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STOP! プルサーマル
プルサーマルは「ストーブの灯油にガソリンをまぜて燃やすようなもの」
 日本各地の原発で計画されているプルサーマル。いったい何のために行われようとしているのか? その危険性は?
 アイリーン・美緒子・スミスさん(グリーン・アクション)にお話をうかがいながら、アジェンダ編集部でまとめてみました。
●プルサーマル計画とは?
 プルサーマル計画とは、ウラン燃料のみを使用するために設計された既存の原子力発電所(軽水炉と呼ばれる)で、ウランにプルトニウムを混ぜた特殊な燃料を使う計画です。この燃料はプルトニウム・ウラン混合酸化物で「MOX燃料」(Mixed OXide)と言います。
 日本の電力会社は一九九九年までにプルサーマル計画をはじめ、二〇一〇年までに一六〜一八基の原発でMOX燃料を利用する計画を立てていましたが、これらMOX燃料利用計画は一九九九年一二月のイギリスのBNFL社によるMOX燃料のデータねつ造事件や、二〇〇一年五月に行われた新潟県刈羽村の住民投票でプルサーマル反対の結果が出たことなどで頓挫しています。プルサーマル計画の先行実施が予定されている福井県(高浜四号機)、福島県(福島三号機)、新潟県(柏崎刈羽)では、住民が抵抗してくい止めていますが、国や電力会社は国民や住民の合意なしに強行しようとしています。九州電力や四国電力でも計画があり、また関電はこの秋にMOX製造の本契約を結ぼうとしています。(八月末現在、美浜原発事故で福井県知事が凍結中。)

●プルサーマルはウラン燃料の場合よりもさらに危険!
 通常の原発はウラン燃料を用いた発電を想定して設計されています。ですから「プルサーマルは、ストーブで灯油にガソリンを混ぜてもやすようなもの。」原発は、日常的な放射能漏れや原発労働者の被爆、炉心溶融(メルトダウン)などで大規模に放射能がばら撒かれる可能性があるわけですが、プルサーマルでは事故の危険性がさらに高まります。
@原発のブレーキ(制御棒)の効きが悪くなる
 プルトニウムはウランよりも中性子を吸収しやすいために、制御棒に吸収される中性子の数が減って効きが悪くなります。つまり発熱しすぎても止めにくくなり、「炉心溶融」の危険が高くなるのです。そもそもプルトニウムの融点はウランよりも数十度低く、また中性子と反応しやすいためMOX燃料棒の出力―温度が上昇しやすいので、「炉心溶融」までの「余裕」が少なくなり、メルトダウンの危険性が高くなります。
A原子炉の出力が不安定になりコントロールが難しくなる
 また原子炉の圧力が上昇するような異常が生じた場合、プルトニウムの特性から、従来のウラン燃料の場合よりも出力が大きくなる傾向にあります。これも事故の危険性が高くなります。
B放射性ガスの環境中への放出量が増える
 燃料にプルトニウムが混ざっている場合の方が、ウランだけの場合よりも毒性の強い放射性物質が炉心に含まれる割合が、五倍から二二倍高いとされています。また放射性ガスが炉内にたまる割合も多くなります。放射能漏れ事故が起きた場合の人体へのリスクは、原発の場合の四倍にもなるといわれています。
 しかしこれらの危険性に対して原子力安全委員会などは、「放射能漏れ事故はおこらない、だからウラン燃料と安全性は同じなのだ」という、まやかしの論理を主張しています。また電力会社は「普通の原発で燃やしていてもウランがプルトニウムに変わるので、普通の原発でもすでに中にプルトニウムを入れて燃やしているのだ、だからプルサーマルは何も新しいことではない」と主張していますが、プルサーマルの場合のプルトニウムの偏在の仕方や濃度の高さは桁違いで、まったく違うものです。
 ただでさえ危険な原発に輪をかけて危険なプルサーマルを実施するのは言語道断です。
●「資源の有効利用」のウソ
 なぜ、これほど危険なプルサーマルを行うのか? 日本の一〇電力会社の連合である電気事業連合会は、プルサーマルの理由を次のように説明しています。「プルトニウムは、ウラン燃料の節約と有効利用との考えから原子燃料として利用しますが、その際、国際的な協調のもと、計画の透明性を確保し、余剰のプルトニウムは持たないということを、日本は世界に公約しています。プルサーマルは、現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法といえます。」ここでは最初に「資源の有効利用のため」と説明されていますが、市民団体と関西電力との交渉の中で、それがデタラメであることがわかりました。


2004.2.14付「福井新聞」掲載の関電広告より

@プルサーマルで「ウラン利用年数は数倍から数十倍延びる」と宣伝がされているが、実際には「世界の全原発(約四三〇基)でプルサーマルを実施して、ウランの可採年数は一・一倍のびる」。
A関西電力の核燃料サイクル図ではMOX燃料が何回もリサイクルされるかのようだが、図の「再処理工場」は六ヶ所のではなく、具体的な計画すらない「第二再処理工場」のことで、仮定に過ぎない施設を前提にしたもの。また第二再処理工場は「バックエンド(最終処分)費用」一八・八兆円の中にも含まれず、MOX燃料リサイクルにはこの何倍ものお金がかかる。
B「使用済み燃料の九〇%以上が活用できる」と宣伝しながら、これまで英仏で再処理して回収したウラン一九六〇トンのうち一割しか使っておらず、今後使う計画もほとんどない。しかも回収ウランのほとんどである劣化ウラン(ウラン二三八)は「高速増殖炉がなく使えない」と米国に無償で譲渡。イラク戦争で大量に用いられた劣化ウラン弾に使用された疑いもある。
 つまり、プルサーマルは「資源の有効利用のため」という大義名分は、虚偽であったことがはっきりしたのです。


関電パンフレット「エネルギー資源のリサイクル プルサーマル計画」より

●どうしてわざわざ危険なプルサーマルを行うのか?
 それではなぜプルサーマルを行おうとするのか? 先ほどの電気事業連合会の説明の後半に「余剰のプルトニウムを持たない」「確実な利用方法」と書かれていますが、このあたりに本音があらわれています。
 原発でウラン燃料を燃やしてできた放射能のきわめて高い危険なゴミはたまり続ける一方で、すでに各原発の貯蔵プールもいっぱいになってきています。これを再処理する施設をつくって、核燃料サイクルを完成させたい、その際、再処理して取り出されたプルトニウムをただ持っていると核兵器開発と疑われるので、「燃料用だ」と主張するためにプルサーマルを行う、と説明しているのです。日本がもし軍事的な観点から核兵器開発も可能なようにしておこうと考えているのなら、そのようなことは当然許されません。また単純に発電のためだとしても、住民の安全を顧みず危険なプルサーマルを強行することは認められません。
 以下、アイリーン・スミスさんに解説していただきました。
「一つの発電所から、広島に降った死の灰の一〇〇〇倍くらいの大量の放射性のゴミが毎年出てきます。五〇基あれば毎年五万倍出てくるわけです。廃棄物問題をまともに考えると原発は不可能ですが、それを承知の上でゴミ対策無しで始めた。そしてゴミ問題が山積してくるとできるだけ後回し、時間稼ぎする方法を考え、そこで核燃サイクルが登場するのです。
『資源であるプルトニウムを再処理して取り出す』という名目がたてば、やっかいなゴミを外国に送れる。しかし体積が何倍にも増えて返ってきてしまう。もともと高速増殖炉の燃料にするとしてきたが実用化のめどはたたない。そもそも原子力の『本番』は『燃えないウランをプルトニウムに変え、プルトニウムを燃やす高速増殖炉』で、いま世界中にある四〇〇基の軽水炉の原発は、採掘されたウランのごく少量しか燃やせないのでいわば『暫定版』。でも高速増殖炉はあまりにも危険で技術的に難しく、商業的にはとても見合わないので実用化しない。だから電力会社は暫定版を『原子力発電』と称してやっているわけです。
 結局、対応策がないまま『先送り・後回し』でやってきて、ついに外国から再処理されたプルトニウムが帰ってきてしまい、そのプルトニウムが必要なのだという看板がプルサーマルになっているわけです。
 だから本当は『後回し』のためなのだけれど、それをごまかすために『資源の有効利用』と宣伝している。これは中間貯蔵と同じゴミの押し付けです。中間貯蔵よりも巧妙に装っていて、しかも原発現地にゴミまで押し付ける大変卑怯なものです。つまりゴミ問題先送りのつじつま合わせで、原発のある地元にゴミを押し付けるのがプルサーマルなのです。」
●BNFLデータねつ造事件の背景―採算があわないMOX燃料製造
 この、ただでさえ危険なプルサーマルを、一九九九年、関西電力と政府はMOX燃料ペレットの品質管理が異常だというデータを知りながら故意に隠して、そのまま問題の燃料ペレットを使って福井でプルサーマルを開始しようとしました。二〇〇万以上のペレットの膨大な資料の分析を通じてこれを暴いた「美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)」と「グリーン・アクション」は、二一二人の市民で起こした「MOX燃料装荷差し止め仮処分裁判」で勝利、福井県でのプルサーマルを水際で食い止めました。当時の関電の担当部長はいまだに先頭でプルサーマルを推進、まったく反省がありません。
「燃料ペレットは同じ大きさに削ってそろえる必要があります。ウラン燃料は水を流しながら削るときれいに削れるのですが、MOX燃料の場合プルトニウムが入っているため臨界の心配があり、水を使うことができずサイズをそろえにくい。だから時間とコストがかかり過ぎて採算が合わない。それでねつ造が起きる。このBNFL事件とは、品質管理で通らない燃料をインチキして押し通したという話です。プルサーマル燃料を商業的につくることがいかに困難かということがわかります。」(アイリーン・スミスさん談)
 福井県知事は美浜原発事故を受けてプルサーマルを一時凍結しましたが、危険なプルサーマルを実施させないためには、私たち市民の日常的な声や行動が必要なのではないでしょうか。
※「グリーン・アクション」と「美浜の会」の出版物・サイトなどの資料を参照しました。
グリーン・アクションURL
http://www.greenaction-japan.org
美浜の会URL
http://www.jca.apc.org/mihama/
(文責 編集部員 藤井悦子)