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はじめに

 「ラテンアメリカの現在」は、ラテンアメリカ・カリブ海地域での民衆の社会運動を軸に、その背景となる政治・経済的なニュースをピックアップして紹介するページです。

 2000年代以降、この地域では、新自由主義的グローバリゼーションに抗する社会運動の活発化と連動した「左派・進歩派政権」が台頭してきました。しかし2010年代になって次第に、左派政権の政策面での行き詰まりや右派勢力の巻き返しなどが起こり、ラテンアメリカ社会自身がいろいろな意味で分岐してきています。
 とりわけ、米国ではトランプ政権による介入主義的な対応が強まり、各国内でも権威主義的な政治の傾向が顕著になっています。

 こうした情勢の複雑な変化を踏まえつつ、ラテンアメリカ社会が現在から未来にわたってどう変化していこうとしているのかをできるだけ事実を踏まえ、読み解きながら考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

【記事一覧】
ベネズエラ 大統領選挙をめぐる動向(2024年8月18日)
キューバ 苦境が続く経済状況(2024年7月26日)
メキシコ 大統領選とジェンダー平等(2024年6月25日)
アルゼンチン 公立大学を守る歴史的意義(2024年5月31日)
ベネズエラ 大統領選挙に向けた動き(2024年4月26日)
キューバ 経済状況の悪化と社会的不満の高まり(2024年3月26日)
チリ 昨年12月の憲法改正国民投票の結果について(2024年2月29日)
アルゼンチン ゼネストに立ち上がる労働者(2024年1月30日)
アルゼンチン ウルトラ・リベラリズム政権の始まり(2023年12月12日)
チリ 新憲法案が抱えるジレンマ(2023年11月17日)
アルゼンチン 大統領選挙は決選投票へ(2023年10月25日)
チリ 軍事クーデターから50年の今(2023年9月23日)
キューバ 国会で報告された最近の経済状況(2023年8月11日)
ブラジル ボルソナーロ前大統領に被選挙権停止の判決(2023年7月22日)
チリ 軍事クーデターから50年、人々の評価(2023年6月27日)
チリ 憲法審議会選挙と右派の優位(2023年5月29日)
キューバ 国会選挙と第二期ディアスカネル政権の成立(2023年4月27日)
キューバ 今年の経済見通し(2023年3月29日)
ペルー 継続する抗議行動(2023年2月26日)
チリ 新憲法制定のための改正法が成立(2023年1月28日)
チリ 憲法改正へ向けて再始動(2022年12月20日)
ペルー 大統領の罷免と「政治的危機」(2022年12月12日)
ブラジル 大統領選と民主主義の再生(2022年11月22日)
キューバ 改正家族法の成立(2022年10月24日)
チリ 新憲法案否認についての左派の見方(2022年9月28日)
チリ 新憲法案を否決(2022年9月13日)
コロンビア ペトロ左派政権の始まり(2022年8月17日)
チリ 新しい憲法案について(2022年7月13日)
コロンビア 史上初の左派政権の誕生へ(2022年6月22日)
コロンビア 大統領選の行方(2022年6月9日)
〈ロシア軍によるウクライナ侵攻〉中南米各国政府の見解(2022年5月29日)
ペルー 高まる政治的・社会的危機の中で(2022年4月28日)
チリ ボリッチ大統領の初演説(2022年3月28日)
キューバ 家族法の改正へ向けて(2022年2月27日)
チリ 新しい政権の顔ぶれ(2022年1月31日)
チリ 大統領選での左派候補の勝利(2021年12月30日)
チリ 大統領選が映す社会の実像(2021年11月30日)
人工妊娠中絶合法化への動き(2021年10月31日)
メキシコ 人工中絶を罰するのは「違憲」(2021年9月30日)
コロンビア 「全国スト」の継続した闘い(2021年8月31日)
キューバ 抗議行動の社会的背景を考える(2)(2021年8月21日)
チリ 憲法制定議会が始まる(2021年7月29日)
キューバ 抗議行動の社会的背景を考える(1)(2021年7月20日)
チリ フェミニズム運動がもたらしたこと(2021年6月30日)
チリ ジェンダー平等からみた制憲議会(2021年6月20日)
チリ 制憲議会選挙とジェンダー平等(2021年5月29日)
キューバ 経済的苦境の中の党大会(2021年5月18日)
ペルー 大統領選挙から見た政治的課題(2021年4月29日)
エクアドル 大統領選の結果と今後(2021年4月20日)
キューバ 通貨・為替の整備について(2021年3月22日)
エクアドル 大統領選挙の行方(2021年3月7日)
コロンビア くり返される労働組合員・社会活動家への暴力(2021年2月2日)
ベネズエラ マドゥーロ大統領の年次報告(2021年1月20日)
キューバ 来年1月から通貨・為替レートの統合を開始(2020年12月16日)
ペルー 大統領の辞職と政治的危機の構図(2020年12月1日)
チリ 憲法議会選挙をめぐって(2020年11月26日)
ボリビア 新大統領の就任演説(2020年11月18日)
チリ、憲法改正の是非を問う国民投票(2020年10月31日)
ボリビアの総選挙について(2)最終結果の公表(2020年10月25日)
ボリビアの総選挙について、左派勢力の勝利へ(2020年10月23日)
キューバの「二重通貨問題」について(2020年10月15日)
キューバの労働事情(賃金編)(2020年9月29日)
キューバの労働事情(就労編)(2020年9月27日)
コロナ禍のキューバ社会(2020年9月16日)
コロナ禍、債務問題に苦しむアルゼンチン(2020年8月31日)
コロナ禍のラテンアメリカ・カリブ地域(2020年8月18日)
〈危機〉の中のベネズエラ(2020年8月4日)
ベネズエラ、増加する感染者と経済状況(2020年7月27日)
スペインの最低生活所得とベーシックインカム(2020年7月21日)
メキシコ、感染症対策と「新しい日常」、サパティスタの声明(2020年7月6日)
キューバ、感染症対策と経済活動の再開(2020年6月26日)
ペルー、感染拡大から見える社会の矛盾(2020年6月19日)
ブラジルの緊急援助とベーシックインカム(2020年6月12日)
感染拡大が続くブラジル(2020年6月4日)
「コロナ禍」のラテンアメリカ(2020年5月28日)
キューバ、感染症と国際連帯(2020年5月18日)
ボリビアの行方とパンデミック(2020年5月11日)
キューバ、憲法改正から1年(2020年5月4日)
抗議するチリ、そしてパンデミック(2020年4月27日)

(雑誌『アジェンダ』でも「ラテンアメリカの現在―分岐する世界の中で―」というタイトルの連載記事を書いています。)

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ベネズエラ 大統領選挙をめぐる動向

7月28日、ベネズエラで大統領選挙が行われました。その結果をめぐって国内では政権与党を支持する勢力とこれに対抗する野党勢力との間で対立が起こっています。この記事を書いている時点(8月15日)で何らかの決着を見ているわけではありませんが、大統領選挙の結果をめぐって何が起こっているのかを少しまとめてみたいと思います。但しすべての情報に触れているわけではないのであくまでも「暫定的」なまとめであることをあらかじめお断りしておきます。

(1)大統領選挙の「結果」

大統領選挙の「結果」についてはベネズエラの全国選挙管理委員会(CNE)が28日深夜(29日午前0時)、開票率80%時点の結果として、以下のことを公表しました。

ニコラス・マドゥーロ候補(現大統領)の得票数515万92票、得票率51.2%、野党側の最有力候補エドムンド・ゴンサレス氏の得票数444万5978票、得票率44.2%、その他野党8人の候補の合計得票数が46万2704票、得票率4.6%、投票の傾向が「強力かつ不可逆的」であるとしてマドゥーロ候補の当選(3期目)が確定としました。ちなみに投票率は59%でした。

CNEのエルビス・アモロソ委員長は結果発表の会見時に、公表が遅れた理由について、投票データの送信において「テロ攻撃」を受けたと説明しました。これにより選挙センターから集計センターへの選挙データの送信が妨害されたとしています。

マドゥーロ大統領も「全国選挙管理委員会のシステムに対する大規模なハッキング」があったと述べています。

ベネズエラの投票システムは、電子投票で行われます。その際、投票者は指紋認証を受けたのち、自分が投票する候補者を選択したのち、選んだ候補者と政党名が記載されたチケットが機械から印刷されます。そのチケットを投票箱に入れるという手順になっています。

投票した記録については、集計用紙の原本などが機械で印刷されて保存される仕組みとなっています。データを照合すれば、投票所ごとに有権者の投票行動を確認することが可能となっています。

また法律では、選挙後 48 時間以内に基礎自治体や選挙センター、各投票所での集計結果を完了することが義務付けられています。しかしその後も詳細な結果は公表されていません。

このCNEの結果発表に対して、主要野党であるゴンサレス候補陣営(民主統一プラットフォーム、PUD)は、「不正選挙であった」と非難し、ゴンサレス候補が70%の票を獲得して勝利したと宣言しました。

のちに入手したとする選挙記録(選挙記録の約82%のデータと述べている)をウェブ上で公表しました。

それによると、ゴンサレス候補の得票数730万3480票、得票率67.08%、マドゥーロ候補の得票数331万6142票、得票率30.46%、その他野党8人の候補の合計得票数が26万7640票、得票率2%という結果で、ゴンサレス候補が勝利したと繰り返し主張して、引き続き全国的に抗議行動を呼びかけています。

先にも述べたように、今回の選挙について、各投票センターの投票記録をCNEが公表していないため、PUD側が公表した記録データとの照合を行うことができていません。

今回の選挙には国際的な監視団も参加しました。CNEの結果を正当なものとして認めている機関もありますが、米国のカーターセンターは「ベネズエラの2024年大統領選挙は、選挙の完全性に関する国際的なパラメーターと基準に対応しておらず、民主的とは考えられない」として「疑義」を表明しています(7月30日)。

一方で、5名の選挙監視員から成る代表団を派遣した全米法律家組合(National Lawyers Guild)は、選挙の翌日(7月29日)に「正当性、投票へのアクセス、多元主義に細心の注意を払いながら、透明で公正な投票プロセスを観察した」とする声明を公表しました。

さらに、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の反応としては、マドゥーロ候補の勝利を認める国、反対にPUD側の勝利を認める国のほかに、選挙結果の公表を求めている国があります。

その中で、コロンビアのペトロ大統領やブラジルのルーラ大統領、メキシコのロペス・オブラドール大統領などは選挙記録の公開を求めていました。しかし、コロンビアとブラジル両国の大統領はその後、選挙のやり直しを要請するに至っています。

これに対して、メキシコのロペス・オブラドール大統領は、「ベネズエラ国民が解決すべき事柄について、誰であれ、われわれ部外者や外国政府が意見を述べるのは賢明とは思えない」と発言しています。

つまり、再選挙の実施ではなく、いま行われている最高裁での審議の結果を待って、慎重に行動することを訴えています。※最高裁での審議については(2)で説明します。

オブラドール大統領は、マドゥーロ候補の勝利を認めていませんが、ゴンサレス候補の勝利を認める各国政府や機関についても批判しています。

「私たちはどちらか一方に賛成しているわけではない。私たちが望んでいるのは、結果が公表され、選挙が行われた国の管轄当局が決定を下すことである。・・・私たちが求める唯一のことは、すべてが平和的に解決されること、暴力も弾圧もなく、すべてが平和であることである」とオブラドール大統領は述べています。

一方、米国のバイデン大統領は、「マドゥーロ(候補)がベネズエラ選挙の勝者であると宣言したのは間違いである」と発言して、野党のゴンサレス候補を支持する姿勢を示しました(8月15日)。

(2)選挙結果の認定をめぐる動き

7月31日、マドゥーロ大統領は、最高裁判所(TSJ)選挙法廷に一連の選挙プロセスを検証するために調査を行うように求める訴えを起こし、最高裁がこれを受理しました。

最高裁は、大統領選に参加した10名の候補者と38の政党代表に対して、8月2日に選挙法廷に出席すること、各自の投票関連文書や記録を提出するように命じました。同じく順次公聴会も開かれることになりました(日程は8月7、8、9日の3日間)。

8月2日の選挙法廷には、10名の候補者のうち、エドムンド・ゴンサレス候補を除く9名が出席しました。また、出席した9名の候補者のうち、エンリケ・マルケス候補は検証に必要な証拠と証明書を提示して協力する旨の書面にサインしませんでした(マドゥーロ大統領を含めた8名は最高裁の協定文書に署名)。

また、選挙法廷はCNEに対して、票の集計記録、最終集計記録、判定記録、当選者の布告といった文書を3日以内に提出するよう求めました。また、サイバー攻撃に関する文書を受け取るためにCNEの事務所を開放することも決定しました(期間は8月5日から11日までの間、24時間開放する)。

同じ8月2日にCNEから選挙の第2次結果が公表されました。それによると、投票記録のほぼ97%が精査された結果、マドゥーロ候補の得票率は51.95%(得票数640万8844票)に対し、ゴンサレス候補の得票率は43.18%(得票数532万6104票)となっています。※残りの8名については省略。

その後、8月7日の公聴会への呼び出しを受けたPUDのゴンサレス候補は出席せず、PUD傘下の3政党の代表は出席したものの、投票結果の資料の提出を拒否しました。最終的に、提出を求められた38の政党のうち、資料を提出したのは33政党でした。

公聴会が終了したのち、最高裁が行う手続きのために出廷しなかったのはゴンサレス候補だけでした。ゴンサレス候補は声明の中で、適正手続きに違反する行為に参加することになるため、最高裁判所には出廷しないことを明言していました。このほか、出廷したものの資料の提出を行わなかった候補者が2名いたことも報じられています(エンリケ・マルケス候補とアントニオ・エカリ候補)。

一連の公聴会などを経て最高裁は、8月15日、今回の大統領選挙の候補者と政党が提出した書類について「専門調査」を実施すると報告しました。

こうした中、ゴンサレス候補を支持する野党勢力は、8月17日に首都カラカスで抗議の街頭行動を行いました。これに呼応する行動が周辺諸国でも実施されました。

現状では、最高裁が今回の調査をもとにどのような判断を下すのかを注視する必要があります。その上でこの大統領選をめぐる動きがどのように推移していくのかを引き続き見ていきたいと思います。

2024年8月18日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
©2024アジェンダ・プロジェクト

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キューバ 苦境が続く経済状況

7月17日から19日までの3日間の日程で第10期人民権力全国議会(国会)の第3回通常会議が開催されました。

会議では様々な新しい法律が制定されたほか、2023年の国家財政の決算や2024年上半期の経済実績などが報告されました。

本会議に先立って、11の常設委員会の作業部会でそれぞれのテーマについての報告や議論が行われました。今回はキューバのマクロ経済の状況について報告を元に概観してみます。

7月15日に開催された経済委員会で、ホアキン・アロンソ・バスケス経済計画大臣がキューバのマクロ経済状況について報告を行いました。続いて17日には本会議で今年上半期の経済実績についての報告を行いました。

それらの報告によると、2023年の国内総生産(GDP)は1.9%のマイナス成長でした。直近の成長率を見ますと、新型コロナのパンデミックの影響を受けた2020年は10.9%のマイナス成長でした。2021年は1.3%のプラス成長、2022年も1.8%のプラス成長でしたが、いずれも低成長に終わっています。

23年はマイナス成長でしたので、いぜんとしてパンデミック前の経済状態を回復するに至っておらず、厳しい状況にあることがこの数字からも見て取れます。

本会議での報告でもバスケス大臣が、「パンデミック前の数年の結果と比較して、国は生産とサービスのレベルを回復できていない」ことを認めています。

23年のマイナス成長の理由として、米国による経済封鎖、外貨と製品の供給不足、燃料不足、過剰流動性(現金や預金量が経済活動に必要な適正水準を上回っている状態。いわゆる「カネ余り」)などを指摘しています。

産業別で見ると、とくに農業と製造業に関しては、それぞれ約12.7%、約1.4%のマイナスとなっています。

一方で、23年のGDPに最も寄与した部門は、観光・ホテル部門のプラス13%でした。しかし、2024年(上半期)のデータについては、「期待が持てるものではなかった」とも述べています。

今年(2024年上半期)の経済実績の評価については、高い水準の財政赤字と、望ましいレベルを超過する通貨発行が続いているとしています。これは、インフレ傾向が当面続くことを意味しています。

バスケス大臣は、キューバ経済の問題点として「不十分な外貨収入、膨大な対外債務、低い国内生産の回復」の3点を指摘し、「燃料やエネルギーの制約」と「高インフレ」を挙げています。

以下、報告のポイントに沿って列挙します。

・外貨収入について、今年上半期末の時点では前年同期比で2億4900万ドル増えたものの、計画された額よりも2億2200万ドル少なかった。輸出による外貨収入は、計画の88%を達成し、前年同期比で24%増と報告。

・好調だった輸出品目は、タバコ、木炭、ウナギやロブスターなどの水産物、バイオ医薬品などであった。しかし、ニッケル、砂糖、蜂蜜、ラム酒、海エビは想定された収入レベルに届いていない。

・医療サービスなどのサービス輸出も計画レベルを達成しているが、観光サービスや電気通信は想定レベルに届かなかった。

・観光業については、2023年は前年比1.8%のプラスだった。海外からの来訪者は132万1900人(15日の経済委員会では180万人と報告されていた)で、計画の約85%を達成したものの、2019年同時期の達成率と比べるとその51.6%にすぎない。国・地域別に見ると、カナダ、ロシア、海外在住のキューバ人、ドイツからの来訪者が多く、とくにカナダとロシアからの割合が大きい。

・より多くの外貨収入を達成する必要があるにもかかわらず、上半期で対外売上(売掛)債権(販売代金を将来的に受け取る権利。現段階では未回収の代金)が6.4%増加した。「輸出代金の回収管理を改善する必要がある」と指摘。

・輸入については、計画の58%しか満たされていない。食料、燃料、医薬品、医療消耗品を優先している。食料と燃料の輸入が支出の大部分を占めている。

・非国営企業の輸入額は9億ドルに上る。そのうち約6億2200万ドルが零細、中小企業の相当分となっている。

・外国からの投資については、今年上半期で12件の外資による新規事業を認可。そのうちの1件はマリエル特別開発区での事業であった。

・農牧畜業では、ほとんどの農業生産が計画を満たしていない。肥料、殺虫剤、殺菌剤、燃料、家畜飼料の不足が生産未達成の主な原因の一つである。この部門の輸入額は年間17億ドルに上っており、国内の自給率を上げることが不可欠である。

・全国の発電システムについては、持続可能性のための燃料や資源が限られており、需要を満たす上で「リスクと課題」に直面し続けている。

また、エネルギーなどさまざまな分野への主な投資に関して、2000MW(メガワット)の太陽光発電の建設工事や熱電発電所のメンテナンスなどについて言及。

キューバでは、とくに今年の5月以降、エネルギー事情が悪化しており、ピーク時の停電が頻繁に発生しています。その主な原因は燃料不足と発電施設の老朽化による故障ですが、メンテナンスのための投資、調達すべき資材の確保が十分でないことが障害になっています。

・インフレの動向については、2023年以降は減少傾向にある。「しかし30%を下回るには障害がある」と報告。

「これは、物価の下落を意味するものではなく、物価は上昇し続けているが、そのペースは落ちている」と説明。

・高い水準のインフレについて、バスケス大臣は、財やサービスの供給が制限されている中で、原価コストを大きく上回る価格、違法な為替レートに基づいた価格形成などの投機行為について言及するとともに、推定値として人口の約10%(主に非国営部門)にお金が最も集中していると報告。

・各種事業体については、1万8973ある事業体のうち、2674の国営企業、120の混合企業、5133の協同組合、1万1046の民間の中小・零細企業という内訳になっている。

・自営業者については、現在、59万6167 人となっている。国営企業部門では 130 万人以上の労働者が雇用されており、輸出の80%は国営企業が担っている。

・税引前損失を抱えている企業は340社あり、そのうち319社が国営企業である(1年前より51社増加)。

これらの報告からは、キューバ経済の中心を担うと位置づけられている国営企業の多くが赤字体質から脱却できておらず、民間の中小・零細企業、自営業者が経済活動を支えている構図が見えてきます。

その一方で、稼げる者とそうでない者との間で格差が生じていること、またお金のアクセスと運用をめぐっては、課税逃れや違法な両替行為、汚職などの問題が起こっていることにも留意する必要があります。

また、15日の経済委員会の作業部会では、労働組合であるキューバ労働者センター(CTC)のウリセス・ギラルテ・デ・ナシミエント書記長が発言しています。

ナシミエント書記長は、複雑な経済・金融状況により、今年後半の見通しは困難になると述べています。

その上で、一般の人々の議論の中心は、家庭の基礎配給品の供給不足、高水準のインフレ、年金や労働者の賃金の購買力(の低下)などに対してどう解決策を見いだすかにあると説明しています。

最後の点は、賃金の名目金額が増加しても、現在の物価上昇に対しては十分なアップではない、つまり実質の購買力は下がっていることを意味しています(年金も同様)。

また、国の歳入不足、外貨収入を満たすために輸出を強化する必要性、海外からの直接投資の不足などについても言及しました。

さらに社会主義国営企業については、特に農牧畜業、砂糖、食品産業などの第一次産業において、依然として赤字企業が存在すると述べました。いかに供給を増やすかにもっと力を入れることを強調しています。

キューバ経済の構造的な課題として、まず供給(とくに生活に必要な財に関して)を増やして、各企業が利益を上げられる状態を作ることができるかがポイントになると思います。

そのためには、投資を増やすことが求められますが、それは同時にそのための資金、つまり外貨の安定的な調達が必要となります。

しかし政府が優先的に行おうとしていることは、例えばインフレ対策としての生活必需品に対する価格統制(上限を決めてフタをする)であったり、利益を上げている中小・零細の非国営企業に対する優遇税制の撤廃による課税強化などです。

これらの措置はどちらかと言えば、供給を抑制する方向に作用すると言えます。もちろん、企業の税逃れなどの行為が見過ごせないのはそのとおりですが、それが一律に実施されると委縮効果をもたらす可能性があることにも留意する必要があります。

今回は総論的にマクロの経済状況を見てきましたが、各産業の状況や人々の暮らしの面からなど、多角的にキューバ経済の実態を引き続き調べていきたいと思います。

2024年7月26日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
©2024アジェンダ・プロジェクト

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メキシコ 大統領選とジェンダー平等

6月2日、メキシコで総選挙(大統領、上下院)が行われました。今回の選挙は連邦レベルだけでなく、州知事や地方議会選挙も行われたので「メキシコ史上最大の選挙プロセス」とも呼ばれています。

ここでは大統領選挙と連邦議会選挙に絞って内容を見ていきたいと思います。

(1)初めての女性大統領の誕生

まず、大統領選は、与党連合(国民再生運動、メキシコ緑の環境党、労働党)のクラウディア・シェインバウム候補(前メキシコ市長)、野党連合(国民行動党、制度的革命党、民主革命党)のソチル・ガルベス候補(前上院議員)、第3極である市民運動のホルヘ・アルバレス・マイネス候補(前下院議員)の3名で争われ、クラウディア・シェインバウム候補が勝利しました。メキシコで初めて女性の大統領が誕生したことになります。次点で敗れた野党のソチル・ガルベス候補も女性でした。

投票結果は以下のとおりです。投票率61.04%(前回2018年より2.4%低下)

①クラウディア・シェインバウム候補 得票率59.75%

②ソチル・ガルベス候補 得票率27.45%

③ホルヘ・アルバレス・マイネス候補 得票率10.32%

任期は2024年10月1日~2030年9月30日までの6年間。再選はなし。

クラウディア・シェインバウム候補の勝利を見る上で、BBC(2024年6月3日付配信記事)は3つの数字を上げて説明しています。

1つ目は、3500万を超える得票数です。前回(2018年)のロペス・オブラドール大統領の得票数は3000万強でした。この間に総人口が増加して有権者数も増えているのでそれが得票数の増加に反映しているとも言えますが、いずれにせよ、メキシコの民主主義史上、最も多くの票を獲得しています。

2つ目は、野党候補との得票率の差が30%超(32%)もついたことです。その要因はいくつかありますが、シェインバウム候補のメキシコ市長としての行政手腕が肯定的に評価されたことと同時に、ロペス・オブラドール現大統領の人気の高さが指摘されています。実際、任期を終えるオブラドール大統領の支持率は大統領選の1か月前でも60%を記録したことが報じられています。

3つ目が議会での多数派(3分の2)の獲得可能性についてです。6月3日時点の記事の説明では、与党連合は「下院で少なくとも 334 議席、上院で 76 から 88 議席を獲得した。」と報じています。

下院の定数が500、上院の定数が128ですので、それぞれ3分の2の多数派を形成する可能性があると指摘されています。しかも、記事によれば、連邦議会の議席の3分の2を占めるのは、制度的革命党が支配していた1980年代以来のことです。

また、「3分の2」の議席確保は、連邦憲法の改正を可能にします(憲法改正には連邦議会の出席議員の3分の2の賛成が必要。その後で、全国の州議会の過半数の承認が必要とされます)。

このように行政府の長と議会の多数派を獲得したことは、シェインバウム政権(与党・国民再生運動)にとって、「貧困、暴力、汚職」というメキシコ社会が抱える構造的な問題に取り組む上で大きな支えになると言えます。

(2)ジェンダー平等の到達度

ここからBBCの別の記事(2024年5月27日配信、6月5日更新)を紹介します。それはメキシコの政治分野におけるジェンダー平等のプロセスに関する記事です。

まず、連邦議会(上下院合わせて628人)における男女比の変化を挙げておきます。

1988年 男性(89.18%)、女性(10.82%)

2000年 男性(84.87%)、女性(15.13%)

2018年 男性(50.48%)、女性(49.52%)

2021年 男性(49.04%)、女性(50.92%)

※下院議員の任期は3年(連続4期まで)、上院は6年(連続2期まで)

これを見ると、この20年間で大きく変わった(女性議員の割合が多い)ことがわかります。ちなみにメキシコの女性参政権獲得は1953年、翌54年の議会選挙で1名の女性議員が誕生しました。

それではこの変化をもたらした要因は何かということですが、クオータ制(候補者の一定数を女性に割り当てる制度)の導入がそれをもたらしてきたと言えます。

とは言え、制度が導入されてすぐ大きな変化につながったというわけではないようです。朝日新聞2024年6月13日の記事「ジェンダーを考える」などによると、メキシコにクオータ制が制定されたのは1996年(選挙法改正)でしたが、この時は義務ではなく、努力目標(候補者の30%を女性に割り当てる)でした。義務化されたのは2002年で、翌03年選挙後に女性議員の割合が初めて20%を超えました。

2008年に40%クオータへと拡大。2014年に政党候補者のパリテ(男女同数)導入によって、女性議員の割合が40%を超えていくことになりました。メキシコの場合は義務型なので違反した場合は罰則が適用されます。

さらに2019年の憲法改正によって「すべてに平等(パリテ)」条項が制定されました。これは、これまでの連邦議会議員と州議会議員の候補者だけではなく、すべての公的部門(候補者や役職)にパリテ原則を適用するというものです。つまり立法府だけでなく、行政府、司法、さらにムニシピオ(自治体)も対象となっています。

ロペス・オブラドール政権の下では、2018年から今年までの間、連邦政府の全閣僚(20名)のうち10名が女性閣僚でした。

司法では、女性の進出は制限されてきましたが、法改正によって、国家最高司法裁判所(連邦最高裁)を構成する11名の裁判官のうち、5名が女性となっています(裁判官は議会の指名を受けて大統領が任命)。

州知事では、今回の選挙までは、全国32州のうち女性知事は9名でしたが、今回の選挙結果で4名増えることになると報じられています。

このように憲法改正を頂点とする法制度改革によって、政治分野での意思決定への女性の進出は大きく前進してきていることがわかります。

ちなみに「ジェンダーギャップ指数」2024年版のランキングで、メキシコは33位(前年と同じ。日本は118位)となっています。

しかし、同じBBCの記事では、実際に女性を取り巻く様々な問題(具体的には、貧困と経済的自立、性暴力の根絶、中絶の合法化やケアの権利保障など)の改善は、それだけ(政治分野での意思決定への女性の進出が拡大しただけ)で、ただちに「保証」されるものではないとも指摘しています。

なかでも家父長制的な文化やマチスモ(男性優位主義的な思想)がなくなっていくには更なる取り組みと時間が必要とされると述べています。

2024年6月25日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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アルゼンチン 公立大学を守る歴史的意義

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ベネズエラ 大統領選挙に向けた動き

ベネズエラの選挙管理委員会(CNE)は3月5日、次期大統領選挙を24年7月28日に実施することを発表しました。

その中でCNEのエルビス・アモロソ委員長は選挙までのプロセスを次のとおり公表しました。

有権者の選挙人登録の特別期間は3月18日~4月16日

候補者の申請書提出は3月21日~25日

選挙運動期間は7月4日~25日

投票日は7月28日

(1)大統領選に至るまでの動き

今年行われる大統領選挙の内容については、23年10月17日にカリブ海のバルバドスで与野党対話が行われて双方が合意に達しました(ノルウェーが進行役)。

公表された「合意文書」には、2024年下半期の大統領選挙の実施、EU・国連などの国際的な監視団の受け入れ、候補者の安全保証、選挙資金の透明性の確保、公平な報道などが含まれていました。

これに基づいて、候補者の指名・選定がそれぞれの政党グループ間で行われてきました。

まず与党勢力ですが、現職のニコラス・マドゥーロ大統領が出馬を表明し指名を受けています。3月16日にベネズエラ統一社会主義党(PSUV)は、マドゥーロ氏を大統領選の正式な候補者として発表しました。マドゥーロ大統領は3期目を目指して選挙を戦うことになります。

一方の野党勢力の候補者選定ですが、主な野党連合である「民主統一プラットフォーム」(PUD)は4月19日、エドムンド・ゴンサレス・ウルティア氏を大統領選の統一候補者として「全会一致で」承認したことを明らかにしました。

エドムンド・ゴンサレス・ウルティア氏に決まるまでには紆余曲折がありました。

まず昨年10月に行われたPUD内の予備選挙の結果、マリア・コリーナ・マチャド氏が候補者に選出されました。

しかし同氏は、23年6月に会計検査院から「資産申告に誤りと記載漏れがある」ことを理由に公職就任資格の停止処分(15年間)を受けており、立候補が認められるかどうかは当初から不透明な状況にありました。

同氏の公職就任資格の停止措置の撤回を求める申し立ては、今年1月26日に最高裁が「不適とする」判断を下したことで退けられました。

マチャド氏は自らの立候補の届け出ができなくなる前に、代替の候補としてコリーナ・ヨリス氏を指名しました。しかしヨリス氏の立候補については、立候補のための電子登録の途中で専用ウェブサイトへのアクセスがブロックされてできなかったと主張する事態になります。選挙管理委員会(CNE)はこの主張を否定しています。

こうした動きの中で、PUDは、3月の時点でエドムンド・ゴンサレス・ウルティア氏を候補者として「暫定的に登録すること」を決定しました。その理由として「統一候補が登録できるまでの間、我々の政治組織に属する政治的権利の行使を保持するため」と説明しています。

ゴンサレス氏の登録が認められていたことは、3月26日に選挙管理委員会が会見で確認していました。

PUDがゴンサレス氏を正式に候補者として承認したのは4月19日でした。選挙のプロセス上では「候補者の変更が認められる期限」(4月20日まで)の前日のことでした。

ゴンサレス氏は、「選挙を通じて変化を望むすべての人々の候補者であるという計り知れない栄誉と責任を私は引き受ける。ベネズエラ国民に愛をこめて」と、自身のXアカウントに投稿しました。

PUDのオマール・バルボサ事務局長は、ゴンサレス氏が選挙管理委員会に「登録されている」ことを確認した上で、「選挙戦には勝利を収めるだろう」と述べました。

PUDの予備選で勝利していたマチャド氏は、公開した録画ビデオの中で「我々は自由に向けて再び大きな一歩を踏み出した」とコメントしました。

また、野党にはすでに「すべての人たち、すべての政党、善良な市民たちから支持されている候補者」がいることをアピールしました。

登録ができなかったコリーナ・ヨリス氏もXアカウントで「我々には候補者がいる。何よりも団結だ」と呼びかけています。

ゴンサレス候補は現在74歳、外交官として1991年から1993年まではアルジェリア大使を務め、ウーゴ・チャベス政権初期にはアルゼンチン大使も務めています。

野党勢力の一員としては、2013 年から 2015 年までの期間に「民主統一円卓会議」の国際代表を務めました。

(2)米国政府による緩和していた制裁措置の再開

4月17日、米国政府は、ベネズエラのマドゥーロ政権が、予定している大統領選挙についての野党側との約束を履行していないとして、ベネズエラの石油事業に対する制裁措置を再開することを明らかにしました。

これは、前述した野党候補の登録を巡る一連の動きをベネズエラ政府による「妨害」と判断して、圧力をかけるために実施することを意味しています。

米財務省は、昨年10月に実施した期限付き(6カ月間)の制裁緩和措置の期限日となる4月18日の数時間前に自身のウェブサイトで、石油・ガス事業についてベネズエラ国営企業との取引を「解消」する目的で、取引企業に45日間の猶予を与える代替のライセンスを発行したと発表しました。

米国政府はここ数カ月の間、もし「自由で競争的な」選挙を実施するために野党側と合意した昨年10月の約束をマドゥーロ大統領が履行しなければ、同国の石油・ガスといったエネルギー事業に対する制裁措置を再開すると、繰り返しベネズエラ政府に対して圧力をかけてきました。この時の合意によって昨年10月には米国政府による制裁措置が部分的に緩和されていました。

ベネズエラの石油企業に対する制裁措置(米国企業による取引停止)は、2019年にトランプ政権時に初めて科されました。これは、2018年の大統領選挙が不正の疑いがあるとして、米国政府を筆頭に多くの西側諸国が無効であり、マドゥーロ政権を正式な政府とは認めないという判断に基づくものでした。

米政府高官らは、4月17日、マドゥーロ大統領は昨年の合意に基づく約束を一部は履行したものの、大統領選に野党が自ら選んだ候補者の擁立を認めないなど、その他の約束を反故にしたと述べました。

「(合意が)履行がなされていない分野には、専門的な事柄による立候補者や政党の資格剥奪、野党や市民社会の人物に対する嫌がらせと抑圧の継続的なパターンが含まれている」と米国の当局者はコメントしています。

今回の制裁措置の再開は、野党勢力のみならず米国政府との対話の流れを逆転させるものではあるものの、完全な方向転換や、19年に「暫定大統領」を一方的に宣言した野党のフアン・グアイドー氏を正当として承認したドナルド・トランプ前大統領が実施した「最大限の圧力」に匹敵するものとは言えないと指摘されています。

その根拠の1つが、先の米財務省の発表の中に、ベネズエラ国営企業との取引については、ケースバイケースで検討するという趣旨の内容が含まれていることです。つまり一律、全面的に禁止しない姿勢を示しています。

また、アナリストたちの分析によれば、仮にベネズエラのエネルギー部門に対する厳しい制裁を復活させれば、バイデン大統領が11月の米国大統領選の再選に向けて選挙活動を行っている期間に、世界的に原油価格が上昇したり、メキシコ国境へのベネズエラ人移民の流入が増加したりする可能性があると懸念されており、これらの懸念材料が今回の決定に影響していると見られています。

とは言え、ベネズエラ政府は、今回の米国政府の決定はベネズエラに対する米国の「新たな侵略」とみなされる行為だとして非難しました。

ニコラス・マドゥーロ大統領は、「いかなるものも我々を止められない。我々は誰の植民地でもないからである」と明言しました。

また、同国のラファエル・テレチェア石油相は、石油部門は今後も成長すると述べています。

「我が国は、エネルギー開発を停止させるための攻撃を受けてきたが、その間においても、違法な制裁の有無にかかわらず前進し続けることを我々は示してきた」と発言しました。

BBCの配信記事では、大統領選について、「多くの世論調査ではマドゥーロ氏を支持する割合は低いとの予想が出ている」が、「著名な野党政治家の候補者登録に障害が出ている」ことなどから、「政治的変化の可能性は低い」としています(4月17日付)。

大統領選には、与党と主な野党候補の2名のほかにも登録している候補者が11名おり、その中で選挙戦が繰り広げられることになっています。大統領の任期は2025年1月から2031年1月までの6年間です。

2024年4月30日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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