質疑応答書き起こし

アジェンダ・プロジェクト連続講演会Vol.2
「東電福島第一原発事故から11年 原発・核燃サイクルをめぐる日本の現状」

会場からの質問を「Q」、講師の回答を「A」で表しています。(講師:伴英幸さん、山田清彦さん)


Q: 海洋放出については現状、止める手立てはないのでしょうか? 例えば、差し止めるための司法手続きなどは取れないのでしょうか?

A(伴さん):確実に止める手立てとして、漁業者団体を一生懸命支援しようとしているんですが、漁業者が納得しないことが確実な方法ですね。僕は時々、漁業者団体に情報を送ったりしていますが、うまくいくかどうか、見えないところもあります。他方、国際的なところもあって、韓国も中国も反対しています。来週は中国のテレビからインタビューを受けることになっています。太平洋諸国の人たちも反対しています。ただ、確実に止めるということになると、それが果たしてどこまで効果があるのか。努力は一生懸命しています。
 司法手続きとしては、今のところすぐに自分が原告になって訴訟を起こすという動きは出てきていません。裁判で争って勝つのは結構、ハードルが高いと思っています。というのは、環境影響の点でいうと、向こうは基本的に「薄まるから影響がない」と言っているんです。おそらく判断されるのは被曝とか環境影響の話になると思うのですが、不備があることを主張できても、確実に法律違反になるような被曝だということが主張できるのかどうか。「薄まるから安全」という主張を切り崩していくのが難しいのではないかと思っていて、なかなか弁護士とも相談できていません。そういう状況で悩んでいるところです。


Q: 老朽原発の60年廃止制限を撤廃すると言い、更田さんにかわって委員長になった山中さんは規制をしっかりするとは発言していたと思うのですが、結局、山中氏のスタンスはどうなのでしょうか?

A(伴さん):積極的に運転期間の延長を歓迎しているというスタンスではないと思います。11月2日の規制委員会を傍聴していても、30年を超えたら10年ごとの審査にするというようなことからすると、積極推進ではないと思います。ただ、経産省が動き出して、規制委員会で10年ごとの審査となったときに、何を基準に審査するのか、そこが今一つ、見えない。例えば僕らが一番大きく問題にしているのは脆性劣化といって、原子炉が中性子にさらされて脆くなっていっている。一応、その評価はしているけれども、彼らの使っている評価式が十分に信頼に足るものではないということで、それは規制委員会も学会も認めていて、四苦八苦している状態です。したがって、今でもその状態なのに、運転が60年を超えていったときにちゃんと評価できるのかどうか、この点が極めて怪しい。
 したがって僕らは運転延長には反対なのですが、次の段階として、規制基準の中身の問題が出てくるということです。


Q:「次世代革新炉」は概念段階として、基本的に無理だとすればあまり考えなくていいのかもしれませんが、仮に万が一、出て来ると考えた場合、何年後くらいとなるのでしょう?美浜のあとにこれを建てるという風にすることも考えられますね。

A(伴さん):「絵に描いた餅」のような計画なのですが、革新軽水炉といわれる120万kwクラスの原子炉は、基本的に今も120万kwや130万kwの原発があるので、彼らの言い分ではそれにいくつかを足すだけなので、技術開発は基本的に容易だろうということで、ロードマップによると2030年代半ばに建設、運転に入りたいと考えているようです。
 その次に早いと思っているのが高速炉だと思いますが、2040年代中頃以降に運転。高温ガス炉というのはまだ実験炉でその先どうなるかわかりません。核融合炉は全く展望もない状態で、それはただ書いてあるだけということです。したがって一番早くて2030年代中頃ということです。
 横道にそれますが、2030年までの間に温室効果ガスの排出を46%減らさないといけないのに、こんなものでは全く対応できない。明後日の方向を向いた対応しか考えられていないと思わざるを得ません。
 美浜の跡にということですが、美浜は増設計画があって、その敷地が狭いのでどうなるのかということがあるのですが、「跡」の意味がよくわからないのだけれど、現在建っている発電所を解体してその跡に建てるということになると、解体して更地にするのに30年くらいかかるので、先の先の話だと言えます。


Q: 福島第一原発を40年で廃炉にするのは無理だというお話について、「40年」を言い出した上層部は何の根拠があって40年と言ったのでしょうか? 根拠が無くてもそれに縛られるという所には東電の体質的な問題があるのでしょうか。

A(伴さん):「40年」というのはちゃんとした根拠がないからそう言っているんです。通常の廃炉は大体30年くらいで計画しているので、事故が起きたからそれにプラス10年くらいあればできるんじゃないかという、東電の相当安易な考えから出たのだと思います。例えばスリーマイル島原発は同じようなデブリの取り出しを含めて終了するのが2040年代、50年代という計画になっています。そうすると事故は1979年なので60年とか70年くらいかけて処理をする。しかもスリーマイル事故では原子炉容器自体は貫通していない。それでもそれだけの時間がかかるのだから、福島は100年以上かかると思っていないといけないんだけれど、そこはすごく安易です。
「40年」に縛られているのは東電の体質かと言われると、そういう部分もあるけれども、そのことにこだわっているのは、むしろ福島県だと思います。早く復興したいから100年もかかるのは困る、復興の妨げになるという福島県の姿勢があると思う。その姿勢が現れたのは廃炉支援機構が「石棺」という言葉を使ったときに、すぐに福島県知事が反応して、その言葉を撤回させた時です。2016年7月だったと思います。それを考えると、一番こだわっているのは福島県だろうと思います。東電は、要するに福島県を説得できない。見直したら、廃炉にはもっとかかることが分かったと、本来なら福島県に説明して合意を求めていくべきだと思うんですが、そこは形だけ「はいはい」と言いながらなし崩し的に延びていくような形に持っていこうとしていると思います。そういうなし崩し的なところは東電体質かなと思います。


Q: 凍土壁の費用を国が負担するという話があったと思いますが、なぜあえて凍土壁に国が関与したのですか?

A(伴さん):凍土壁というのは実用化されていない技術だったのです。トンネルを掘るときに一時的に凍結することはすでにやっていますが、福島のような凍土壁の継続的な利用は実用化されていない技術で、そのような困難な技術の研究開発に対しては国の補助金が出るんです。そこに気が付いた「頭のいい人」がいて、それを使うことにしたのです。背景には、東電が自前でお金を出すことになると、確実に東電が破産するというような状況だったので、それを避けるために国の金を使ったということです。国の関与とはそういう意味です。


Q: 原発を再稼働すればすぐに二酸化炭素の排出量が減るかのような意見が、目の前の気候変動の切り札であるかのように脅迫するように国民に流布されかなり浸透している今、事故の危険性だけでなく、原発依存を続けることによる問題点全体を分かりやすく伝えるポイントをまとめて頂きたいです。

A(伴さん):それは重要なことで、情報室でもパンフレットや通信を発行しているのですが、今の質問について言えば、やや好意的に見て、再稼働すれば火力発電所をそれで使わなくすることができるので、その分は減らすことができる。ただし、2030年までに46%削減、50%削減に向けて努力する、2050年にはカーボン・ニュートラルにするという日本の公約に対して、原発がどこまで役に立つのかということを考えると、例えば再稼働で国が考えているのは2030年には36基稼働していて、それで46%削減だと言っているのですが、そんなことはありえない。だからこの公約は原発に依存していたら破綻することははっきりしている。そういう意味で、原子力に依存せずに再生可能エネルギーを育てていく、増やしていくことに本腰を入れないといけないと思います。私たちは再生可能エネルギー100%の社会を作ることはできると主張しています。
 もう一つは、原子力事業者、旧一般電気事業者が原発を持っている限り、それを優先的に使うことになり、それによって再エネの導入を妨げる恐れがある。その意味からも原子力に依存せず、再エネを進める動きを強める必要があると思います。


Q: 汚染水を抑制するために、福島大学の柴崎直明教授などの「地団研グループ」の人たちがパンフレットを作成して、従来工法の「広域遮水壁」と「集水井及び水抜きボーリング」を提案しておられますが、これが採用される見通しはあるのでしょうか。

A(伴さん):働きかけ次第というところがあるので、僕には見通しがないと言い切ることはできないのですが、海洋放出以外のやり方というのは、例えば原子力市民委員会も提案しているし、廃炉支援機構にも提案しています。しかし現時点では見向きもされていなくて、ひたすら海洋放出の方向に進んでいます。だからもっと頑張って主張していかないといけないと思っています。


Q: HPによると、NUMOは全国各地の「青少年のための科学の祭典」で地層処分についてのワークショップを行っています。また、今年になってから、東京都文京区や舞鶴市などで住民説明会を行っています。各説明会での出席者は、20人を超えたことはありません。NUMOの動きについて、ご意見をお願いします。

A(伴さん):説明会の出席者が少ないのは、昔は動員をかけていたので、けっこう参加者が多かったのですが、ある時、お金を払って動員してたことが表沙汰になって、そういうことは今後一切しないことになった結果、少ない人数になっているということなんです。
 問題は、高レベル放射性廃棄物を何とかしないといけないということは、これは現にあるものだから議論しないといけないと思うんですが、私は拙速な処分場の選定と建設には反対しています。その立場から見ていくと、NUMOは処分場の選定を前提にした議論を進め、その具体的な中身はNUMOによる安全性の説明会みたいなものです。それはやめるべきだと思います。やめたうえで、NUMOではない組織なり、この議論のときには海外の事例も参考にして、第三者組織を作って、つまり推進の事業からは完全に独立した組織を作って、改めて今ある廃棄物についてどのように対応していけばいいのか、議論すべきだと思います。今の法律では、処分対象は法律でガラス固化体と地層処分対象のTRU廃棄物だけになっているのですが、それ以外に使用済み燃料とか、使用済みのプルサーマル燃料も将来には処分対象になってくるので、それら全部含めてどう対応していったらいいのかということを、推進とは全く切り離して議論していかないといけないと思う。その議論の中では、原子力はこんな厄介なものだから原子力をまずやめることが先決だという議論も当然あるわけですから、それも含めて議論していくことには賛成です。

A(山田さん):青森でもNUMOの説明会があって何度か参加しましたが、高レベル放射性廃棄物を一時的に受け入れている青森県の場合、最初の受け入れから最大50年しか置きませんよという約束だったのですが、計算するともう27年経っている。22年後にはどこかに持って行ってほしいというのが青森県民の思いです。そのための条例制定も何回かやりました。しかしNUMOは青森に来ると、説明会で相変わらず「あと30年かかる」と平気で言います。「それでは50年を超えるでしょう」と言ったら、最後に、「期間内に搬出できるように努力します」という話をして終わるんです。
 最近、NUMOで言われたのは、「搬出については事業者がやるべきです」ということだったので、日本原燃の担当者にこのことを言ったら、「そんな無責任な話はないね」と言ってました。NUMOの説明会にはほとんど反対派の人しか来ないんだけれども、中にはかつて六ケ所村で勤めていて、受け入れから30年から50年というのは、いきなり50年後と言ったら長すぎるので30年を追加したのは私ですという、元課長が参加していたのですが、その人ですら、「なんだ、約束が守れないじゃないか」とかみついてました。そんな状況です。
 しかしそれ以外の動きは全くNUMOに権限がないというか、あと20年くらいしたらみんな退職するからいいねという感じで、自分たちの時代には終わらないと言うしかないのです。この説明会には毎回、近藤駿介が来るんです。後ろのほうに構えていて、一言も発言しないで参加者の顔ぶれを見て帰るみたいな感じです。
NUMOに大きく期待はしていませんが、問題は地域のほうで、今は候補地と言われているのは2か所しかないのですが、14か所くらい作りたいと言ってました。国内でも候補地探しを自治体に働きかけはしているのでしょう。そういう動きはやめさせて、将来の子どもたちのことを考えたスタンスの機関はぜひ必要だと思います。


Q : 蒸発乾固問題に対する青森や東海の地元住民の受け止め方、国会などでの議論の状況、などはどんな感じでしょうか?

A(山田さん):蒸発乾固問題は、7月2日に事故が起きて、報道されたのは4日でした。デイリー東北が大きく取り上げたのだけれど、県紙の東奥日報は日本原燃の情報をベタ記事みたいに流しただけ。ましてや陸奥新報は小さくしか出しませんでした。そんな状況で、最初の報道では、意外と蒸発乾固問題の中身についてもちゃんと報道したのはデイリー東北だと思います。2回目の報道では、東京の東奥日報の方が取材して載せたので、デイリー東北よりは記事は重要でした。
その後、日本原燃の報告を聞いていると、冷却できなかった8時間について大変だったことについて、そのとらえ方も最初の説明だと誰かが閉栓したんだと言ってたのですが、その後の報告を見ると、元々は日本原燃の社員がちゃんと管理して、作業員が二人でする作業を、日本原燃が入らずにたった一人の協力会社の社員がやったというところに一番原因があったということになります。また、途中で何回か、管理をする場所に至る担当者の方々、日本原燃の社員の方々も技術不足で、なぜ8時間も冷却不能になったか、このことについてちゃんと管理ができなかったということです。原因究明の報告書が後から出てきたのですが、そういうことです。
 再処理工場で最も大きな事故はこの蒸発乾固問題なのです。日本原燃は今、一番高い温度のピークを120℃と考えていますが、昔は1600℃まで温度上昇して、高レベル放射性廃液の溜まっている貯槽(ステンレス容器は溶度が1500℃)が壊れていくようなことが一番大きな事故と想定していました。そうなったら高木仁三郎さんが想定している1㎥の廃液が漏れただけでは足りず、ダダ洩れ状態で、日本に人が住めなくなるんではないかと私は考えています。そういう意味では、日本原燃にしっかりと蒸発乾固対策をやってほしいと思いますが、期待するのは無理かもしれません。
 この問題を以前、京都で学習会をやったときに、衆議院議員の山崎誠さんがたまたまそこに来てくれました。この問題で質問主意書を出したいということで、彼のところを拠点に原発反対派の議員さんの団体があるので、そこで少しもんでもらって情報提供もしながらやっている感じです。ただし、日本原燃が情報を公開していない(反対派との交渉に制限をしている)。どうにかして、青森県民との交渉を実現したいと考えています。
残念ながら東海の状況はまだそこまで私は承知していないのですが、東海もガラス固化ができない状況ですから、蒸発乾固にいつでもなる可能性があり、340㎥も廃液が溜まっていますから、これがちゃんと管理できなければ大変なことになる。この問題をしっかりと訴えていかなければならないと思っています。


Q: 山田さんが六ヶ所村の村長選に出馬されましたが、村の空気はどのような感じだったのでしょうか。

A(山田さん): 六ヶ所村長選挙では、村外から候補が出たことで、集票は厳しかったです。ただし、現職も厳しかったのは間違いありません。村内の有権者で、応援してくれる人もいました。


以上です。