前回の記事(コロナ禍のキューバ社会、2020年9月16日)において、モノ不足の中、買占めと転売が横行していること、その背景には不十分な所得や二重通貨制度といった問題があることを書きました。
そこで今回から3回に分けて、キューバの労働者をめぐる状況(就労と賃金)、二重通貨問題について取り上げてみたいと思います。今回は「キューバの労働事情(就労編)」です。
1.キューバの就労状況
8月27日にキューバの国家情報統計局が「キューバ統計年鑑」(2020年版。期間は2019年1月~12月)を公表しました。この中に「給与と雇用」についての章が含まれています。公表に合わせて書かれた国営メディア「クーバデバテ(Cubadebate)」(「キューバ討論」という意味)の記事(9月18日付)を使いながらキューバの就労状況がどうなっているのかを見てみます。
まず、働いている人の総数(就業者数)ですが、2019年は458万5200人で、2018年(448万2700人)に続いて増えています。それ以前(2015~17年)は3年連続で減少していましたので、「好ましい状況が続いている」と記事は伝えています。増加数は10万2500人で、2018年の増加数(7900人)を上回っています。
一方で、キューバの就業率を見ると、48.6%になります。一般的に就業率は、15歳以上の人口における就業者の割合を指します。キューバの「15歳以上の人口」(2019年)は942万978人です(キューバの全人口は1119万3470人。いずれも統計年鑑より)。ちなみに日本の就業率(2019年)は60.6%です。
就業率が低いということは、キューバが高齢化社会であることを踏まえたとしても、様々な理由から就業していない人が相当程度いることを示しています。そのため、公的な統計に表れる就業者の15歳以上の人口に対する割合が少ない値になっていると言えます。この問題についてはのちほど触れるとして、続いてどの部門の就業者が増えたのかを見ていくことにします。
キューバの就業者は、国営部門と非国営部門に大きく分かれます。先の統計年鑑によると、両部門とも就業者数は増加しています。
国営部門の中で特徴的なのは、国と契約した労働者の数が2018年に比べて1万1600人ほど増えていることです(2016年~18年は連続して減少)。
労働・社会保障省の報告によると、これは教員の数がかなり増えたことによります。2019年6月に政府は予算付き機関の賃金を引き上げる決定をしました。そのことにより昨年9月から8000人超の教員が復職することになりました。
(注)国営部門は、国営企業と予算付き機関とに大きく分かれます。そのうち予算付き機関とは国家予算からの財政で運営される営利を目的としない機関のことを指します。具体的には、病院や学校、行政や防衛機関、文化・スポーツ機関などが含まれます。
他方、非国営部門(150万6673人)は、協同組合と民営部門に大きく分かれます。民営部門には自営業者、自営農民や芸術家などが含まれます。自営業者は61万7043人で、非国営部門全体の約41%を占めています。協同組合は総数が47万5829人(2018年と比べて約5900人増加)ですが、協同組合でも非農業協同組合は1415人減少しています。
(注2)キューバの協同組合は、革命後は基本的に農牧畜業に限定されていました。2012年から試験的にこれ以外の業種での協同組合の設立が認められるようになっています(飲食業、輸送業などのサービス関係が主な業種です)。
なお、昨年の非農業協同組合の新設はありませんでした。これには、急速に数を拡大するよりも既存の組合の運営強化を重視する政府の方針が反映しています。
農業協同組合には、農牧畜生産協同組合、協同組合生産基礎組織、信用・サービス協同組合の3タイプがあります。
(注3)3タイプの協同組合の特徴について
①農牧畜生産協同組合:ワーカーズコープの一種。組合員は自らの土地を組合に売却し、所有権を協同組合に移行させる。(集団的所有)
②協同組合生産基礎組織:ソ連崩壊後、国営農場をダウンサイジングする形で作られた生産組織。組合員は共同して働くが、土地の所有権は国有のままで組合は使用権のみを保有。その他の生産手段は国から購入する。
③信用・サービス協同組合:組合員は自らの土地の所有権は維持している。組合は原材料・各種サービスの組合員への提供、生産物の共同販売などの活動を行う。(日本の農協のような組織)
農業協同組合の就業者数が増えている(2019年は45万9100人)とは言え、国の経済の中で期待されている役割を果たしているとは言えないと記事は述べています。
というのも、キューバは毎年多くの食料を海外から輸入していますが、政府の見解では、そのうちのほぼ半分は国内で生産可能な品目であると見ているからです。そこで政府は潜在的な生産能力が十分に発揮されることを妨げている規制などの仕組みを改革していくとともに、外資導入を軸に生産拡大を図ることが必要であると考えています。
業種別では、「農業・牧畜業・林業」の就業者数が79万2400人と最も多く、続いて「公共保健とソーシャルケア」の50万6800人となっています。
失業率については、2019年は 1 . 2%(失業者5万7098人)で、ここ5年間で下がり続けています。
統計年鑑では、こうした〈就業者〉と〈失業者〉を合わせて〈経済活動人口〉と定義しています。2019年の〈経済活動人口〉は464万2318人です。
〈就業者〉とは、17歳以上の年齢の者と、例外として当局の労働許可を得ている15・16歳で給与をもらう雇用または自営の仕事と契約している者を含めています(後者については、2章で触れます)。
〈失業者〉とは、〈労働年齢人口〉のうち、調査期間中に継続した労働関係がなく働かなかった者を指します(失職した者、求職中の者、初めて仕事を探している者を含んでいます)。
〈労働年齢人口〉とは、男性の場合は17歳から64歳まで、女性の場合は17歳から59歳までに相当する人口と定義されています。2019年は712万3301人。