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EXPLANATION 特集解題
●国連女性差別撤廃委員会コメント
 二〇〇三年七月、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)において、日本政府から出された女性差別撤廃に向けた取り組み報告に対し、様々な女性差別の存在を指摘し是正を促すコメントが出されました。そこでは、国内法に差別の明確な定義がないことに懸念を表明、コース別雇用管理制度に表されるような間接差別が根強いこと、パートや派遣労働者に女性が多く一般労働者より賃金が低いことなどを指摘し、男女雇用機会均等法のガイドライン改正を求めるとともに、性別役割分業意識をなくすための教育や啓発活動を勧告しています。一方、DV法については、身体的暴力のみを対象としていることに対し、精神的、あるいは性的暴力などの様々な形態の暴力を含めることを勧告し、また、DVを受けている外国人女性の問題にもふれています。さらに、「従軍慰安婦」問題についても最終的解決のための努力を行うことを求めています。
 その他にも多岐にわたる問題について触れたこのようなコメントが出されたのは、根強い女性差別の実態を訴えるNGOの女性たちのはたらきかけの力が大きく、男女共同参画社会基本法の制定や育児・介護休業法の改正など限られた課題のみを取り上げ成果を主張する日本政府の、女性差別撤廃への消極的な態度が浮き彫りになっています。
●均等待遇を求めて
 二〇〇二年の女性雇用者数は、二一六一万人となり、雇用者総数に占める女性の割合は40・5%に達しています。また、不況下で正規雇用者の割合が減少し、パートや派遣などの非正規雇用者が全体的に増えていますが、その多くは女性です。性別役割分業意識が根強い中、家事・育児・介護などの負担を負っている女性は、「労働の規制緩和」が進められる中で低賃金・無権利の非正規労働に追い込まれています。総務省・就業構造基本調査によれば、二〇〇二年には、女性雇用者中に占める非正規雇用者の割合がついに50%を超えるに至りました。昨年、有期雇用期間の延長や派遣の規制緩和などを盛り込んだ労働基準法・労働者派遣法が改悪されたことにより、今後もさらに非正規雇用者が増大することが予想されます。
 一方、男女差別賃金を訴えた住友電工訴訟における画期的和解もあったものの、根強い「間接差別」の存在や女性の非正規雇用化を背景に、男女間賃金格差も一向に縮小の気配がありません。
女性労働者が安心して働き、男性とともに仕事と家庭の両立をはかっていくためには、性別や雇用形態の違いにかかわらず均等待遇が保障され、労働者自身が働き方を選択できる仕組みを確立していかなければなりません。
●みんなで子育てが可能なシステムを
 二〇〇三年七月には「次世代育成支援対策推進法」が成立しました。これは一〇年間の時限立法であり、地方自治体や企業に、国が策定した指針に即して「地域における子育て支援」「教育環境の整備」「職業生活と家庭生活の両立の推進」などを盛り込んだ行動計画を二〇〇四年度中に策定することを義務付けています。女性の就労促進のために、保育所の整備はもっと進める必要があります。しかし公費を削減して自治体にしわ寄せし、あるいは規制緩和によって民間企業に委託して保育所の待機児童を解消するという政策は、保育の質を大きく落とす危険性があり問題です。また親の就労時間が昼夜を問わず延長・不規則化し、この際限ない労働強化が保育所の延長保育をも余儀なくしていますが、子どもの成長の観点からは、恒常的な保育延長などは問題があります。女性も男性も、仕事も家事も育児もできるような社会システムが必要です。
 また同時に「少子化対策基本法」も成立しました。保育サービスの充実など、評価できるところはあるものの、不妊治療への助成など、子どもを産めない、産まない女性に対する圧力となる内容が盛り込まれました。「子どもを産まない女性に年金は要らない」といった自民党政治家の暴言もあり、「子どもを産め」という圧力は相当に強いものがあります。
 多様な女性のライフスタイルを認め、女性に精神的、身体的負担を今以上にかけないようにすることが必要です。
●ライフスタイルに中立な年金・税制度の確立を
 厚生労働省の社会保障審議会・年金部会は、二〇〇三年九月に「年金制度改正に関する意見」を出し、個人の生き方や働き方の多様性に対応するとして「女性と年金」の問題を盛り込み、短時間労働者への厚生年金の適用拡大や、夫婦間の年金分割案等を提起しました。その後、厚生労働省の改革案ではその内容は維持されたものの、二〇〇四年二月の与党合意では、短時間労働者への適用拡大は財界の反発を受け見送り、年金分割についても、離婚時に配偶者が三号被保険者であった期間に限り認めるというように後退しています。年金分割については、専業主婦の期間が長い女性のほうが受け取る年金額が多くなる可能性がある等女性の就労を抑制することになりかねない問題をはらんでいます。
 税制では、二〇〇三年六月に出された税制調査会答申「少子・高齢社会における税制のあり方」で「税制面で片稼ぎを一方的に優遇する措置を講ずることは適当ではない」として、人的控除の基本構造の見直しにふれています。
 ライフスタイルの多様化が進む中で、個人がどのような生き方を選択しても、不公平な扱いとならないような社会の枠組みの確立が求められています。
●DVの根絶を
 ドメスティック・バイオレンス(DV)の根絶をめざす「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)は、二〇〇一年一〇月からの一部施行、そして二〇〇二年四月に全面施行されてから約二年がたちました。法の施行によって、DVが犯罪であるとの認識は広がり、二〇〇一年一〇月から二〇〇三年三月までの保護命令件数は一五七一件にものぼっています。一方、まだまだ不十分な点が多く、施行後三年をめどとした見直しに向けて、現在議論が行われています。保護命令の対象を元配偶者や子ども、親族等にも拡大する、退去命令の期間を延長する、電話やメールなどによる接近も禁じる、DVの定義に精神的暴力・性的暴力等も含める、被害者の自立支援を明文で規定する等々、多くの課題が指摘されています。
 DVは、女性と男性の経済的・社会的な力関係の不平等から起こる、社会的、構造的な問題です。DVの根絶のためには、DV防止法の早急な整備が必要ですが、それにとどまらず女性の経済的自立、性別役割分業の解消など、女性を取り巻く差別的な社会状況全般の改善を進めていかなければなりません。
●ポルノが蔓延する社会を変えよう
 アダルトビデオ産業は、市場一兆円にまで成長したといわれています。ビデオだけでなく、漫画、インターネットなどにより、女性の人格を無視し、性的対象としてモノ化するポルノは、女性差別意識を男性に植え付けるものとして機能しています。ポルノ被害については、被害者が名乗りを上げることが難しいことから、公になることはありませんが、ビデオ製作現場で、殴る、蹴る、火をつけるといったすさまじい暴力が行使されていることが、サイト等から明らかとなっています。またドメスティック・バイオレンスの一つの形態として、ポルノを無理やり見させられる、ビデオと同じことをさせられるといったことが報告されています。ポルノの存在は、女性に対する暴力を、より増大させる効果を実際に果たしているといえるでしょう。
 このようなポルノの規制については、他の表現行為に対する規制につながるおそれがあるとして、反対論が根強くあります。しかし、とりわけ日本の現状では、女性差別そのもののポルノが氾濫しており、これらに関してはなくす必要があります。また、差別性の無い、人間を賛美する性表現一般であっても、それらを公然と表現することは環境型のセクシュアルハラスメントとなりますから、一定の規制が必要でしょう。
●女性の政治参加の促進を
 二〇〇三年一一月に行われた総選挙では、女性議員は三四人、全体の7・1%にとどまりました。一方、同年四月に行われた統一地方選挙では女性議員は四六〇四人、総定数の7・6%で過去最高となりました。しかし、いずれにしても一割にもみたず、世界的に見ても、女性議員の割合は圧倒的に低い水準にあります。国や地方のあり方を決めていく議会の場において女性の割合がこんなに少なくては、男女平等を推し進めていくことは困難です。女性議員を増やしていく取り組みが必要となっています。
●男女平等条例の制定を
 男女共同参画社会基本法の制定を受けて、地方自治体で制定が進められた男女共同参画に関する条例は、二〇〇四年一月末現在四四都道府県一七九市区町村で制定されています。しかし、「新しい歴史教科書をつくる会」などの右翼勢力によるバックラッシュが顕著となり、男女平等やジェンダーフリーの考え方を、家族の絆を否定し国を滅ぼす思想として攻撃を強めているため、新規の条例制定は足踏み状態となっており、そればかりか、山口県宇部市のように、男女性別役割分業を肯定し専業主婦を大切にすべきといったような、基本法の趣旨とまったく矛盾する条例が制定されてしまった例もあります。
 女性も男性もともに、性別役割分業にとらわれることなく一人の人間として尊重される社会をつくるために、すべての自治体で男女平等条例が制定されることが必要です。
(女性問題研究会・関西 Email:jmk03equity@msn.com)