HOME雑誌・書籍・店舗第4号目次 > 第4号 特集論文「女性の政治参加」
女性の政治参加
1 はじめに
「政治の世界」は、男性の社会である。
 男性の社会であったが、今、少しずつ変わりつつあると言った方が正確か。
「女性であること」は、政治の世界で生きるうえで、ハンディがある反面、今まであまり反映されてこなかった視点を提起できるという点で大きな可能性も持っている。そして考えてみれば、これは会社やメディア、様々な組織、そしてこの社会で生きる多くの女性に共通することである。
 差別があるために生きにくい。しかし、「マイノリティー」であるために、あるときはチヤホヤされることもある。そして「女性である」ということは、この社会では、「男言葉」と「女言葉」の二つの言葉を使えるということでもある。バイリンガルであるからこそ活躍の場が二倍広がるという気もしている。
 ともあれ政治という「意思決定の場」で重要なことが決められることは確かである。国会ではイラク派兵の基本計画の承認から有事立法、国の税金の使い道、を決める。最終的には、憲法改正の発議だってできるのだ。地方議会でも教育、福祉、街作り・・・、重要なことを決める。そのような場面に一方の「性」の人間ばかりがいること自体、人々の声を反映しにくいと言える。「男性の、男性による、男性のための政治」から「男女の、男女による、男女のための政治」へ。
 現状と、女性が増えることで何が変わるか、これから何が必要かを検討したい。

2 現状
 衆議院議員は三四人で七・一%であり、参議院議員は三六人で一四・六%である。世界の中では、衆議院(下院)の女性の割合の順位は一三四位、参議院(上院)の順位は二九位である。
 二〇〇三年の統一自治体選挙の結果、道府県議は一六四人、政令指定都市市議は一三四人、一般市議は一二三三人、特別区議は一八五人、町村議は一〇三四人であり、合計二七五〇人であり、女性の割合は八・六%である。ちなみに当選率は七八・五%である。
 二〇〇三年七月で、女性の知事は四人で、副知事は六人であり、市(区)長は七人で町長は六人、村長は一人である。
 増加していること、女性の首長が増えていることは確かだが、まだ、女性地方議員、衆議院の女性議員は一割にも達していない。
3 女性が増えることで何が変わるか
 一番重要な事は政策の優先順位が変わることである。ジェンダーのメインストリーム化が起きる。
 一九九九年、男女共同参画社会基本法が制定され、職場におけるセクシャルハラスメントを防止するための配慮を事業主に義務付ける。雇用機会均等法の改正や、育児休業取得を理由とする不利益取扱いを禁止する育児・介護休業法の改正、さらには二〇〇一年の配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の制定(なお二〇〇四年春に改正案を上程する)など、最近の立法を見ても、いずれも女性の国会議員が熱心に成立させたものである。いわゆるドメスティック・バイオレンス防止法は、参議院の超党派の女性議員(男性もいたが)が力を結集して作ったもので、女性が国会の中にある程度進出してはじめて、「女性への暴力」が人権問題であることを男性たちにも説得し、立法化できたものである。

4 不要なものは何か、そして必要なものは何か
 まず第一に選挙制度が問題である。
 特に国会議員の数がヨーロッパや他の国と比べて比較にならないくらい低く、現在も伸び悩んでいる最大の理由は選挙制度である。
 二〇〇三年の衆議院選挙で、女性の当選率は小選挙区として過去最高の二二・八%を記録した。しかし「ジバン、カンバン、カバン」を持つことが容易でない女性にとって、小選挙区でトップにならなければならないことは困難を伴う。男性の議員の妻が、地元を守り、夫の代わりに挨拶に回るということがよくあるが、女性の場合はあまりそうならない。また参議院の全国比例区は、六年前の選挙までは、各党が順位をつけるというものであった。ここでクォーター制が採用されれば、女性は多く当選できる。北欧やドイツなどで女性の国会議員が増加したのは、このことが大きい。私も六年前に社民党の一位に名簿搭載されたので、当選することができた。三年前の参議院選挙から、その党の中で個人名の票が多い順から当選できるようになった。「大きな票田、大きなお金」を持ち、その人の持つ組織がフル回転しなければ当選できなくなった。市民派の女性は極めて通りにくくなったと言える。このような選挙制度は女性の国会進出を阻んでいる。
 第二に、何らかの形でクォーター制を導入することである。
 フランスは一九九九年、パリテ法を制定した。比例代表で行われるすべての選挙で、男女同数候補を政党に義務づけた。県議会と上院の小選挙区部分だけはパリテ法の適用を免れている。フランスは、ヨーロッパのなかで政治への女性の参画が遅れていたため、荒療治としてパリテ法を成立させたと言える。
 ノルウェーやスウェーデン、ドイツ、オーストリア、スペイン等は比例代表制をとり、かつ各政党が早い時期から自主的にクォーター制を実施してきたため、女性が半分から三〇%前後存在している。ベルギーも国政選挙で各政党の三分の一を女性にすることを義務づける法律を制定している。
 第三に、各地でバックアップ・スクールなどが女性たちの熱意で開かれ、そこから立候補者が出て、当選している。各地でもっと開かれれば、もっと増えていくだろう。
 第四に、女性のための環境整備も必要である。
 国会の中に保育所を作ろうというプランは、今、足踏みしているが、女性の専用トイレが少なかったことなども改善されてきた(!)。
 私が立候補を決意したとき、私の子どもは小学生だった。育児をしながら国会に通うことは大変である。地元に夫と子どもを置いて、単身赴任して宿舎で暮らす女性議員たちを見ていると、子どもと一緒に暮らしたいだろうなあと思った。
 子育てをすることは楽しいし、政策の面でも大いに反映できる。私は子育てをしながら議員でいることはラッキーでとても良かったと思っているが、それでも子どもが健康であるとか、パートナーとの協力とか、恵まれた条件がなければやってこれなかっただろう。
 介護を抱えている女性は、なかなか立候補できない。社会の環境整備がないとやはり女性は参画できない。
5 これから
 男女共同参画会議は二〇二〇年、指導的地位の女性を三〇%にという目標値を設定した。二〇〇三年七月、日本は女性の政治参画の遅れを克服するべく女性差別撤廃委員会から勧告を受けている。人口や有権者の半分は女性なのだから半分になることが理想だろう。
 ところで北欧に「平和と平等は手を携えてやってくる」というステキな言葉がある。今は「戦争と差別・排外主義が手を携えてやってくる」という時代になっているのではないか。有事立法の制定、イラクへの派兵、憲法改悪に向けた急ピッチな動きとジェンダー・バッシングはつながっている。国家主義的なものに対抗し、一人一人の自己決定権などを大事にする男女平等の動きをもっと作り、女性たちが、あらゆる場面で、とりわけ政治の場面で「平和と平等」のためにがんばることが本当に必要な時代になっている。
福島 瑞穂(ふくしま みずほ)
参議院議員(社会民主党)・弁護士
一九五五年 宮崎県延岡市生まれ   一九八〇年 東京大学法学部卒業
一九八七年 弁護士登録。第二東京弁護士会所属弁護士として夫婦別姓選択制、婚外子差別、外国人差別、セクシャル・ハラスメントなどに取り組む。日弁連両性の平等に関する委員会委員、川崎市男女平等推進協議会会長、東京都エイズ専門家会議委員などを歴任。
一九九八年七月社会民主党から参議院比例代表第一位で当選。現在、参議院議員第一期目。社民党では、広報委員長を経て、二〇〇一年一〇月に幹事長、二〇〇三年一一月に党首に就任。神奈川県連合代表を兼任。国会では環境・人権・女性・平和を四本柱に据え幅広く活動中。最近では名古屋刑務所の受刑者への暴行事件、超党派で成立させたドメスティック・バイオレンス防止法や、児童虐待防止法の改正に積極的に取り組んでいる。その他の主なテーマは、夫婦別姓選択制導入や婚外子差別撤廃を盛り込んだ民法改正案の実現、自然エネルギー促進法案、内部告発者保護法案の立法化、有事法制反対と平和問題、盗聴法廃止、被拘禁者・外国人の人権擁護など。
学習院女子大学客員教授、「女性の家HELP」協力弁護士も務める。
  →福島みずほと一緒に国会へ行こう (福島みずほ公式ホームページ) http://www.mizuhoto.org/