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ボリビアの総選挙について、左派勢力の勝利へ

 10月18日(日)、ボリビアで総選挙(正副大統領、上下院議会)が実施されました。この選挙は、ちょうど一年前の昨年10月に行われた大統領選挙の結果をめぐって起こった「政変」によって成立した「暫定体制」の下で行われた選挙です(当初は5月3日に行われる予定でしたが、新型コロナの影響もあり延期されていました)。ちなみに最高選挙裁判所(TSE、中央選管)による最終的な結果報告はまだですが、開票率96%までの暫定的な結果が公表されています。

 すでに日本でも報道されていますが、エボ・モラレス前大統領の後継である社会主義運動(Movimiento Al Socialisomo  略称MAS)のルイス・アルセ大統領候補とダビッド・チョケワンカ副大統領候補の勝利が伝えられています。

 なお、昨年の大統領選とその後の情勢については、以前の配信記事「ボリビアの行方とパンデミック」(2020年5月11日)をお読みください。今回の記事は現時点でわかっている範囲内のことをまとめています。

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キューバの「二重通貨問題」について

はじめに

 前2回にわたってキューバの労働事情(就労編と賃金編)について述べてきましたが、今回は「二重通貨・為替問題」について述べてみたいと思います。

 日本に住んでいる私たちにとってはなかなか理解しがたいところがありますが、キューバでは2つの通貨、為替レートが日常的に使われています。とくに一般の人々に適用される為替レートと企業に適用される為替レートが異なっていることによって、価格をベースにした様々な経済指標がその実勢を正しく反映していないという問題が生じています。

 自らが提供する労働を通じて貨幣収入を得ている人々にとって、名目賃金の実質的な価値が正当に評価されているのかが不確かであるという事態は、それだけにとどまらず、稼いでいる賃金だけでは十分な生活を送ることができないという問題の一端ともなっています。

 そのため、キューバ政府は、できるだけ速やかに通貨と為替レートの一本化を実現することを考えてきましたが、現在に至るまでその実施に踏み切ってはいません。というのも、この措置が、国内経済や人々の生活に多大な影響を与えると言われてきたからです。一体、どのような影響があるのか、その背景を考えてみます。

 ちなみに、キューバに旅行する場合、外国の観光客はキューバ国内で使用する通貨として外貨兌換ペソ(CUC)を両替して入手する必要があります(その際、手数料も差し引かれます)。通常はキューバ市民が使っている国内ペソ(CUP)に出会う機会はありません。

1.二重通貨、その弊害とは?

 二重通貨が始まった経緯を振り返る前に、二重通貨とはどういう仕組みかについて簡単に説明したいと思います。

 キューバでは、国内ペソ(CUP、キューバ・ペソ)と外貨兌換ペソ(CUC、外貨との交換可能ペソ)の2種類が流通しています(ちなみに国営部門で働く人の賃金は通常CUPで受け取りますが、日常的な生活用品の中にはCUCでしか買えない品目もあります)。

 さらに問題を複雑にしているのは、それら通貨の為替(交換)レートが単一ではないことです。

 最も知られているのは、外貨交換所(CADECA)でのレートで、これは一般の住民向けの為替レートです。具体的には、(24~25CUP=1CUC)になっています。※CUCを入手する場合のレートは25CUP=1CUC、反対にCUPに両替する場合のレートは、24CUP=1CUC。

 もう1つは、いわゆる公式の為替レート、つまり企業法人向けの為替レートで、1CUP=1CUCとなっています。しかも1CUC(外貨兌換ペソ)がほぼ1USD(米ドル)と同じ交換価値として計算されています。

 こうした異なる為替レートの適用によって、国内の経済・財政状況を知るための指標が正確に機能しなくなっています。例えば、ある国営企業が国内で生産する製品について考えて見ると、その製品の中に海外から輸入した中間財が含まれている場合、実際の生産コストがいくらかかっているのかが不確かなものになってしまいます。

 先に説明したように企業向けの為替レートでは、外貨兌換ペソ(CUC)が過大評価されているために、経済計算に「著しい歪み」が生じることになり(この場合輸入品の価格が実勢よりも低く評価される)、結果的に企業の財務状況を正確に把握することが困難となっています。

 一般的には、企業向けの為替レートが過大に評価されていることは、輸出業者には不利(輸出品・サービスの価格が高く評価されるので)に、輸入業者には有利(輸入品・サービスの価格が安く評価されるので)に働きます。

 ですので、実勢レートに近い形(つまり外貨に対するペソの価値が大幅に切り下がったレート)で通貨・為替統合がなされると、短期的には輸入品やサービスの価格が上がることになり、収益の悪化した輸入業者を中心として多くの企業が倒産するのではないかと危惧されています。

 もう一つの大きな悪影響は、インフレーションです。輸入品・サービスの価格が上がることで物価の上昇が懸念されています。この問題については、節を改めて触れてみることにします。

外貨交換所(CADECA) ハバナ 2006年 筆者撮影
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キューバの労働事情(賃金編)

はじめに

 前回は「キューバの労働事情(就労編)」でしたが、今回はその続き「賃金編」です。ここでも国家情報統計局の統計と国営メディア「クーバデバテ(Cubadebate)」(「キューバ討論」という意味)の記事を見ながら進めていきたいと思います。

1.キューバの平均賃金について

 昨年(2019年)、キューバの平均賃金(月額)は102ペソ増加して、879ペソとなりました。このアップは最近5年間で最も大きな上昇となっています。

 なお、ここで示されている「平均賃金」とは、国営部門、つまり国営企業(外資との合弁企業も含む)と予算付き機関での賃金(月額)のことです。単位は国内ペソ(CUP)です。

(注)国営部門は、国営企業と予算付き機関とに大きく分かれます。予算付き機関とは国家予算からの財政で運営される営利を目的としない機関のことを指します。具体的には、病院や学校、行政や防衛機関、文化・スポーツ機関などが含まれます。

 ちなみに、キューバの昨年の国営部門の就業者数が307万8600人、非国営部門を合わせた全就業者数が458万5200人ですので、この「平均賃金」の対象となる就業者の割合は、約67%になります。

国家情報統計局「数字に見る平均賃金 キューバ2019」より筆者作成

 9月4日付記事では、このアップでも「不十分である」と述べつつ、777ペソ(2018年の平均賃金)から879ペソ(2019年の平均賃金)への上昇は、昨年6月に決定された予算付き機関における賃金引き上げ(7月から実施)を反映したものと述べています。この時、同機関の最低賃金を400ペソに引き上げることも決定されました。

 国家情報統計局の報告「数字に見る平均賃金 キューバ2019」によると、平均賃金は2015年から連続して上がっています(上記のグラフ参照)。それぞれ前年と比べて、2016年は53ペソ、2017年は27ペソ、2018年は10ペソの上がり幅です。これらと比べると、昨年の上がり幅が大きかったことがわかります。

2.業種別の平均賃金の動向

 次に業種別の平均賃金を見てみます。

国家情報統計局「数字に見る平均賃金 キューバ2019」より筆者作成

 平均賃金が1000ペソを超えている業種は、金額の高い順に、建設業(1597ペソ)、鉱山採掘・採石(1481ペソ)、金融仲介(1206ペソ)、科学・技術イノベーション(1036ペソ)、電気・ガス・水道供給(1016ペソ)の分野になります。

 増加した額の大きさでは、予算付き機関の分野が最も大きく、2018年に比べて200ペソ以上増加しています(公共保健・ソーシャルケアは除く)。その中でも行政・防衛・社会保障の平均賃金は800ペソで、2018年より273ペソのアップ(すべての業種で最大の上げ幅)です(2017年は549ペソ、2018年は527ペソ)。

 ただ、額を大きく伸ばしたとは言え、予算付き機関の平均賃金はそれでも全体の平均額(879ペソ)を下回っています。上回っているのは公共保健・ソーシャルケアの965ペソのみです(2018年は808ペソ)。他にも漁業(843ペソ)、商業・所持品修理(655ペソ)、ホテル・レストラン(529ペソ)、輸送・倉庫保管・通信(868ペソ)、その他の公共・団体・個人サービス(692ペソ)といった業種が全国平均を下回っています(上記のグラフ参照)。

 2019年7月から実施された予算付き機関における賃金の給与の引き上げは、147万736名の労働者とその家族に利益をもたらしています。この措置に伴う年間コスト(国家予算)は70億5000万ペソと算出されています。

 国営企業の平均賃金は、524ペソ(2013年)から891ペソ(2019年)へと継続的に増加してきたと記事は述べています。また、企業収益の分配金の労働者への支払いは平均1500ペソを上回り、中には13CUC(兌換ペソ)の奨励金を支払う企業も存在していると報じています。

(注)キューバは二重通貨制度の下にあります。国営部門で受け取る所得の通貨は国内ペソ(CUP)ですが、その他に兌換ペソ(CUC)と呼ばれる通貨があります。CUCとCUPの交換レートは1:25となっています。

3.地域による平均賃金の差

 情報統計局のデータを見ると、県の間の平均賃金の格差についても示されています。

 但し、首都ハバナは市、イスラ・デ・フベントゥ(青年の島。本島の南に位置する)は特別行政区です。

国家情報統計局「数字に見る平均賃金 キューバ2019」より筆者作成
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キューバの労働事情(就労編)

はじめに

 前回の記事(コロナ禍のキューバ社会、2020年9月16日)において、モノ不足の中、買占めと転売が横行していること、その背景には不十分な所得や二重通貨制度といった問題があることを書きました。

 そこで今回から3回に分けて、キューバの労働者をめぐる状況(就労と賃金)、二重通貨問題について取り上げてみたいと思います。今回は「キューバの労働事情(就労編)」です。

1.キューバの就労状況

 8月27日にキューバの国家情報統計局が「キューバ統計年鑑」(2020年版。期間は2019年1月~12月)を公表しました。この中に「給与と雇用」についての章が含まれています。公表に合わせて書かれた国営メディア「クーバデバテ(Cubadebate)」(「キューバ討論」という意味)の記事(9月18日付)を使いながらキューバの就労状況がどうなっているのかを見てみます。

 まず、働いている人の総数(就業者数)ですが、2019年は458万5200人で、2018年(448万2700人)に続いて増えています。それ以前(2015~17年)は3年連続で減少していましたので、「好ましい状況が続いている」と記事は伝えています。増加数は10万2500人で、2018年の増加数(7900人)を上回っています。

国家情報統計局「キューバ統計年鑑」(2020年版)より筆者作成

 一方で、キューバの就業率を見ると、48.6%になります。一般的に就業率は、15歳以上の人口における就業者の割合を指します。キューバの「15歳以上の人口」(2019年)は942万978人です(キューバの全人口は1119万3470人。いずれも統計年鑑より)。ちなみに日本の就業率(2019年)は60.6%です。

 就業率が低いということは、キューバが高齢化社会であることを踏まえたとしても、様々な理由から就業していない人が相当程度いることを示しています。そのため、公的な統計に表れる就業者の15歳以上の人口に対する割合が少ない値になっていると言えます。この問題についてはのちほど触れるとして、続いてどの部門の就業者が増えたのかを見ていくことにします。

 キューバの就業者は、国営部門と非国営部門に大きく分かれます。先の統計年鑑によると、両部門とも就業者数は増加しています。

国家情報統計局「キューバ統計年鑑」(2020年版)より筆者作成

 国営部門の中で特徴的なのは、国と契約した労働者の数が2018年に比べて1万1600人ほど増えていることです(2016年~18年は連続して減少)。

 労働・社会保障省の報告によると、これは教員の数がかなり増えたことによります。2019年6月に政府は予算付き機関の賃金を引き上げる決定をしました。そのことにより昨年9月から8000人超の教員が復職することになりました。

(注)国営部門は、国営企業と予算付き機関とに大きく分かれます。そのうち予算付き機関とは国家予算からの財政で運営される営利を目的としない機関のことを指します。具体的には、病院や学校、行政や防衛機関、文化・スポーツ機関などが含まれます。

 他方、非国営部門(150万6673人)は、協同組合と民営部門に大きく分かれます。民営部門には自営業者自営農民や芸術家などが含まれます。自営業者は61万7043人で、非国営部門全体の約41%を占めています。協同組合は総数が47万5829人(2018年と比べて約5900人増加)ですが、協同組合でも非農業協同組合は1415人減少しています。

(注2)キューバの協同組合は、革命後は基本的に農牧畜業に限定されていました。2012年から試験的にこれ以外の業種での協同組合の設立が認められるようになっています(飲食業、輸送業などのサービス関係が主な業種です)。

 なお、昨年の非農業協同組合の新設はありませんでした。これには、急速に数を拡大するよりも既存の組合の運営強化を重視する政府の方針が反映しています。

 農業協同組合には、農牧畜生産協同組合、協同組合生産基礎組織、信用・サービス協同組合の3タイプがあります。

(注3)3タイプの協同組合の特徴について

①農牧畜生産協同組合:ワーカーズコープの一種。組合員は自らの土地を組合に売却し、所有権を協同組合に移行させる。(集団的所有)

②協同組合生産基礎組織:ソ連崩壊後、国営農場をダウンサイジングする形で作られた生産組織。組合員は共同して働くが、土地の所有権は国有のままで組合は使用権のみを保有。その他の生産手段は国から購入する。

③信用・サービス協同組合:組合員は自らの土地の所有権は維持している。組合は原材料・各種サービスの組合員への提供、生産物の共同販売などの活動を行う。(日本の農協のような組織)

 農業協同組合の就業者数が増えている(2019年は45万9100人)とは言え、国の経済の中で期待されている役割を果たしているとは言えないと記事は述べています。

 というのも、キューバは毎年多くの食料を海外から輸入していますが、政府の見解では、そのうちのほぼ半分は国内で生産可能な品目であると見ているからです。そこで政府は潜在的な生産能力が十分に発揮されることを妨げている規制などの仕組みを改革していくとともに、外資導入を軸に生産拡大を図ることが必要であると考えています。

 業種別では、「農業・牧畜業・林業」の就業者数が79万2400人と最も多く、続いて「公共保健とソーシャルケア」の50万6800人となっています。

 失業率については、2019年は 1 . 2%(失業者5万7098人)で、ここ5年間で下がり続けています。

 統計年鑑では、こうした〈就業者〉と〈失業者〉を合わせて〈経済活動人口〉と定義しています。2019年の〈経済活動人口〉は464万2318人です。

 〈就業者〉とは、17歳以上の年齢の者と、例外として当局の労働許可を得ている15・16歳で給与をもらう雇用または自営の仕事と契約している者を含めています(後者については、2章で触れます)。

 〈失業者〉とは、〈労働年齢人口〉のうち、調査期間中に継続した労働関係がなく働かなかった者を指します(失職した者、求職中の者、初めて仕事を探している者を含んでいます)。

 〈労働年齢人口〉とは、男性の場合は17歳から64歳まで、女性の場合は17歳から59歳までに相当する人口と定義されています。2019年は712万3301人。

国家情報統計局「キューバ統計年鑑」(2020年版)より筆者作成
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コロナ禍のキューバ社会

はじめに

 キューバ国内で新型コロナウイルス感染者が確認されてから6か月が過ぎました。政府の対策もあり6月下旬に一旦は感染拡大が抑制され、人との物理的距離やマスクの着用など、一定の公衆衛生上の措置を守りながら徐々に経済活動を再開し、日常生活が戻りつつありました。

 しかしその後、地域によって差があるものの、再び感染の拡大局面へと後戻りする状況になっています。また、日常生活ではモノ不足による商品の買占め、転売行為が目立っていて、社会全体を蝕んでいます。今回のレポートではこうした点に焦点を当てながら「コロナ禍のキューバ社会」について考えていきたいと思います。

▪現在の感染状況(9月13日現在 公共保健省のデータより)
累計感染者数(4726人) 死者数(108人) 致死率2.28%
9月13日の新規感染者数(31人) 同日のPCR検査数(7380件)
累計PCR検査数(49万2527件) 陽性率0.96%
9月13日時点での入院感染者数(576人) うち、重篤(12人) 危篤(5人)
累計の無症状感染者数(2775人) 感染者全体に対する割合(58.7%)

(両方とも公共保健省のデータより筆者作成)