に投稿

ベネズエラ 大統領選挙をめぐる動向

7月28日、ベネズエラで大統領選挙が行われました。その結果をめぐって国内では政権与党を支持する勢力とこれに対抗する野党勢力との間で対立が起こっています。この記事を書いている時点(8月15日)で何らかの決着を見ているわけではありませんが、大統領選挙の結果をめぐって何が起こっているのかを少しまとめてみたいと思います。但しすべての情報に触れているわけではないのであくまでも「暫定的」なまとめであることをあらかじめお断りしておきます。

(1)大統領選挙の「結果」

大統領選挙の「結果」についてはベネズエラの全国選挙管理委員会(CNE)が28日深夜(29日午前0時)、開票率80%時点の結果として、以下のことを公表しました。

ニコラス・マドゥーロ候補(現大統領)の得票数515万92票、得票率51.2%、野党側の最有力候補エドムンド・ゴンサレス氏の得票数444万5978票、得票率44.2%、その他野党8人の候補の合計得票数が46万2704票、得票率4.6%、投票の傾向が「強力かつ不可逆的」であるとしてマドゥーロ候補の当選(3期目)が確定としました。ちなみに投票率は59%でした。

CNEのエルビス・アモロソ委員長は結果発表の会見時に、公表が遅れた理由について、投票データの送信において「テロ攻撃」を受けたと説明しました。これにより選挙センターから集計センターへの選挙データの送信が妨害されたとしています。

マドゥーロ大統領も「全国選挙管理委員会のシステムに対する大規模なハッキング」があったと述べています。

ベネズエラの投票システムは、電子投票で行われます。その際、投票者は指紋認証を受けたのち、自分が投票する候補者を選択したのち、選んだ候補者と政党名が記載されたチケットが機械から印刷されます。そのチケットを投票箱に入れるという手順になっています。

投票した記録については、集計用紙の原本などが機械で印刷されて保存される仕組みとなっています。データを照合すれば、投票所ごとに有権者の投票行動を確認することが可能となっています。

また法律では、選挙後 48 時間以内に基礎自治体や選挙センター、各投票所での集計結果を完了することが義務付けられています。しかしその後も詳細な結果は公表されていません。

このCNEの結果発表に対して、主要野党であるゴンサレス候補陣営(民主統一プラットフォーム、PUD)は、「不正選挙であった」と非難し、ゴンサレス候補が70%の票を獲得して勝利したと宣言しました。

のちに入手したとする選挙記録(選挙記録の約82%のデータと述べている)をウェブ上で公表しました。

それによると、ゴンサレス候補の得票数730万3480票、得票率67.08%、マドゥーロ候補の得票数331万6142票、得票率30.46%、その他野党8人の候補の合計得票数が26万7640票、得票率2%という結果で、ゴンサレス候補が勝利したと繰り返し主張して、引き続き全国的に抗議行動を呼びかけています。

先にも述べたように、今回の選挙について、各投票センターの投票記録をCNEが公表していないため、PUD側が公表した記録データとの照合を行うことができていません。

今回の選挙には国際的な監視団も参加しました。CNEの結果を正当なものとして認めている機関もありますが、米国のカーターセンターは「ベネズエラの2024年大統領選挙は、選挙の完全性に関する国際的なパラメーターと基準に対応しておらず、民主的とは考えられない」として「疑義」を表明しています(7月30日)。

一方で、5名の選挙監視員から成る代表団を派遣した全米法律家組合(National Lawyers Guild)は、選挙の翌日(7月29日)に「正当性、投票へのアクセス、多元主義に細心の注意を払いながら、透明で公正な投票プロセスを観察した」とする声明を公表しました。

さらに、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の反応としては、マドゥーロ候補の勝利を認める国、反対にPUD側の勝利を認める国のほかに、選挙結果の公表を求めている国があります。

その中で、コロンビアのペトロ大統領やブラジルのルーラ大統領、メキシコのロペス・オブラドール大統領などは選挙記録の公開を求めていました。しかし、コロンビアとブラジル両国の大統領はその後、選挙のやり直しを要請するに至っています。

これに対して、メキシコのロペス・オブラドール大統領は、「ベネズエラ国民が解決すべき事柄について、誰であれ、われわれ部外者や外国政府が意見を述べるのは賢明とは思えない」と発言しています。

つまり、再選挙の実施ではなく、いま行われている最高裁での審議の結果を待って、慎重に行動することを訴えています。※最高裁での審議については(2)で説明します。

オブラドール大統領は、マドゥーロ候補の勝利を認めていませんが、ゴンサレス候補の勝利を認める各国政府や機関についても批判しています。

「私たちはどちらか一方に賛成しているわけではない。私たちが望んでいるのは、結果が公表され、選挙が行われた国の管轄当局が決定を下すことである。・・・私たちが求める唯一のことは、すべてが平和的に解決されること、暴力も弾圧もなく、すべてが平和であることである」とオブラドール大統領は述べています。

一方、米国のバイデン大統領は、「マドゥーロ(候補)がベネズエラ選挙の勝者であると宣言したのは間違いである」と発言して、野党のゴンサレス候補を支持する姿勢を示しました(8月15日)。

(2)選挙結果の認定をめぐる動き

7月31日、マドゥーロ大統領は、最高裁判所(TSJ)選挙法廷に一連の選挙プロセスを検証するために調査を行うように求める訴えを起こし、最高裁がこれを受理しました。

最高裁は、大統領選に参加した10名の候補者と38の政党代表に対して、8月2日に選挙法廷に出席すること、各自の投票関連文書や記録を提出するように命じました。同じく順次公聴会も開かれることになりました(日程は8月7、8、9日の3日間)。

8月2日の選挙法廷には、10名の候補者のうち、エドムンド・ゴンサレス候補を除く9名が出席しました。また、出席した9名の候補者のうち、エンリケ・マルケス候補は検証に必要な証拠と証明書を提示して協力する旨の書面にサインしませんでした(マドゥーロ大統領を含めた8名は最高裁の協定文書に署名)。

また、選挙法廷はCNEに対して、票の集計記録、最終集計記録、判定記録、当選者の布告といった文書を3日以内に提出するよう求めました。また、サイバー攻撃に関する文書を受け取るためにCNEの事務所を開放することも決定しました(期間は8月5日から11日までの間、24時間開放する)。

同じ8月2日にCNEから選挙の第2次結果が公表されました。それによると、投票記録のほぼ97%が精査された結果、マドゥーロ候補の得票率は51.95%(得票数640万8844票)に対し、ゴンサレス候補の得票率は43.18%(得票数532万6104票)となっています。※残りの8名については省略。

その後、8月7日の公聴会への呼び出しを受けたPUDのゴンサレス候補は出席せず、PUD傘下の3政党の代表は出席したものの、投票結果の資料の提出を拒否しました。最終的に、提出を求められた38の政党のうち、資料を提出したのは33政党でした。

公聴会が終了したのち、最高裁が行う手続きのために出廷しなかったのはゴンサレス候補だけでした。ゴンサレス候補は声明の中で、適正手続きに違反する行為に参加することになるため、最高裁判所には出廷しないことを明言していました。このほか、出廷したものの資料の提出を行わなかった候補者が2名いたことも報じられています(エンリケ・マルケス候補とアントニオ・エカリ候補)。

一連の公聴会などを経て最高裁は、8月15日、今回の大統領選挙の候補者と政党が提出した書類について「専門調査」を実施すると報告しました。

こうした中、ゴンサレス候補を支持する野党勢力は、8月17日に首都カラカスで抗議の街頭行動を行いました。これに呼応する行動が周辺諸国でも実施されました。

現状では、最高裁が今回の調査をもとにどのような判断を下すのかを注視する必要があります。その上でこの大統領選をめぐる動きがどのように推移していくのかを引き続き見ていきたいと思います。

2024年8月18日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
©2024アジェンダ・プロジェクト