっていないことについて、私たちには刑事告発権があります。しかし、これもしつこく言わないと、労働基準監督署はなかなか受けつけてくれない。刑事告発をすれば、検察庁から使用者も呼び出しを受けるから、相当な圧力になります。私たちにも刑事告発権利があることを、ぜひ覚えていただきたいと思います。
 次の就業規則ですが、一〇人以上の事業所は、就業規則を労働基準監督署に提出しなければなりません。但し、労働者代表がこの就業規則は気に入らないと書いても、労働基準監督署は受けつけます。その後の問題は交渉でやってくださいという対応です。労基法を就業規則が下回っていないかを監督署はチェックするだけです。
 就業規則にはいろいろなことが書いてあります。それに基づいて、私たちは仕事をするのですが、就業規則を下回った労働条件で使っていれば、完全に言う権利があります。
 ただ、会社の方はいろいろとイヤらしいことをやります。解雇する場合、労基法では一ヵ月分の予告解雇手当を出すか、一ヵ月働いてからやめてもらうかのどちらかになります。実際に私が経験したのでは、あるパートの労働者がやめてもらえるかと言われたので、一ヵ月分の予告解雇手当をいただけますかと言ったら、明日から他の工場に行ってくれと異動を言われたケースがありました。翌日、そこへ行ってみたら、あまり仕事がないということで、今まで月二〇〜二一日、毎日六時間半働いていたのですが、仕事が半分の一〇日になってしまったのです。これでは食えないです。その人は今までそれでも手取り一二万円ぐらいだった。それが異動で五〜六万円です。これは会社側が持っている業務命令権に基づいていて、こういうイヤらしい方法で自主退職に追い込んでいく。
 こういう問題は、法違反をしているわけではないから監督署に行ってもラチがあかない。労働組合が交渉してやる以外にない。このケースは、いろいろ交渉して有給休暇分もつけることができました。最終的には本人からやめたのですが、会社都合による解雇と書かせたので失業保険もすぐに出ました。このように、就業規則違反でなくても非常にイヤらしい解雇の仕方をする場合があるので、労働組合が言わないと現実には解決しません。
 三つ目に労組法上の労働協約について説明します。労働組合は、憲法二八条で認められ、さらに労働組合法という法律で認められています。労働協約というのは、一番効力が強い労使間の法律になるものです。紙ペラでもいいから、いろんな項目について、双方が名前を書いて印鑑を押したら、どこへ行っても通用するということです。労働基準法や就業規則がどうであろうと、これさえ持てば、それに勝つということです。憲法で認められた労働組合と労働協約権、これは何ものにも強い法的拘束力を持つのです。組合を作る時は、必ず、その場で協約を結ぶようにして、次の団体交渉に移るというふうにしていきます。経営者側は、協約に合意したら就業規則をそれに基づいて変えなければならないのです。
 そして労働安全衛生法です。これは、すごく労働者を優遇している法律です。私が一番気に入っているのは、労働拒否権があることです。昔、高圧ガスを取り扱っている職場で、異物が混入して熱交換器の配管の色が急変したことがあり、これは危ないから止めるぞと主張したことがありました。上司はもう少し運転してくれと言いましたが、私らは「労働安全衛生法が目に入らぬか」と、止めました。そのことによる罰則は一切ありません。
 あと、塵肺法もすごい法律で時効がありません。例えば、戦争中に朝鮮半島から強制連行された、あるいは自分で来た人が、戦後、何十年も経って塵肺になっても補償を受けれます。普通なら、労働災害は二年が時効なのですが、塵肺には時効がないので、実際に偶然ですが、証明する人が見つかって、休業補償あるいは治療を全面的に診ていただいたケースがありました。これは在日朝鮮人の方にも適用されます。
 また労働安全衛生法には、安全配慮義務違反というのがあり、これに違反したら、使用者は必ず罰せられる。安全配慮義務違反とは、例えば、働く場所が変わった場合、こういう点に気をつけないといけないと、上司がきちんと教育したかどうかということです。それを基に、安全配慮義務違反をしているじゃないか、きちんと補償せよと言えるのです。
 これは、神奈川の組合の話ですが、そこの組合員は圧倒的に在日外国人です。働いている町工場では、ほとんどが安全教育をしてないので、手を切ったりするケースが多い。もちろん労災を申請するのですが、オーバーステイの人がほとんどだから、当然バレます。その人は治療が終わったら強制送還になります。ところが組合の方は、安全配慮義務違反ということで、相手と団交して補償させるわけです。だから、労働安全衛生法の、こういう中身というのは、法律に基づいているから、相手がそれに違反すれば罰せられるわけです。それを活用するということではものすごく有効な法律です。
3 労働者と現状
 三点目の労働者と現状ですが、現在、日本の労働組合の組織率が、二〇・二%。人数にして一〇八〇万人かな。全労働者が、五三四七万人ぐらいです。組織率は、毎年下がってきています。ただ、私も驚いたのですが、韓国の組織率でも二〇%です。じゃあ、韓国の労働運動はなぜそんなに強いのかというと、やはり日本の企業別組合と違う、企業を乗り越えて、業種別で労働者が組合を作っているからです。業種間で経営者団体と交渉できるわけです。ストライキをやれば相当な影響力がある。私も昔、下請けの清掃労働者を組織しようと、ストライキを一週間やったことがあります。そうしたら、下請けの汲み取り業者がやってきて、ストライキしていた区域を全部回ってしまったのです。最終的に一週間でこちらも音を上げて負けてしまいました。また、三〇年ほど前、全従業員を組織してストライキ申請をしたことがありました。従業員は絶対やるぞと、ストライキ指令を待っていたのに、結局いろいろ事情があって、ストライキ指令が出ませんでした。翌日、労働者は、クモの子を散らすように組合を辞めていきました。たとえ全従業員を組織できたとしても、闘わなければダメです。労働組合を作る時には、私も言うのですが、一人でも組合に入っていただいて、その人が解雇になれば、それは絶対許せない、最後まで闘うんだということを確認します。一人の労働者の首に関わることをやらないと、労働組合の生命線はないと、私は考えています。
 今、失業率が約五%半ば、三五〇万人を超えています。日本の中での最低賃金は時給六三三円。ところが不思議なことに、生活保護費は一人、月一四万円です。時給に換算すると、八三三円。これはえらい違いだなと思います。
 では、一四万円で生活できるかというとできない。それが日本の現状です。パートを含めた非常勤が約三三%、三人に一人が不安定就労者です。全国どこの労働組合も、パートやアルバイトを含めて労働組合に組織するべきです。そうしないことには、正社員の労働条件も勝ち取れないということになっています。派遣労働やパート労働でも、同一労働同一賃金が原則なら、同じ仕事をしていれば、時給が同じでいいはずです。ところが実際は、不安定な、いつでも首切られる状況の労働者だからと、安く使われています。パート労働者も有給休暇は労働基準法でちゃんと認められていて取得する権利はあるのに、出しているところはほとんどゼロです。組合に入った人が言えば、その人の分は出すけど、言わない人には出さない。うるさく言っている人と後ろに組合があるところだけ出す。そういう意味で、パートなどの労働者をできるだけ組織して、その人たちの労働条件を上げていかないとダメです。結局、経営者はできるだけ安い労働力を求めて、どんどん外国へ出ていって、最後は児童労働までやらせている。こういう構造が、日本の中ではパートやアルバイトという形で表現されていると思います。
 ですから、これからの労働運動は、そこを組織できるか、できないかが勝負の分かれ目で一番大事な点ではないかと思っています。その場合、パートや派遣労働者は職場を次々に移動させられるので、やはり企業にくっついた組合ではなく、地域の労働組合でないと、その人たちはカバーできないと思います。
4 力の弱い組合でも闘える
 日本の労組法は、米国とはまったく違います。米国の組合は、日本みたいに企業別組合でなく、職能別組合を作っています。ところがある企業で組合として団体交渉しようと思ったら、米国の法律は五一%の従業員を組織しなければ、団体交渉権が発生しないのです。
 日本では、「たった一人でも組合だ」ということで、地域のユニオンに入って労働組合ですと言ったら、会社側は交渉せざるをえないわけです。日本の労働組合法というのは、世界でも類をみない法律です。それをどんどん活用しないといけない。そういう組合法と協約を盾に交渉されると、一人でもビラまきされたり、外部に言われたりするから、ちょっとでもいいから妥協しようかということになります。まとまらなかったら争議になるでしょ。私の公共サービスユニオンでも、相談があれば、一人でも組合員になってもらい、会社に対して団体交渉をしていきます。どんどん勝っていけば、あいつらが来たらヤバイなと思って、経営者は早く解決しようとします。しかし、おとなしいなと思えば、経営者もなめてきます。そういう点には注意しなければいけませんが、一人でも日本では闘える。三人もいれば、組合ができますし、組合通告をすれば、クビにはならない。組合規約とかはいりますが、組合を名乗って、法律の保護をできるだけ駆使、活用しながら、使用者と闘うということが大事だと思います。
 労働運動というのは、ストライキ闘争だけではなくて、力の弱い組合でも、労働法とか刑法とかいろんな法律を駆使して、相手を嫌がらせながら闘うことができると思います。例えば、組合を初めて作って、なかなか交渉に応じない場合でも、団体交渉要求書を作って、朝早く、経営者の家に持っていって、「労働組合です。団体交渉してください」と大声で言って、相手を困らせていく。これは半分嫌がらせですけど。
 ストライキだけが闘いだと思えば、すごく闘い方が狭くなる。いろんな工夫をして、首切りなどを許さないという労働者の態度が明確になれば、どんな闘い方でもできるということをぜひ知っていただきたいと思います。
5 あなたが雇用されるときの注意
 最後に、雇用される時の注意ですが、雇用契約を結ぶ時に口頭はできるだけやめて、文書に書いてほしいと、どういう条件かということ、時給や労働時間などを必ず書かせて、社会保険適用、厚生年金、労災保険をちゃんと配備しているのかどうか、まず点検してください。ただ、今は買い手市場だから、あまりそれを露骨にやると、もういいわと言われる可能性がありますが。せめて雇用契約については文書でいただきたいと、国の方も文書を渡しなさいということを指導していますから、それについては言えると思うのです。必ず文書で持っていたら、それがあとあと生きてきます。
 あと、給料の支払いについてですが、口座振込がほとんどです。本来は、私たち労働者が先に働いて、その月末に金を受け取るのだから、私たちは債権者だという考えをきちんと持つべきです。会社は債務者だから、債務をどういうふうに支払うかなんて決める権利なんかないですよ。債権者がこういうふうに出してくれという権利があるはずです。なぜこういうことを言うかと言うと、給料をもらっているという感覚が生まれるからです。労働者は働かせてもらっているのではなく、経営者と対等に働いているという気持ちを自分の心の中に持つことです。でないと、どんどん経営者に突っ込まれてしまいます。
 最初の団体交渉をやる時に、経営者は、組合を作っていない時なら、従業員を徒弟みたいに思っています。「○○君、どう思う?」というようなことを聞いてきます。これは絶対に言わせてはいけません。さんづけでちゃんと言わせるべきです。こちらも相手を社長と言ってはいけません。さんづけで呼びます。私たちは対等な立場でやっているということを、団体交渉の場でみんなに教えていくこと、これが労使対等だということを、やっぱり体験してもらうということが大切です。そうしないと、労働組合として自立していきません。組合を作ると従業員は、経営者に初めて反抗するわけです。後で何か言われるのではないかと、すごくビビっているわけです。そうした気持ちを、組合ができたら、もう対等だと、○○君とは言わせないようにしないとだめです。こうした対応がなかったら、慣れていない労働者は、すぐに経営者にやられてしまいます。きちんと線を引いて対等になれば、そう簡単には崩れません。自分たちの気持ちの転換をいかに計るかがものすごく大事です。
 イラク反戦でも、日本の運動はヨーロッパに較べて弱い。私が思うのは、自分の一番身近な使用者の不正に対して文句を言わないで黙っている労働者が、なぜ大悪党のブッシュに対して異議申し立てできるのかということです。やっぱり労働運動というのは、飯を食べていかないといけないのだから、自分が生活する時に一番大事なところです。そこで毎日圧力をかけてくる経営者に対して、どれだけ自分の権利を主張できるか、それを抜きには本当の闘い、異議申し立てはできないと思います。これは私の本当の気持ちです。
 長かったですが、これで話を終わらせていただきます。ありがとうございました。
(*二〇〇三年九月六日 京都、キャンパスプラザでの講演を編集しました。)
横山 美樹(よこやま みき)
自治労京都公共サービスユニオン書記次長
自治労京都府本部オルガナイザー