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アルゼンチン ミレイ大統領と「投資詐欺」疑惑

現在、仮想通貨「$LIBRA(リブラ)」を使った「投資詐欺」疑惑にミレイ大統領が関与したか否かに関して、連邦判事の調査が開始されています。今年2月に突如起こったこのスキャンダルについてまとめてみます。
なお、事態が現在進行中なので情報が古くなっている可能性がありますが、最初の概要ということでご理解ください。

(1)事件の概要

2月14日金曜日19時1分、ハビエル・ミレイ大統領が、自身のXアカウントに1つのメッセージを投稿しました。その内容は「$LIBRA(リブラ)」と呼ばれる新しい仮想通貨を宣伝する以下のような内容でした。

「リベラルなアルゼンチンは成長する!!! この民間プロジェクト(「$LIBRA(リブラ)」の発行)は、アルゼンチンの経済成長を促進し、アルゼンチンの中小企業や新規事業に資金を提供することに寄与します。世界はアルゼンチンに投資したいと考えています。」と書き、その下に「Viva La Libertad」プロジェクト(※)のリンク(vivalalibertadproject.com.)を貼り付け、最後に「$LIBRA」の文字で締めくくっています。

ミレイ大統領は、以前から「トークンエコノミー」(※)の推進を熱烈に支持してきました。

(※)「Viva La Libertad」プロジェクトは、アルゼンチンの経済成長を支援するプロジェクトのことで、仮想通貨「$LIBRA(リブラ)」はその1つとして導入されました。

「Viva la libertad」(自由万歳)という名称は、ミレイ大統領が演説の締めくくりに使うフレーズ(Viva la libertad, carajo!)に由来しています。

(※) トークンエコノミーとは、仮想通貨やブロックチェーン技術を基盤とした新しい経済圏のことを意味します。トークンとは「代替通貨」のことを指しています。仮想通貨はデジタル通貨、暗号資産などとも呼ばれています。

専門家によると、この投稿のあと、約4万人が購入を申し込んだことで「$LIBRA」の価値が急騰し、時価総額が40億ドルを超える事態となりました。

しかしそのわずか数時間のうちに、「$LIBRA」の価値は急落することになりました。それは、「$LIBRA」の初期保有者たちのグループが、約9000万ドル(「流動性プール」に預けられた資産の80%以上)を引き出した後に起こりました。要するに価値が上がったところで「$LIBRA」を売却して莫大な利益を得たことで暴落したということです。

※こうした行為は「ラグプル」と呼ばれています。「ラグプル」(英語名「ラグプリング」)とは、開発した暗号資産を宣伝・販売し、投資家などからお金を集めて価値を急騰させたところで売り抜け、資金が引き出された後の投資家には価値のない資産が残るという「出口詐欺」の一種です。

地元の報道によると、「$LIBRA」の最高値は4978ドルに達しましたが、数時間以内に0.99159ドルにまで急落したと書かれています。

こうした中、深夜0時過ぎにミレイ大統領は、先の投稿を削除し、Xに以下のような新しいメッセージを投稿しました。

「数時間前に、これまで何度もそうしてきたように、明らかに私とは何の関係もないと思われる民間プロジェクトを支持するツイートを投稿した。私はそのプロジェクトの詳細を知らなかったが、それを知った後、これ以上情報を広めないことに決めた(それで、ツイートを削除した)。」

しかしこの説明では「火消し」にはならず、今や大きな政治汚職事件に発展する可能性が出てきています。

翌週の月曜(17日)、ミレイ大統領は、地元のテレビ局TNとのインタビューの中で、この件に関する自らの責任を回避した上で、その仮想通貨の購入を宣伝したのではなくて情報を広めたと主張しました。

「もし君がカジノに行ってお金をすった場合、カジノとはそうした性質のものだということがわかっていたなら、どんなクレームをつけるだろうか?」と釈明しました。

「参加した人たちは自発的にそれを行った。これは私人間の問題であり、政府は何の役割も果たしていない」とも述べています。

今や、この案件は「巨大な仮想通貨詐欺」とも呼ばれています。BBCは3つの観点からこの事件について考察しています(2025年2月17日付のVeronica Smink記者の記事)。

(2)事件をめぐる背景と疑惑

まずは、「$LIBRA」を開発した関係者と、大統領との関係についてです。

「$LIBRA」立ち上げの推進者の一人が、ケルセン・ベンチャーズ社(米国に拠点を置く)のCEOである米国人起業家のヘイデン・マーク・デイビス氏です。

デイビス氏は、16日(日曜)、ソーシャルメディアに声明と動画を投稿し、自らがミレイ大統領のアドバイザーであり、アルゼンチンの資産のトークン化プロジェクトの中で「大統領とそのチームとともに働いている」と述べました。

今年の1月30日、デイビス氏は大統領官邸のカサ・ロサーダにおいてミレイ大統領と会談していました。会談後に大統領自身が、「アルゼンチンの技術開発を加速し、アルゼンチンを世界的な技術大国にする」ことが会談の目的だったと投稿しました。

デイビス氏は、「$LIBRA」の「主な支援者(スポンサー)」はシンガポールの技術起業家でKIPプロトコルの創設者であるジュリアン・ペ氏であると明言しました。ペ氏も昨年10月にミレイ大統領と会談しており、この新しい仮想通貨の失敗についてはケルセン・ベンチャーズ社に責任があるとしています。

デイビス氏は、「$LIBRA」の開始について「確かに計画通りにはいかなかった」との考えを明らかにしましたが、この仮想通貨に関して沸き起こった主要な非難の1つ、つまり、この仮想通貨が、「ラグプル」と呼ばれる手法を通した単なる詐欺ではないかという非難については否定しました。

デイビス氏は、手数料で得た資金を含む約1億ドルの資金を再投資することで、「$LIBRA」の「流動性」を回復させると述べ、「$LIBRA」を提供しているすべての仮想通貨プラットフォームに同様の対応を求めました。

「$LIBRA」の突然の崩壊に関して、デイビス氏は、ミレイ大統領がプロジェクトに対する支持を撤回し、その信頼性を損なったことに責任があると非難しています。

「パートナーたちは、(仮想通貨の)立ち上げについて公的な支持を獲得してきたし、今後も支援が続くと私に保証していた」と述べています。

ここでデイビス氏が述べている「パートナー」とは、マウリシオ・ノヴェッリ氏とマヌエル・テロネス・ゴドイ氏だと見られています。両名は、ミレイ大統領が政界入りする前に一緒に働いていたトレーダーだということです。

次に政治的および法的な影響についてです。

この事件が明らかになるとすぐに、野党勢力は、大統領に対する訴訟を起こすとともに、「巨大詐欺」への関与の疑いで議会での弾劾を求めています。

マリア・ロミルダ・セルビニ連邦判事の下に17日(月曜)に提出された刑事告訴状によると、ミレイ大統領が、「4万人以上を」だまして、「40億ドル以上の損害を与えた」「違法な団体」に加わっていたようであるとされています。

セルビニ判事によると、裁判は、詐欺容疑の告訴状に加えて、15~16日の週末にかけて大統領に対して提出された他の告訴状(公務倫理法違反の容疑など)も合わせて行われる見通しになっています。

その一方で、「祖国と社会主義のための同盟」(中道左派の野党)は、議会への弾劾要請を進めることを発表しました。この措置はまず委員会で検討されたのち、弾劾を進めるには下院で3分の2の賛成票を得る必要があります。

また他の野党勢力は、特別調査委員会の設置を要求すると発表しました。設置には単純過半数の賛成が必要となります。

「祖国と社会主義のための同盟」所属のイタイ・ハグマン議員は、「大統領は数百万ドル規模の詐欺に必要不可欠な関わりをした」とラジオ番組の中で指摘しました。

さらに、「そのお金が何に使われたのか、誰が利益を得たのか、そしてそのお金が『自由前進』(ミレイ大統領率いる与党)の選挙運動と何らかの関係があるのかどうかを調べるには徹底的な調査が求められる」とも発言しました。

こうした事態に対して政府の方は、「$LIBRA」とのつながりについて正式に否定するとともに、今回のスキャンダルに対応して2つの措置を講じました。

1つは、大統領府の声明によると、「大統領自身を含む国家政府のメンバーによる不適切な行為があったかどうかを判断するため、汚職防止局(OA)に直ちに介入を要請した」としています。

もう1つは、ミレイ大統領が特別捜査ユニット(UTI)の創設を発表したことです。UTIは大統領府(大統領の妹で右腕のカリーナ・ミレイ氏が率いる)の管轄下で活動し、事件の分析を担当する予定です。UTIは、暗号資産、金融活動、マネーロンダリングに関連する組織の代表者で構成されることになります。

最後に、ミレイ大統領と仮想通貨とのつながりについてです。

ハビエル・ミレイ氏は、大統領になる以前から長年にわたり、新しいデジタル通貨を支持していました。

しかもミレイ氏が暗号資産を宣伝したのは今回が初めてでないばかりか、そのトークン(仮想通貨)がスキャンダルに巻き込まれるのも今回が初めてのことではないと述べられています。

2022年2月、当時国会議員であったミレイ氏は自身のネットワーク上で、マウリシオ・ノヴェリ氏(現在は「$LIBRA」と関連している)の別のベンチャーであるビデオゲーム会社Vulcanoのデジタル資産を称賛しました。

「Vulcano game NFTgamingプロジェクトは非常に興味深い。大多数のプロジェクトとは異なり、長期的に持続可能な経済ダイアグラム(モデル化)である」とミレイ氏は語っていました。

(※)NFTとは、デジタル上にある無形の価値を証明するための仕組みで、デジタル資産管理データのこと。

しかし、このメッセージの発信から数週間後に、このプロジェクトに関連したトークン(仮想通貨)である「$VULC」の価値が暴落し大きな損失が発生しました。

また同じ年に、ミレイ氏は、あるラジオのインタビューの中で、投資プラットフォームである「CoinX」の宣伝で報酬を受け取っていたことを認めています。このプラットフォームは、「ねずみ講」による詐欺の疑いで非難され、同年、国家証券委員会はこのプラットフォームに対して投資助言活動を停止するように命じました(関連して4名が逮捕)。

ミレイ氏は当時、「CoinX Worldとそのチームのオフィスを訪問する機会に恵まれました。彼らはアルゼンチン人がインフレから逃れられるように、投資方法に革命を起こしています。ペソ、ドル、暗号通貨への投資をシミュレーションして利益を上げることができます。私に代わってCoinX Worldにメールを書いてください。そうすれば最善のアドバイスをしてくれます」とインスタグラムに投稿していました。

この時も、「だまされた」と感じた人々に対する責任について問われると、ミレイ氏は、これは詐欺ではなく、ただ自分の「意見」を述べただけと釈明しました。しかも、「ビジネスはよく組織化されていた」と明言していました。

このように、今回だけでなく、過去にわたって同じようなことが繰り返されてきたことがわかります。

今回のスキャンダルの事実関係の解明と責任追及が、どのような形で推移していくのか、その中でミレイ大統領の責任は認められるのかなど、まだまだ不明な点はありますが、少なくともミレイ大統領の政治的影響力に大きなダメージを与えるのは必至と思われます。事実関係を含めて、今後の展開を注視していきたいと思います。

2025年2月24日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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