HOME雑誌・書籍・店舗第4号目次 > 第4号 特集・とりくみ紹介「しんぐるまざあず☆ふぉーらむ」
とりくみ紹介
「しんぐるまざあず☆ふぉーらむ」
「家族」の形がどんどん変化している現代、ひとり親家庭、とりわけ母子家庭の数はますます増えている。一九九八年の厚生労働省による調査では、全国の母子世帯の数は約九五万世帯で、その五年前の調査よりも六千世帯の増加である。
 私たち「NPO法人しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」は、シングルマザーの当事者団体として、これまでさまざまな活動を行ってきた。もともとは、一九八四年、児童扶養手当が改悪されると知って集まった女たちが結成した、「児童扶養手当改悪に反対する大阪連絡会(通称、児扶連大阪)」が、その後さらに京都、兵庫も加えて児扶連関西となり、細々と行政に対する申し入れや働きかけなどを行ってきたものである。このような運動を進めてきたのは、もちろん関西の女たちだけではなく、東京で同じように活動していたグループに誘われ、去年の春、NPO法人として新たなスタートをきった。現在は東京、大阪、福岡に拠点をもち、今後さらに多くの都市に活動の場が広がりそうな勢いである。
 さて、二〇〇二年、またまた児童扶養手当法など関連法の大改悪が敢行された。今回の改悪には、大きく三つの柱がある。まず一つ目は、児童扶養手当の大幅な削減である。子どもがひとりの場合、月額四万二千円の手当を満額受け取ることができる年収の上限が、現行の二〇四万八千円未満から一三〇万円未満になり、年収が一万円上がるごとに手当は削られ、支給額は年収によって一〇円刻みとなった。二つ目は養育費の扱いである。児童扶養手当を計算するための年収に、子どもの父親からの養育費の80%を算入することが決まった。これは、何をもって養育費とみなすのかについて各地の行政窓口で意思の統一が徹底されておらず、さまざまな混乱を生んだ。もう少しで人権侵害も甚だしい書類が使用されるところを、私たちの活動により、直前で食い止めた事実もある。もっとも、これも地域によってはすでに配付され、大慌てで回収する失態を見せたところもあった。そして三つ目が、これまで子どもが一八歳の年度末まで支給されていた児童扶養手当の受給期間が、五年を超えると最大半額まで減額されるというものである。今回の法改悪では、母親の就労義務が強調されている。これは、母子家庭になってから五年の間に暮らしの建て直しを迫られるものである。しかし、五年で暮らしが楽になる保証などどこにあるのか。むしろ、不況でますます厳しい世の中にあって、小さな子どもを抱える母子家庭の生活は綱渡りのようなものである。子どもが熱を出したので一日仕事を休んだらクビになった、という話も聞く。そんな実情の中での五年で最大半額である。
 母子寡婦福祉法では、子育て支援、就労支援、貸付金事業の強化がうたわれている。それを受けて、各自治体では具体的な支援策を進めなければならなくなっている。私たちは、全国の主な都道府県、政令指定都市、中核都市にアンケートを実施した。しかしながら、その結果は、現状ではとても推進しているとは言い難いものであった。日本のシングルマザーは約85%が就労しており、これは先進国中でもっとも高い。しかも、そのほとんどが不安定なパートか派遣社員である。さらに、パートを二つも三つも掛け持ちして、やっと日々の暮らしを成り立たせているのが現状である。病児を預かる保育所は現在のところなく、やっと熱が下がったからと病後児保育に預けようとしても市内に一か所、そこへ連れて行くためにやはり午前中は会社を休むはめになる。そんな日常の中で、子どもの健やかな成長を願い、必死になって毎日働いているのである。
 しんぐるまざぁず・ふぉーらむは、大阪府や市の母子家庭自立促進計画の検討委員として当事者ならではの提言をするなど、行政と協力してできることには積極的に取り組んでいきたいと思っている。また、私たち自身でもシングルマザーの雇用促進の一助となるよう、独自の事業も進めている。その一つが、点訳事業である。点訳は、パソコンを使って自宅でも可能なので、小さい子どもを抱えたシングルマザーでも働くことができる。今は、プロの点訳者を養成するための点訳講習会を開催している段階だが、今後は営業活動も行い、大きく事業の場を広げていくことが可能だと考えている。
 もう一つの事業がシングルマザー当事者によるシングルマザーのサポート活動である。事務所にはさまざまな相談や悩みが寄せられる。それらに的確に対応し、ふさわしい解決策を示すことができるような、プロの相談者、しかも同じシングルマザーとして深い共感を基調に共に考えることのできる人材を養成していきたい。そのためのサポーター講座も現在推進中である。弁護士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、大学教授等の講師による講座を開催している。この講座を終了したシングルマザーがまた講師となり、シングルマザーの実体験に基づく話を講演しに行く。また、これら講師を組み合わせた連続講座の企画を、女性センターや行政に対して提案していきたいとも考えている。
 シングルマザーはこれまで、マイノリティとして弱い立場に置かれ、さまざまな社会のしわ寄せを受けてきた。これらを是正していくために声を大にして訴え、国や行政に働きかけていくことはもちろんであるが、今後は、私たち自身ももっと力をつけ、シングルマザーならではのパワーを社会にアピールしていけるような、そんな新しい形の運動体としても活動していきたいと思っている。
大森順子さん(大阪)