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キューバ 改正家族法の成立

先月末の9月25日(日)、家族法の改正案の是非を問う国民投票が行われ、賛成多数で可決しました。翌26日にディアスカネル大統領とエステバン・ラソ人民権力全国議会議長が署名し、27日(火)に官報に掲載されて発効となりました。

今回はこの改正について取り上げます。家族法の改正の動きと内容については、第46回配信記事の「家族法の改正へ向けて」(2022年2月27日)でも取り上げていますので、そちらもご参照ください。

(1)国民投票の結果

国民投票の最終結果は以下のとおりです。データは全国選挙委員会(CEN)10月4日公表。 

有権者数 845万7978人
投票者数 626万9427人 投票率 74.12% 投票は海外からも実施。
有効票数 590万9385票(94.25%)
賛成票 395万288票(66.85%)
反対票 195万9097票(33.15%)
白票 20万2164票(3.22%)
無効票 15万7878票(2.51%)

今回の国民投票の設問は、「あなたは、家族法(改正)に同意しますか?」というものでした。

25日の国民投票のわずか2日後の27日には、キューバの西部にハリケーン「イアン」が上陸、多数の家屋倒壊や全土での停電が発生するなど、大きな被害をもたらしました。国民投票の最終結果の公表が遅れたのもそれが原因と言われています。

(2)改正家族法での大きな変化

国民投票で承認された家族法改正の最終案は25版目に相当し、7月22日に人民権力全国議会(国会)で採択されたものです。

新しい家族法は、全体が11章に分かれ、474条から構成されています。その他に移行措置や最終措置などが含まれています。

法案成立による大きな変化としては、日本のメディアでも報道されていましたが、同性婚が合法化されたことです。キューバは、世界で33番目の同性婚が認められた国・地域となりました(NPO法人EMA日本のサイトより 2022年10月時点)

改正家族法の第2条(家族の承認)2項では、「様々な形の家族組織は、愛情関係に基づいて、姻戚の性質に関わらず姻戚間、配偶者または事実上のカップルの間で作られる。」と規定されています。

「姻戚」については第16条に規定があり、姻戚関係とは「同じ一つの家族の構成員となる2人の間に存在する法的関係」として、結婚や事実婚などを根拠にしています。

他には、LGBTカップルによる子どもの養子縁組の承認、非営利での代理出産の承認などが規定されています。

それ以外にも、離婚に際しての未成年者や祖父母の間の連絡を保護したり、子どもの親権、資産の分配、相続などの面で家族内で権利を侵害する者への罰則を認めるなど、子どもや高齢者の権利保護についても多岐にわたって規定しています。

(3)法改正についての評価

「家族法は、すべての人とすべての家族の権利を広く保障するのに貢献しています。ジェンダー間、世代間の関係をより一層民主化することに寄与しています。」と、国立性教育研究センター所長のマリエラ・カストロさんは、国民投票の前にスペインのEFE通信社にコメントしていました。マリエラさんは、国会議員としてもキューバにおける同性婚の合法化に向けて活動を続けてきました。

キューバの俳優でLGBTの権利擁護の活動を行っているダニエル・トリアナさん(25歳)は、BBCの取材に対して「ついにキューバで、数多くの同性愛者たちの愛、婚姻、人生の正当性が法的に認められたことは、嬉しく、私と私のコミュニティの人々の存在すべてを取り戻すものです。」と答えています。

その一方で、キューバ司教会議(カトリック教会の組織)は、「法案の条文の多くが支持している、いわゆる『ジェンダー・イデオロギー』の内容を法律に導入することはキューバの家族に利益をもたらさない。」とウェブサイトに反対の声明を公表していました。

特に、同性婚、同性カップルによる養子縁組、代理出産に関して、カトリックの信仰や価値観に反すると考えています。

ただし、家庭内暴力を規制したり、高齢者と未成年者の権利の保護に関連する条文については支持する考えを示しています。

また、家族法改正に反対する人々は、ツイッターで「#YoVotoNo」(私は反対に投票する)、「#CodigoNO」(改正法反対)のハッシュタグを付けて「反対」の意を表明していました。その理由の中には、現在のキューバ社会が直面している経済的な苦境に対する不満や国民投票の透明性に対する疑問などが含まれています。

これらは、政府が進める家族法改正「賛成キャンペーン」に対して、政治的意見の表明としてあえて「反対」を掲げている側面があるとされています。

国民投票前には、テレビ・ラジオや新聞などを介して幅広い「賛成」キャンペーンが行われていました。SNSでも「#YoVotoSi」(私は賛成に投票する)、「#CodigoSi」(改正法賛成)のハッシュタグをつけたメッセージが拡散されました。

先のダニエル・トリアナさんは「体制とは意見を異にしている。私たちは家族法改正を支持するが、非常にデリケートな政治的・倫理的立場にある。」と、政府とは一線を画す立場にあることをBBCの記事の中で語っています。

革命後に同性愛者の人権が抑圧されてきたかつての歴史を踏まえれば、今回の法改正はLGBTの人権擁護の観点からは「前進」として評価されるべきだとは思います。その上で、以前から続いている経済面での苦境からいかに脱していくのか、政府の政策の有効性を含めて評価していくことが必要ではないでしょうか。

参照記事 BBC News Mundo配信記事「家族法:キューバでの同性婚の合法化に向けて議論となった規則」(2022年9月23日 同月26日更新)

2022年10月24日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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