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はじめに

 「ラテンアメリカの現在」は、ラテンアメリカ・カリブ海地域での民衆の社会運動を軸に、その背景となる政治・経済的なニュースをピックアップして紹介するページです。

 2000年代以降、この地域では、新自由主義的グローバリゼーションに抗する社会運動の活発化と連動した「左派・進歩派政権」が台頭してきました。しかし2010年代になって次第に、左派政権の政策面での行き詰まりや右派勢力の巻き返しなどが起こり、ラテンアメリカ社会自身がいろいろな意味で分岐してきています。
 とりわけ、米国ではトランプ政権による介入主義的な対応が強まり、各国内でも権威主義的な政治の傾向が顕著になっています。

 こうした情勢の複雑な変化を踏まえつつ、ラテンアメリカ社会が現在から未来にわたってどう変化していこうとしているのかをできるだけ事実を踏まえ、読み解きながら考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

【記事一覧】
チリ 11月大統領選挙の結果(2025年11月29日)
コロンビア 米国による圧力強化と深まる対立(2025年10月27日)
ボリビア 大統領選・決戦投票の結果(2025年10月26日)
アルゼンチン 州議会選挙での与党の敗北(2025年9月25日)
ボリビア 8月大統領選挙の結果(2025年8月29日)
アルゼンチン 深まる政府と議会の対立(2025年7月29日)
チリ 先住民の権利を認める制度改正への動き(2025年6月28日)
キューバ 苦境が続く観光業(2025年5月27日)
キューバ 回復の兆しが不透明な経済状況(2025年4月27日)
アルゼンチン 退職した年金生活者の闘い(2025年3月23日)
アルゼンチン ミレイ大統領と「投資詐欺」疑惑(2025年2月24日)
メキシコ 「トランプ2.0」に備える経済発展プラン(2025年1月27日)
メキシコ 「トランプ2.0」への対応(2024年12月23日)
ブラジル 先住民による「土地の権利」を守る闘い(2024年11月27日)
アルゼンチン 増加する貧困層(2024年10月23日)
アルゼンチン ミレイ政権による新自由主義改革の行方(2024年9月25日)
ベネズエラ 大統領選挙をめぐる動向(2024年8月18日)
キューバ 苦境が続く経済状況(2024年7月26日)
メキシコ 大統領選とジェンダー平等(2024年6月25日)
アルゼンチン 公立大学を守る歴史的意義(2024年5月31日)
ベネズエラ 大統領選挙に向けた動き(2024年4月26日)
キューバ 経済状況の悪化と社会的不満の高まり(2024年3月26日)
チリ 昨年12月の憲法改正国民投票の結果について(2024年2月29日)
アルゼンチン ゼネストに立ち上がる労働者(2024年1月30日)
アルゼンチン ウルトラ・リベラリズム政権の始まり(2023年12月12日)
チリ 新憲法案が抱えるジレンマ(2023年11月17日)
アルゼンチン 大統領選挙は決選投票へ(2023年10月25日)
チリ 軍事クーデターから50年の今(2023年9月23日)
キューバ 国会で報告された最近の経済状況(2023年8月11日)
ブラジル ボルソナーロ前大統領に被選挙権停止の判決(2023年7月22日)
チリ 軍事クーデターから50年、人々の評価(2023年6月27日)
チリ 憲法審議会選挙と右派の優位(2023年5月29日)
キューバ 国会選挙と第二期ディアスカネル政権の成立(2023年4月27日)
キューバ 今年の経済見通し(2023年3月29日)
ペルー 継続する抗議行動(2023年2月26日)
チリ 新憲法制定のための改正法が成立(2023年1月28日)
チリ 憲法改正へ向けて再始動(2022年12月20日)
ペルー 大統領の罷免と「政治的危機」(2022年12月12日)
ブラジル 大統領選と民主主義の再生(2022年11月22日)
キューバ 改正家族法の成立(2022年10月24日)
チリ 新憲法案否認についての左派の見方(2022年9月28日)
チリ 新憲法案を否決(2022年9月13日)
コロンビア ペトロ左派政権の始まり(2022年8月17日)
チリ 新しい憲法案について(2022年7月13日)
コロンビア 史上初の左派政権の誕生へ(2022年6月22日)
コロンビア 大統領選の行方(2022年6月9日)
〈ロシア軍によるウクライナ侵攻〉中南米各国政府の見解(2022年5月29日)
ペルー 高まる政治的・社会的危機の中で(2022年4月28日)
チリ ボリッチ大統領の初演説(2022年3月28日)
キューバ 家族法の改正へ向けて(2022年2月27日)
チリ 新しい政権の顔ぶれ(2022年1月31日)
チリ 大統領選での左派候補の勝利(2021年12月30日)
チリ 大統領選が映す社会の実像(2021年11月30日)
人工妊娠中絶合法化への動き(2021年10月31日)
メキシコ 人工中絶を罰するのは「違憲」(2021年9月30日)
コロンビア 「全国スト」の継続した闘い(2021年8月31日)
キューバ 抗議行動の社会的背景を考える(2)(2021年8月21日)
チリ 憲法制定議会が始まる(2021年7月29日)
キューバ 抗議行動の社会的背景を考える(1)(2021年7月20日)
チリ フェミニズム運動がもたらしたこと(2021年6月30日)
チリ ジェンダー平等からみた制憲議会(2021年6月20日)
チリ 制憲議会選挙とジェンダー平等(2021年5月29日)
キューバ 経済的苦境の中の党大会(2021年5月18日)
ペルー 大統領選挙から見た政治的課題(2021年4月29日)
エクアドル 大統領選の結果と今後(2021年4月20日)
キューバ 通貨・為替の整備について(2021年3月22日)
エクアドル 大統領選挙の行方(2021年3月7日)
コロンビア くり返される労働組合員・社会活動家への暴力(2021年2月2日)
ベネズエラ マドゥーロ大統領の年次報告(2021年1月20日)
キューバ 来年1月から通貨・為替レートの統合を開始(2020年12月16日)
ペルー 大統領の辞職と政治的危機の構図(2020年12月1日)
チリ 憲法議会選挙をめぐって(2020年11月26日)
ボリビア 新大統領の就任演説(2020年11月18日)
チリ、憲法改正の是非を問う国民投票(2020年10月31日)
ボリビアの総選挙について(2)最終結果の公表(2020年10月25日)
ボリビアの総選挙について、左派勢力の勝利へ(2020年10月23日)
キューバの「二重通貨問題」について(2020年10月15日)
キューバの労働事情(賃金編)(2020年9月29日)
キューバの労働事情(就労編)(2020年9月27日)
コロナ禍のキューバ社会(2020年9月16日)
コロナ禍、債務問題に苦しむアルゼンチン(2020年8月31日)
コロナ禍のラテンアメリカ・カリブ地域(2020年8月18日)
〈危機〉の中のベネズエラ(2020年8月4日)
ベネズエラ、増加する感染者と経済状況(2020年7月27日)
スペインの最低生活所得とベーシックインカム(2020年7月21日)
メキシコ、感染症対策と「新しい日常」、サパティスタの声明(2020年7月6日)
キューバ、感染症対策と経済活動の再開(2020年6月26日)
ペルー、感染拡大から見える社会の矛盾(2020年6月19日)
ブラジルの緊急援助とベーシックインカム(2020年6月12日)
感染拡大が続くブラジル(2020年6月4日)
「コロナ禍」のラテンアメリカ(2020年5月28日)
キューバ、感染症と国際連帯(2020年5月18日)
ボリビアの行方とパンデミック(2020年5月11日)
キューバ、憲法改正から1年(2020年5月4日)
抗議するチリ、そしてパンデミック(2020年4月27日)

(雑誌『アジェンダ』でも「ラテンアメリカの現在―分岐する世界の中で―」というタイトルの連載記事を書いています。)

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チリ 11月大統領選挙の結果

11月16日(日)、南米チリで次期大統領選挙と国会(上下院)議員選挙が行われました。その結果についてまとめてみます。

(1)大統領選の結果

大統領選挙は8名の候補者で争われました。結果(数字は得票率)は以下のとおりです。

①ジャネット・ハラ候補(共産党)26.85%
②ホセ・アントニオ・カスト候補(共和党)23.92%
③フランコ・パリシ候補(人民党) 19.71%
④ヨハネス・カイザー候補(国民自由党)13.94%
⑤エヴリン・マテイ候補(独立民主同盟)12.46%
⑥ハロルド・メイネ-ニコルズ候補(無所属)1.26%
⑦マルコ・エンリケス-オミナミ候補(無所属)1.20%
⑧エドゥアルド・アントニオ・マルテス候補(無所属)0.66%

白票:1.06% 無効票:2.68%  投票率:85.26%(チリは義務投票制)
※チリの大統領は再選を認めておらず一期のみ。次の任期は2026年3月11日から2030年6月11日までの4年間。

いずれの候補者も過半数に届かなかったため、上位2名による決戦投票が12月14日(日)に行われることになりました。

現在の与党であるボリッチ政権を含めた中道左派勢力は早くから候補者を共産党のハラ氏に一本化し(6月29日)、選挙直前の世論調査でもトップに立っていました。

一方、カスト氏に代表される右派勢力からは、3名(カスト氏、カイザー氏、マテイ氏)が立候補しました。その中でカスト氏が「勝利」(全体では2位)したことで、12月の決戦投票は左派のハラ氏と右派のカスト氏の一騎打ちとなります。

12月の決戦投票に向けては、多くのメディアが、カスト氏「有利」・ハラ氏「苦戦」と報じています。というのも、今回の投票での他の右派候補(4位のカイザー氏と5位のマテイ氏)の得票率の合計が26.4%で、これをそのままカスト氏の得票率と合計すると50.32%の過半数となるからです。

そこでカギと見られているのが、今回3位につけたハリシ氏を支持した票の行方です。仮にハリシ氏の得票率19.71%がそのままハラ氏の得票率に上乗せされたとしても46.56%で過半数には届きません。当初からハラ陣営は1回目の投票で30%台の得票率を目標にしていましたが、思ったようには支持が伸びませんでした。

上記のことはあくまでも単純な計算上のことであり、12月14日までの限られた時間の中で両陣営、とくにハラ候補がどのような訴えをして有権者の支持を獲得していくのかが注目されます。

ハラ氏は、今回の結果を受けて、「わが国には未来があり、それは子どもたちの中にあります」と述べました。「民主主義は守られ、尊重されなければなりません。私たちは民主主義を取り戻すのに多くの犠牲を払ったにもかかわらず、今、民主主義は危険にさらされています」と呼びかけました。

他方、カスト氏は「チリの利益のため、そして私たちが直面している危機を乗り越えるためには、団結が不可欠です。チリという大義のために、私たちは団結しなければなりません」と訴えました。こう訴えるカスト氏の傍には5位のマテイ氏の姿があり、4位のカイザー氏もカスト氏への支持を表明しました。

カスト氏本人は「3度目の正直」と語っています(今回が3度目の挑戦。前回はボリッチ現大統領に敗れた)。今回の選挙でカスト氏が掲げている政策は、米国のトランプ大統領の政策と同じように、「不法移民」対策と称した国境取り締まりの強化や、組織犯罪に強硬な対応を取ることなどを提案しています。

カスト氏は、弁護士出身で保守的なカトリックと言われています。「極右」と言われることには否定的な態度を示していますが、過去には、軍事独裁を敷いたアウグスト・ピノチェト氏を支持する発言をするなど、物議を醸してきました。

他方、事前の予想を上回って全体の3位につけたパリシ氏は「街頭で支持(票)を獲得せよ」と、ハラ氏にもカスト氏にも呼びかけて、どちらの候補に対しても支持を表明しませんでした。中道右派と言われるパリシ氏は、それぞれの候補を「極左」と「極右」と規定して、「イデオロギー」よりも「国民」を優先するよう訴えました。

自らを既存勢力の「アウトサイダー」として押し出し、左派も右派も国民を利用してきた、その悪弊を終わらせるというのがパリシ氏が演説で強調している点です。選挙戦では自らを、「怒り」を持った中間層の代表と位置づけてきました(※パリシ氏は、経済学者として米国の大学で教鞭をとってきました。大統領選への出馬はカスト氏と同じく3度目)。

パリシ氏の3位「躍進」は、こうした訴えが一定の支持を得たことの表れです。あとで見るように、下院議会ではパリシ氏の率いる「人民党」が14議席を獲得したことで「キャスティング・ボード」を握っていると見られています。

カスト氏が「有利」な中、ボリッチ現政権を支えてきた左派勢力がハラ氏のもとで引き続き政権を継承し維持できるかどうかの岐路に立っていると言えます。

(2)国会(上下院)議員選挙の結果

続いて、政党連合別(現在の与野党)の国会議員選挙の結果は以下のとおりです。

▪下院(改選:全155議席)

与党(左派)
①「チリのための統一」(Unidad por Chile:共産党・社会党・拡大戦線など7政党)(61議席)
②「緑、地域主義、人道主義」(Verdes, Regionalistas y Humanistas:緑の地域主義・社会連盟)(3議席)
③「無所属」(現与党支持)(1議席)

野党(右派)
①「偉大で統一したチリ」(Chile Grande y Unido:独立民主同盟・民主党など4政党)(34議席)
②「チリのための変革」(Cambio por Chile:共和党・国民自由党など3政党)(42議席)

※「人民党」(14議席):現時点で議決の際に野党に加わるか不明

▪上院(改選23議席 全50議席)

与党(左派)
①「チリのための統一」(Unidad por Chile)(改選11+非改選9 計20議席)
②「緑、地域主義、人道主義」(Verdes, Regionalistas y Humanistas)(改選1+非改選2 計3議席)
「無所属」(現与党支持)(改選0+非改選2 計2議席)

野党(右派)
①「偉大な団結したチリ」(Chile Grande y Unido)(改選5+非改選13 計18議席)
②「チリのための変革」(Cambio por Chile)(改選6+非改選1 計7議席)

人民党は獲得議席0

※( )内は獲得議席数

この結果、下院では野党の右派勢力は合計76議席を獲得しましたが、過半数の78議席には2議席及びませんでした。しかし態度を明確にしていない人民党の対応如何では右派が過半数を制することになります。

上院では、改選・非改選を合わせて右派勢力が25議席を獲得、一方、与党支持と見られている無所属を含めた左派勢力も25議席となり、同数で拮抗する結果となりました。

(3)大統領選挙での大きな争点

再び大統領選にもどって、今回の大統領選挙の争点の一つが、犯罪の増加による治安対策と急増する移民への対応と言われてきました。とくに組織犯罪の増加への対応が有権者の大きな関心事となっています。

移民の増加については、国立統計局(INE)のデータによっても近年急増していることが明らかになっています(2024年の調査では160万人超、人口比約8.8%、2017年~24年の間で倍増)。来ている国で多いのはベネズエラ(全体の41.6%)で、続いてペルー(14.5%)、コロンビア(12.3%)となっています。

この移民の急増に関して多くの人が「不安」を抱くようになっていることが世論調査でも顕著となっています。公共研究センター(CEP)の調査では、自分の地域に外国人がいることについて「非常に心配している」と答えた人の割合が約44%、「ある程度心配」が約22%、「ほとんど、あるいは、まったく心配していない」が約34%となっています。

そして、移民と犯罪の増加との関連についてですが、移民の増加が犯罪率を高めている(国内の治安が悪化している)と考える国民の割合が増えています。チリのカトリック大学が行った調査(2023年)では、犯罪増加の原因は移民にあると考えている人が9割にも達しています。

しかし、統計上の分析ではその関連性が薄い(移民が増えていても、外国人の犯罪がとりわけ増えているわけではない)ことが指摘されています。

但し、外国人の犯罪種別で多いのが薬物関連の犯罪(麻薬密売)、組織犯罪(強盗)であることや、殺人事件でも犯人が外国人だった場合にメディアの報道が頻繁に行われていることなどにより、人々の認識がそのように(移民が増えたことで外国人による犯罪が増えたと認識)作用しているのではないかと分析されています。

(4)決戦投票に臨むハラ候補の経歴

先にも少し触れましたが、右派で反リベラルと見られているカスト氏に対して、ハラ氏は自らを「民主主義の守護者」としての立場をより積極的に打ち出す必要があると見られています。

ハラ氏が共産党員であることから、共産党に対する抵抗感を持たれている側面のほかに、現与党の左派連合からの候補でもあることで、国民が関心を持っている治安や移民問題に対する現政権の対応が不十分であると考えている有権者からの支持を得られていないという面があります。

つまり決戦投票に臨むにあたって、国内治安への人々の不安や移民の増加といった問題に十分な関心を示すことで、ハラ氏が現政権に批判的な立場をとる有権者の間でどれだけ支持をのばすことができるのかが勝負の分かれ目と見られています。

ハラ氏(51歳)は、首都州サンティアゴ北部の低所得地域である旧コンチャリ(現在はインデペンデンシア)の出身で、父親が工場の機械工で労働組合の活動家、母親が主婦で、5人きょうだいの長女として育ちました。きょうだいの中で大学に進学したのは彼女だけだったとのことです(大学では行政学と法学を学び、学費は働いて賄っていた)。

1989年(10代半ば)にチリ共産主義青年団に参加し、チリ共産党には1990年に入党し活動しています(ピノチェト独裁から民政移管の時期)。職業上のキャリアとしては、行政官と弁護士になっています。政治家としては、第2期ミシェル・バチェレ政権(2014~2018年)時に社会保障次官に就任し、現在のボリッチ政権では労働・社会保障大臣を務め(2022年3月から2025年4月まで)、労働時間の短縮や最低賃金の引き上げ、年金改革などに尽力してきました。

来月半ばの決戦投票によって、2030年に向けてのチリの政治と社会の方向性が決せられることになります。引き続き状況を注視していきたいと思います。

2025年11月29日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
©2025アジェンダ・プロジェクト

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コロンビア 米国による圧力強化と深まる対立

今年9月以降、カリブ海で「麻薬密輸船」との疑いのある船舶に対する米軍の軍事攻撃が断続的に続いています。BBCの報道(10月24日)によると、米軍による武力攻撃はすでに10回を数えており、その範囲もカリブ海から太平洋へと拡大させています(7回目までと10回目はカリブ海域での行動)。

10月24日に報じられた10回目の武力攻撃では、6名が死亡しました。これにより一連の武力攻撃による死者の数は少なくとも43人と伝えられています。さらに、ヘグセス国防長官が、原子力空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群を地中海からラテンアメリカ海域に移動するよう命じたことも報じられています。

10月21日から22日にかけて太平洋沖で行われた8回目と9回目の武力攻撃ではそれぞれ2名と3名が死亡した一方で、米軍からは1人も負傷者が出なかったことがヘグセス国防長官から明らかにされました。同長官によると、米国の情報機関は船舶が違法な麻薬密売に関与していたことを認識していたと述べています。

しかしながらメディアの報道によると、これまでのところ、米国当局は攻撃で死亡した人々の身元や、その者たちが所属しているとされる麻薬密売組織についての詳細をほどんど明らかにしていません。

そうした中、10月16日に行われた軍事行動では、攻撃を受けた船舶の乗組員4名のうち2名が生存していたことが明らかになりました(乗組員全員が死亡しなかったのはこれが初めて)。この生存者2名(エクアドル人とコロンビア人)は米海軍に一時的に拘束されたのち、それぞれの国に送還されました(※この経緯については専門家から疑問の声が上がっています)。

この攻撃について、トランプ大統領は自身のSNSで「もしこの潜水艦(※攻撃された船舶のこと)の接岸を許せば、少なくとも2万5000人の米国人が死亡することになるだろう」と、裏付けとなる根拠を示すこともなく述べています。

この2名はそれぞれ身元が特定されていますが、コロンビア人に関しては、「脳損傷」を負っており重体であることが、同国のベネデッティ内務大臣のXで報告されました。この人物について同内務大臣は「麻薬密売の罪で起訴されることになる」と述べています(10月19日)。もう1人のエクアドル人に関しては、係争中も含めて犯罪行為を犯したことを示す証拠がないため釈放されたと報道されています(10月20日)。

この2か月近くで10度に及ぶ武力攻撃を一方的に行っている米国政府ですが、トランプ大統領はこの軍事行動について、国際水域で違法な麻薬組織を攻撃する法的権限があると主張しています。報道によると、トランプ政権の基本的見解は、米国と麻薬組織は「紛争状態」にあり、この密輸組織の構成員を「違法戦闘員」に認定しているというものです。その一方で、陸上での作戦に関しては議会の承認を求める可能性があることをトランプ大統領は示唆しています。

ヘグセス長官は、22日に行った8回目と9回目の武力攻撃についての説明の中で、麻薬組織を「麻薬テロリスト」と呼び、攻撃された船舶は「外国テロ組織(FTO)によって運用され、東太平洋で麻薬密売を行っていた」と述べています。さらに、「アルカイダがわが国に戦争を仕掛けたように、これらのカルテルはわが国境と国民に戦争を仕掛けている」として、9.11を主導した「アルカイダ」に例えています。

しかし法律の専門家からは当然、「麻薬密売人」を司法審査なしに即刻殺害できる「違法戦闘員」として扱うことができるのかという根本的な疑義が出されています。

同じく民主党・共和党議員からも、一連の攻撃についての合法性と大統領の命令権限について懸念する声が上がっています。具体的には、9月10日、民主党上院議員25人が、「乗船者や積荷が米国に脅威を与えたという証拠もないまま」船舶を攻撃したという内容の書簡をホワイトハウスに送ったこと、共和党のランド・ポール上院議員が、このような攻撃には議会の承認が必要だと主張したことが報じられています。

一連の軍事作戦は、トランプ大統領が「ラテンアメリカの麻薬組織」対策のために軍事力の使用を開始する命令に秘密裏に署名したところから始まっています(8月8日の報道)。米国政府は、ベネズエラの高官(マドゥーロ大統領を含む)が、ベネズエラの麻薬組織「カルテル・デ・ロス・ソレス」、犯罪組織「トレン・デ・アラグア」などを率いて米国への麻薬密輸を仲介していると断じています(当然、ベネズエラ政府はこれを否定)。トランプ大統領は、マドゥーロ大統領を「世界最大の麻薬密売人の1人」と非難しており、マドゥーロ大統領逮捕につながる情報提供に対する懸賞金までかけています。※米国政府は、両組織を「外国テロ組織(FTO)」に指定。

8月以降に展開された米軍は、イージス艦(駆逐艦)、ミサイル巡洋艦、原子力潜水艦、強襲揚陸艦などの艦艇8隻と、F35戦闘機10機、約4500名の兵員(うち海兵隊員2200名)という大掛かりなものでした。これには20年以上使われていなかったプエルト・リコの海軍基地が作戦拠点として使われています。

そして最初の武力攻撃が行われたのが9月2日、快速艇を無人機で撃沈し、乗員11名が死亡しました。

この件に関して、米国政府は撃沈の映像のほかには具体的証拠を示しませんでした。これに対しては米国内でも大統領に「麻薬密売容疑者」を殺害する権限は認められていないとする声が上がりました(「外国テロ組織」に指定されたとしても、自動的に殺害できる力の行使は認められてはいません)。また国際法の専門家からは国際海洋法や国際人道法違反の可能性を指摘されています(米国は国連海洋法条約には署名していませんが、米国政府は国際法を遵守してきたと主張)。

なぜトランプ政権はこのような武力攻撃を繰り返し行っているのでしょうか? ベネズエラのマドゥーロ政権への圧力を強め、政権転覆を謀ろうとする意図が働いているというのが一般的な見立てです。そのための口実が「麻薬密輸」の取り締まりです。これは、トランプ政権に限らず、歴史的に米国政府が行ってきた中南米諸国の内政に介入するための常套手段とも言えるものです(1989年のパナマ侵攻によるノリエガ将軍逮捕・米国への連行が有名。この時も麻薬の大量密輸の罪で裁かれました)。

10月15日、トランプ大統領は、米中央情報局(CIA)にベネズエラ国内での秘密作戦の実行を許可したとの報道を認めました。さらにベネズエラ領土への攻撃を検討しているとも発言しています。

米国の軍事行動の主要なターゲットがベネズエラ(マドゥーロ政権)であるのはこれまで見たとおりですが、現在では、ベネズエラに限らず、隣国コロンビアのペトロ政権に対する圧力を強めています。それはペトロ大統領がトランプ大統領に対する批判を繰り返し行っているからであり、広くは中南米の左派政権に対する揺さぶりであるとも言えます。以下、コロンビアとの関係についてまとめてみます。

9月2日、最初の軍事作戦が行われたあとで、ペトロ大統領は、ベネズエラへのいかなる攻撃もラテンアメリカとカリブ海諸国への攻撃に等しいと述べて米国政府を批判しました。

9月15日、米国政府は、コロンビアが麻薬密売対策の義務を「著しく怠った」として、麻薬取引対策パートナーとしての認定を取り消し、ベネズエラなどとともに「国際麻薬対策協定に基づく義務を順守できなかった国」に指定しました(但しこの時は同対策に基づくコロンビアへの軍事・経済援助は継続すると判断)。

9月23日、ペトロ大統領は国連総会で演説し、カリブ海における米国の軍事攻撃について米国が「麻薬密売撲滅」を口実にラテンアメリカにおける支配を強めていると非難し、トランプ大統領を含む米当局者に対する刑事訴訟を開始するよう訴えました(演説中、米国代表団は議場を退席)。

10月18日、ペトロ大統領が、9月16日にカリブ海で麻薬密売組織に対する米軍の軍事作戦が行われている最中、漁に出ていたコロンビア人の船が攻撃を受け、コロンビア人漁師1人が家に戻っていないと非難、「(その船は)おそらくコロンビアの海域にいたと思われる」として、米国政府がコロンビアの領海における主権を侵害したと批判しました。

※メディアの報道などでは、この「コロンビア人漁師」については過去に犯罪歴があったことが明らかにされていますが、これらの麻薬組織との関係など詳細は不明です。

翌19日、これに対してトランプ大統領はペトロ大統領を「違法な麻薬組織のリーダー」と呼んで非難し、麻薬生産を「止めるための措置を一切講じていない」として、コロンビアに対する補助金などの支援を打ち切ると表明しました(2024年に米国議会が認めたコロンビアへの対外援助は3億7750万ドル)。

10月21日に行われた武力攻撃はコロンビアの近海で実施されたと報じられています。

10月24日、米国政府が、ペトロ大統領、大統領夫人とその長男、ベネデッティ内務大臣らを麻薬密売に関与した疑いのある人物として制裁対象に指定しました。

このように、9月以降、米国とコロンビア両国政府の政治的対立により緊張関係が高まっています。その中でトランプ政権による一方的な軍事力の行使が、ラテンアメリカ・カリブ海地域の平和と安全を著しく損なうことになっていることは明らかだと思います。すぐにでもこうした軍事行動・戦争を挑発する行為をやめるべきです。

もちろん、麻薬密売対策が必要であるとしても、事の詳細を明らかにすることなく、また一切の司法プロセスを欠いた形で、強大な軍事力を行使することがこの問題を解決することにつながらないことは、これまでの両国の取り組みの歴史を見ても明らかだと言えます。

※この記事を作成するにあっては、BBCの配信記事、CNNの配信記事などを参照してまとめています。その他には、週刊金曜日(No.1537)「マドゥーロ政権打倒を目指す 麻薬組織中枢の制圧口実に」(伊高浩昭)、月刊「地平」(2025年11月号)「緊迫するベネズエラ トランプ政権による軍事挑発の背景」(新藤道弘)を参照しました。

2025年10月27日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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ボリビア 大統領選・決選投票の結果

10月19日(日曜)、大統領選の決選投票が行われ、8月17日の1回目投票で第1位だった中道派のロドリゴ・パス候補がホルヘ・キロガ候補を破って当選しました。新しく選出された正副大統領は11月8日に就任式を迎えます。

(以下の記事は、BBCの2025年10月20日付配信記事等を参照してまとめました。)

ボリビアの最高選挙裁判所(TSE)の報告(開票速報値)によると、

ロドリゴ・パス候補(キリスト教民主党) 得票数(335万6937票) 得票率(54.6%)
ホルヘ・キロガ候補(自由同盟)     得票数(279万0364票) 得票率(45.4%)

※投票率85%

全国9県のうち、得票率でパス候補が上回ったのが6県(北からコビハ、ラパス、コチャバンバ、オルーロ、スクレ、ポトシ:中部・西部の地域)でした。

この結果報告について、キロガ候補は、「(第1ラウンドと同じく)第2ラウンドでの集計作業を尊重します。ロドリゴ・パス氏を祝福します。心からお祝いを申し上げたい」とコメントし、自らの敗北を認めました。

選挙結果速報システム(SIREPRE)が約1時間停止していたことから、キロガ候補の支持者の一部から、選挙結果について「不正」があったのではないかという疑惑が表明されていましたが、キロガ候補の発言はこれを打ち消すものでした。

「ボリビアで初めて行われた歴史的な第2回目の投票で大統領に選出されたロドリゴ・パス・ペレイラ氏に祝意を表し、その政府の成功を切に願います」と、任期を迎えて退任するルイス・アルセ現大統領はX(旧ツイッター)で述べました。

1回目の投票結果については、このコーナー「ラテンアメリカの現在」の2025年8月29日付配信記事に書きましたが、今回の選挙の大きな争点の1つは、高止まりするインフレとマクロ経済の停滞をどう打開するかという点にあります。

この点について言うと、敗れたキロガ候補の考えは、「今のボリビアは破産している」と評価した上で、公共支出の大幅削減、燃料へのユニバーサルな補助金の削減(公共交通と社会的脆弱層に対象を絞る)、赤字国営企業の閉鎖または民営化、省庁の廃止などによる「抜本的な改革」の必要性を訴えていました。典型的な新自由主義的改革路線です。

それに対して、勝利したパス候補は「すべての人のための資本主義」をスローガンに掲げ、貧困層向けの社会保障制度を維持しながら民間部門の成長を促進するなど、より段階的なアプローチを取ろうとしています。そのポイントの1つは、ボリビア経済の多くを担っているインフォーマル部門で働く人々、とくに自営業者への対策と見られています。とは言え、燃料補助金の削減や公共支出の広範な削減(支出の合理化と中央と地方の財政配分の調整)という面ではキロガ候補と共通しています。

隣国アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が実施してきたようなドラスティックな緊縮財政措置の導入を心配する向きもありましたが、パス候補はこれについては否定しています。

今回のパス氏の勝利は、1回目の投票で与党「社会主義運動」(MAS)に投票した都市部と農村部の票(主に下層階級)をうまく獲得することができたからと見られています。その上で、「支持」を引きつけたのが副大統領候補のエドマン・ララ氏の存在です。ララ氏は元警察官で、ソーシャルメディアで汚職スキャンダルを告発することで有名な「大衆受け」する人物です。こうした経歴が若者や労働者階級の有権者からの支持につながったと言われています。

「祖国を愛するすべての人たちと一緒に統治するために我々は手を広げている」とパス氏は、勝利した後の最初の演説で訴えました。そして約20年間続いた左派の「社会主義運動」(MAS)政権を批判する形で、「イデオロギーは我々を食べさせてくれない。我々を食べさせてくれるのは、労働の権利、法に基づく保障、私有財産の尊重、そして将来への確実性である」と述べました。

パス氏の政治信条は、基本的に中道右派の大統領(1989~1993年)であった、自身の父親であるハイメ・パス・サモラ氏を受け継いでいると言われています。

左派政権から中道派への政権交代が確実となった中で、経済面、外交面では米国との関係がポイントとなっています。マルコ・ルビオ米国務長官は、選挙結果を受けて、「米国は、ロドリゴ・パス氏がボリビアの次期大統領に選出されたことを祝福する。同じく、ボリビアにとって歴史的な瞬間にあるボリビア国民を祝福する」と述べました。

その上で、「米国は、不法移民の根絶、 二国間投資の市場アクセスの改善、地域の安全保障強化のための国際犯罪組織との闘いなど、共通の優先事項についてボリビアと協力する用意がある」と主張し、ボリビアとの関係を改善する意向を明らかにしています。

9月下旬、パス氏は燃料供給を確保するために米国との15億ドルの経済協力協定を結ぶ計画を発表するなど、米国からの経済的支援に期待を寄せています。そこにはアルゼンチンと同じく、南米大陸への影響を強めるための足場を確保したい米国側の思惑も透けて見えます。

大統領選に勝利したとは言え、8月に行われた総選挙の結果を受けた国会(上下院)の議席構成を見ると、パス氏の所属するキリスト教民主党は両院とも単独過半数に届いていません(上院では16議席、総数36。下院では49議席、総数130)。

議会運営においては、敗れたキロガ氏の自由同盟との連携が欠かせないことになります(自由同盟は、上院では12議席、下院では39議席)。どこまで政策上の独自性を打ち出せるか、また政策をどこまで実行できるかについては今後の話し合いによると見られています。

主要な労働組合であるボリビア労働総連(COB)は、同組合がこれまで達成してきた社会的、経済的成果に対するいかなる脅威にも反対すると警告した上で、新政権に対して、街頭での抗議行動の影響を回避するための政治的手腕が必要となるだろうと強調しています。

2025年10月26日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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アルゼンチン 州議会選挙での与党の敗北

9月7日(日曜)、国内最大の選挙区であるブエノスアイレス州の州議会選挙が行われ、ハビエル・ミレイ大統領率いる与党「自由前進」は、正義党(ペロン主義)系野党に敗北を喫しました。今回の敗北は、ミレイ氏が大統領に就任して以来「最悪の敗北」とも評されています。

※州議会議員のほか、ブエノスアイレス州の各市議会議員と学校評議員も選出されました。

州議会選挙の結果については以下のとおりです。

ブエノスアイレス州議会選挙

改選議席 下院46(総数92のうち) 上院23(総数46のうち) 任期はいずれも4年

開票率98.96%で、

1位 フエルサ・パトリア(Fuerza Patoria):得票率47.28% 382万119票 

2位 自由前進(La Libertad Avanza):得票率33.71% 272万3710票

※以下の政党については省略

獲得議席数 フエルサ・パトリア:下院21 上院13 合計34

      自由前進:下院18 上院8  合計26

投票率は60.98%

▪「フエルサ・パトリア」:統一名簿で戦うことに成功した中道左派のペロン主義勢力の選挙連合の名称。

▪「自由前進」:「自由前進」と「Propuesta Republicana」(PRO:2015年から19年まで大統領だったマウリシオ・マクリが率いる中道右派政党)との選挙連合の名称。

両者の得票率の差は13ポイント超と予想以上に開きました。ブエノスアイレス州は全国の登録有権者数の40%近くを占めており、今回「フエルサ・パトリア」が同州8つの選挙区のうち6つで勝利しました。

ミレイ大統領は、選挙前には「キルチネル主義(ペロン主義左派)の棺桶に最後の釘を打ち込む」と豪語していましたが、結果は惨敗に終わりました。

※今回の選挙に先立ち今年5月に行われたブエノスアイレス市の市議会選挙では「自由前進」が勝利していました。

この結果に対して、ミレイ大統領は「政治的には、今日、我々は間違いなく明確に敗北を喫した」と述べるなど、早々に負けを認めました。にもかかわらず、「2023年に我々が大統領選挙で目指した方向性は変更されるどころか、むしろ強化されるだろう」と強気の姿勢を崩しませんでした。

今回の結果(与党の敗北)については、選挙前の各種世論調査でも示されていましたが、これほどの差がつくと政権側は予想していなかったと報じられており、政治的逆風が鮮明になっています。

今回の州議会選挙は、10月26日に国会議員選挙(中間選挙)が控えていることから、その「前哨戦」と見られていました。以下、与党が敗北し野党が勝利した主な要因は何だったのかについてまとめてみます。

(1)経済状況の停滞

まずは、経済状況の停滞と国民生活への影響という点です。

ミレイ氏が大統領に就任するにあたり掲げた主な公約は、一言でいえば、アルゼンチン経済の回復と安定でした。

そのために非常に高いインフレ率を抑制し、為替レートの安定を維持するために、財政支出のドラスティックな削減など一連の措置を講じてきました。インフレ率の低下などそれぞれの数字に変化が見られるものの、それに伴う「副作用」も明らかとなっています。

それらが今回の選挙結果にどれほどの影響を与えたかは推測の域を出ないところがありますが、少なからず影響していることは各種調査などからも示されていると言えます。

貧困率(人口比)についてですが、2024年第1四半期に過去最高の54.8%に達しました(同年前半期52.9%)。同年後半には38.1%まで減少しました。2025年第1四半期の貧困率は31.7%(推計値)となっています(アルゼンチン国家統計センサス局(INDEC)による正式発表は年2回)。

政府の人的資本省は、この減少に関して政府のインフレ抑制とマクロ経済の安定化政策によるものと説明しています。このように貧困率は減少しているものの、依然として国民の3分の1以上が貧困状態にあるのも事実です。

今年7月に世論調査機関の「スバン・コルドバ」が実施した調査によると、アルゼンチン人の50.3%が失業を恐れており、63.7%が生活の糧を得るのがますます困難になっていると回答しています。また、65.1%が過去6ヶ月間で経済状況が悪化したとも回答しています。他にも、多くの人にとって月々の支出が月末までに賄えなくなっているとの専門家の指摘もあります。

こうした生活苦の訴えに対して、ミレイ大統領は「もしそれが本当なら、(その人たちは)街頭で過ごさなければならず、そこは遺体でいっぱいになっているはず」(そんなことはないの意)と答えています。

マスメディアによると、「ブエノスアイレス州は国内で最も貧困が深刻な地域」であり、地元の産業も打撃を受けていると指摘しています。ミレイ氏が大統領に就任して以来、同州では民間部門の雇用が44,000も失われたとの報道もあります。

他にも、ドル高抑制のために、中央銀行が市中銀行に対して預金準備率の引き上げを課し、ペソの流通量の減少を図ったことで、金利が急上昇するなど、企業にとって資金調達コストの負担が大きくなっています。さらに家計のローン金利も上がっています。今回の選挙後には、ペソも株価も急落するなど市場は不安定な動きを続けています。

(2)汚職疑惑の発覚

経済状況に続いて大きな影響を与えたのが、8月に発覚した汚職疑惑でした。

8月20日、ミレイ大統領の妹で大統領府長官のカリーナ・ミレイ氏が、国家障害者庁(ANDIS)の医薬品購入を巡る贈収賄疑惑に関与していたとされる一連の音声データがマスメディアやソーシャルメディアなどに流出しました。

流出した録音データには、ミレイ兄妹と最も親しい協力者の1人であり、この時障害者庁長官だったディエゴ・スパグヌーロ(Diego Spagnuolo)氏とされる人物の発言が記録されており、障害者用の医薬品調達に関して、製薬会社が契約維持のために資金提供を行い、カリーナ・ミレイ氏がキックバックによる賄賂(キックバック総額の3%程度)を受け取っていたとする内容が含まれていました(政権与党による組織的な関与の疑い)。またこの人物は、メッセンジャーアプリ「WhatsApps」でのカリーナ氏の全メッセージを保持しているとも証言しています。

この音声データの漏洩をきっかけとして、スパグヌーロ氏は解任され、司法当局が大規模な捜査に乗り出す事態となりました。またグレゴリオ・ダルボン弁護士がすぐに裁判所に告発状を提出しました(ダルボン氏は以前に正義党左派で元大統領のクリスティーナ・フェルナンデス氏の代理人を務めていました)。そうした背景もあり、ミレイ政権は、この汚職疑惑を否定した上で、「(野党勢力による)政治工作」によるものだと主張しています。

ミレイ大統領とその政権に対する信頼度には、今回の贈収賄疑惑が明らかになる前から陰りが見えていましたが、この疑惑が国民の信頼をさらに大きく損なう動きに拍車をかけたことは、選挙結果を見ても明らかだと言えます。

2023年の大統領選挙に勝利した際、ハビエル・ミレイ氏は、私腹を肥やすために国家とその資金を利用してきた役人などの「カースト」を終わらせると述べていたにもかかわらず、こうした事態を招いたことの政治的責任は避けられないと考えられます。

その上、「ラテンアメリカの現在」25年7月29日の記事でも触れましたが、議会内においても野党側の攻勢が強まっており、ミレイ大統領が推進してきた政策に対してブレーキがかかる状態になっています。今回の汚職疑惑の展開次第では、今後の政権運営に大きな支障をきたす可能性が出てきました。

(3)野党側の動き:中道左派のペロン主義勢力の統一

今回の州議会選挙で正義党系の左派が勝利した要因として、それぞれに違いがあるにもかかわらず、ペロン主義内の各勢力が統一して選挙を戦うことができたことが指摘されています。

具体的には、アクセル・キシロフ、セルヒオ・マッサ、マキシモ・キルチネルの3者が事前の話し合いで協力することで合意(7月9日)し、「フエルサ・パトリア」として今回の選挙戦を戦いました。

▪アクセル・キシロフ(Axel Kicillof)氏は、現職のブエノスアイレス州知事であり、クリスティーナ・キルチネル政権下で経済大臣を務めました。

▪セルヒオ・マッサ(Sergio Massa)氏は、アルベルト・フェルナンデス前政権下で経済大臣を務めました。2023年大統領選の決選投票でミレイ氏に敗北。クリスティーナ・キルチネル派とは一線を画しています。

▪マキシモ・キルチネル(Máximo Kirchner)氏は、アルゼンチンの元大統領ネストル・キルチネルとクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネルの息子であり、正義党員(現下院議員、ブエノスアイレス州正義党党首)です。

ブエノスアイレス州の州議会選挙は、従来は国政選挙と同時に行われてきましたが、今回はキシロフ州知事の判断によって国政選挙と切り離して実施した(2003年以来初めて)ことがペロン派の「勝利」につながったと言われています。

クリスティーナ・フェルナンデス氏が今回の選挙の分離実施に反対していたことや、キシロフ氏がペロン派の「刷新」を訴えていたこともあり、両者の相違は明白になっていました。今回の選挙結果により、キシロフ氏の影響力が強まり、メディアなどでは「2027年の大統領選に向けた有力左派候補」として注目を集めています。

※詳しい経緯は省略しますが、クリスティーナ・フェルナンデス氏については、今年6月10日、副大統領在任中の公共事業に関する汚職に関する訴訟で、最高裁が下級審の判決を支持する決定を下し、禁錮6年の判決が確定しました。また同月17日、裁判所は高齢などを理由に自宅軟禁とすることを許可しています。こうしたこともあり、最終的にはクリスティーナ・フェルナンデス氏がキシロフ氏の意向を受け入れざるを得なかったと言われています。

キシロフ氏は、選挙後に「投票箱が大統領に明確なメッセージを送った。公共事業の停止、年金削減、障害者支援や医療・教育・文化予算の削減は許されないというメッセージを。」と訴えました。

注目を集めている10月26日の国会選挙に向けて、今回と同じような統一した連合を全国レベルで維持・提示できるかどうかが中道左派勢力にとって大きなカギとなることは確かだと見られています。

2025年9月25日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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ボリビア 8月大統領選挙の結果

ボリビアでは、ルイス・アルセ現大統領の任期満了に伴い、8月17日(日曜)、総選挙が行われました。総選挙では、正副大統領のほか、下院議員(130名)、上院議員(36名)が選出されます。大統領選挙については、1回目の投票で決まらなかった場合(※)は、上位2名による決戦投票が行われます。大統領の任期は、2025年から2030年まで(5年)となります。(大統領就任式は2025年11月8日)

※ボリビア憲法では、第1回投票で候補者が有効投票数の50%以上、または2位の候補者との差が10ポイント以上で、かつ40%以上の票を獲得した場合に大統領選挙に勝利できると定められています。

(1)大統領選挙の結果─決戦投票へ

大統領選挙の状況に絞ってまとめてみます。大統領選挙は8名の候補者で争われました。最高選挙裁判所(TSE)の発表(予備的選挙結果:速報)によると、以下の結果となりました。

第1位 ロドリゴ・パス・ペレイラ(キリスト教民主党) 162万5882票(約32.14%)
第2位 ホルヘ・キロガ(自由同盟) 135万6370票(約26.81%)

投票率は78.55%(有権者総数:約750万人)

この結果により、中道政治の刷新を掲げるパス氏と、保守右派のキロガ氏の2名による決選投票が10月19日に行われることになりました。決戦投票が行われるのは、2009年にボリビアで決選投票制度が導入されてから初めてのことです。

ルイス・アルセ現大統領は、今回の選挙戦について、「我々は平和的かつ透明性のある選挙プロセスを確保するためにあらゆる努力を払った」とするコメントを出しました。

今回の選挙戦では大きな混乱が発生することなく、選挙結果の公表についてもスムーズになされたことは専門家からも評価されています。

事前の世論調査ではパス・ペレイラ氏が決戦投票に進むことは予想されておらず、同氏が第1位となったことは予想を「裏切る」ものでした。事前の予想では、3位に終わったサミュエル・ドリア・メディナ氏と2位につけたキロガ氏の争いと見られていました。

パス・ペレイラ氏は選挙後、支持者に向けて「この勝利を可能にしてくれたすべての人々に感謝します。私たちは、投票所に現れなかった人々や(略)声を上げることのできなかった人々の声を代弁する者です。ボリビアには無視されているものがあるのです」とアピールしました。

2位のキロガ氏はパス・ペレイラ氏の選挙運動を祝福しつつも次のように述べました。

「これからボリビアは永遠に自由になります。(略)私たちは民主主義への信頼を取り戻し、封鎖や妨害行為に抗い、投票の力で国を変えることができるという信念を取り戻しました。今日、ボリビアの民主主義は勝利しました」

両候補の違いについては、パス氏がより刷新的で穏健な人物像を示しているのに対して、キロガ氏は思想的に保守的な性格をより強く打ち出していることが指摘されています。

以下、両者の経歴と選挙戦の評価についてまとめておきます。

①ロドリゴ・パス・ペレイラ氏(57歳)

ハイメ・パス・サモラ元大統領(1989~1993年)の息子であり、2020年からタリハ県の上院議員を務めています。それ以前は2002年から2010年までは下院議員、2015年から2020年まではタリハ市長を務めた経験があります。

1964年のレネ・バリエントス将軍によるクーデター後、父親はボリビアを離れてヨーロッパに逃れました。パス氏はその亡命中にスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラで生まれ、政治家一家の中で育ちました(父親の出自からボリビア国籍を取得)。数年後にラテンアメリカに戻り、いくつかの諸国(コロンビア、ベネズエラ、チリ、アルゼンチン)を転々としました。

政治家一家に生まれ、こうした政治キャリアを持つにもかかわらず、今回の選挙戦では「いつもの顔ぶれ」とは違う候補に投票したいと考えている有権者に強くアピールしていました。

その上で、パス氏に支持が集まったのは、パス氏のこれまでの実績というよりも、副大統領候補であるエドマンド・ララ氏の人気によるところが大きいとも言われています。

ララ氏は元警察官で、警察内部の汚職疑惑を告発してソーシャルメディアでは人気がある人物として知られています。選挙でも「汚職との闘い」「市民の権利擁護」を強く訴え、これが多くの人の共感を得たと評価されています。

いずれにしてもパス陣営の「躍進」は、政権与党、既存の保守政党などに対する人々の不満を吸収する「受け皿」としてうまく機能した結果だと見られています。

②ホルヘ・キロガ氏(65歳)

米国の大学で学び、IBMのシステムエンジニアとしてのキャリアを歩んできました。その後、ボリビアに戻り、様々な公職に就きます(外務省の技術顧問、公共投資・国際協力担当副大臣)。

政治家としては、独裁者であったウーゴ・バンセル氏が創設した保守政党の民族民主行動党(ADN)に入党し、1997年には副大統領に選出されました。

2001年から1年間、バンセル大統領が健康上の理由で辞任した後に憲法上の規定により大統領の職に就きました。2005年の大統領選ではエボ・モラレス氏と争ったが敗北、2020年の大統領選では人気が低かったことから途中で撤退しています。

キロガ氏は自らについて、現政権与党の「社会主義運動」(MAS)に強硬な姿勢をとる経験豊富な政治家であると述べています。思想的・社会的には保守であり、経済的には新自由主義的と評価されています。専門家からは、そのことが穏健派やMASに幻滅して離れた有権者を引きつけるのに妨げになっていると見られています。

(2)約20年続いた左派政権の終焉─その要因

非左派の野党候補であるパス氏とキロガ氏の決選投票進出という今回の選挙結果は、2000年代以降のボリビア政治における歴史的な転換を示していると言えます。

エボ・モラレス氏が2005年の大統領選挙で初めて先住民出身の左派候補として勝利して、2006年に政権を担ってから現在に至るまでほぼ20年間続いてきた「社会主義運動」(MAS)による左派政権が「敗北した」からです。

この間、MASは、物議を醸した2019年の選挙を除き、第1回の投票で50%を超える得票率を獲得して勝利を果たしてきました。

※2019年選挙については、過去の配信記事「ボリビアの行方とパンデミック」(2020年5月11日)をご覧ください。

しかし今回、MASが擁立したエドゥアルド・デル・カスティージョ候補は15万9769票(3.16%)しか獲得できませんでした(全体では6位)。左派系の候補で1番得票が多かったのは、アンドロニコ・ロドリゲス候補で41万5611票(8.22%)でした(全体では4位)。

左派は今回の選挙に関しては「惨敗」を喫しました。それは左派に対する「懲罰的な」意味合いを持った抗議票の結果と言われています。

その理由は主に2つあります。1つは、ボリビア経済の悪化とその先行きが不透明であること、とくに庶民にとっては物価高に対する政府への不満です。もう1つはMASの内部対立と分裂に嫌気がさしていることです。

今回MASに関係する選挙運動は3つに分かれることになりました。

①当初はルイス・アルセ大統領が、MASの候補として再選を目指していましたが、投票に関する世論調査での評価があまりにも不人気であったことから、5月になって出馬を断念する意向を明らかにしました。その後継として指名されたのがデル・カスティージョ候補(36歳)でした。

デル・カスティージョ候補は弁護士でしたが、2020年11月に発足したルイス・アルセ政権の一員として内務大臣に任命されて職務を担ってきました(大臣に任命された時は32歳)。しかし立候補した後の世論調査でも同党への支持は思うようには伸びませんでした。

②アルセ大統領とMAS内で主導権を争って対立していたのが、エボ・モラレス元大統領(2006~2019年)でした。しかし2023年12月に憲法裁判所(TCP)が「無期限再選」は適用されないと宣言したことで、過去3期連続で政権を担ったモラレス氏が2025年の選挙に立候補することは事実上不可能となりました。

TCPは24年11月にも、連続か不連続かを問わず、任期は2期までで、3期目に延長することはできないとの判断を示していました。それにもかかわらず、今年2月にモラレス氏は今年の大統領選に立候補する考えを発表してMASを離党、3月末には新党「Estamos Volviendo Obedeciendo」を立ち上げました(但し選挙に出るには一定数の登録した党員数が必要)。時間的余裕がないために、モラレス氏は別の党からの立候補を模索していましたが、結局うまくいきませんでした。

その後、TCPは今年5月に同じ内容の裁定(2期を超える再選禁止)を明らかにしました。これにより、モラレス氏が大統領選挙に立候補することは完全に禁じられることになりました。

※モラレス氏はすでに3度(2006~2009年、2010~2014年、2015~2019年)政権を担っています。2009年に憲法改正が行われたので、新憲法の下では2度ということになります。

TCPの裁定に反発したモラレス氏は、結果的に今回の選挙についてはどの候補も支持せず、選挙の正当性に疑義を持たせようということで、無効票の獲得を目指すキャンペーンを展開しました。今回の無効票は100万4846票(19.86%)でした。この結果に対してモラレス氏は「私たちの抗議は聞き届けられました」とコメントしています。

③MASがアルセ大統領のグループとモラレス氏のグループの対立から分裂する中、両者から距離を置きつつ、左派勢力の第3極とも言うべき候補者が現れました。それが人民同盟から立候補したアンドロニコ・ロドリゲス現上院議員(36歳)でした。

ロドリゲス議員はMASに所属していましたが同党を離れて、5月に立候補を表明しました。人民同盟は3つの左派政党が大統領選挙を戦うために統一して今年4月に結成されました。

ロドリゲス氏は、モラレス氏と同じくコカ栽培生産農家の出身で、父親の影響もあり農民組合の会合に参加するなど組合の活動に従事してきました。そうしたこともあり、以前はモラレスの「後継者」とも見られていました。

しかしロドリゲス氏の立候補について、モラレス氏は「帝国の候補者」と呼んで批判していました。またモラレス派の議員も彼を「裏切者」として非難していました。

そうした声に対してロドリゲス氏は、「私はアルセ派の候補者でも右派、帝国の候補者でもない。私はより良いボリビア、平和と団結の中で生きたいと願うボリビアの候補者だ」と訴えていました。

「無効票や白票は中立的ではない。それは、我が国の資源を私有化し、大多数の人を排除し、ボリビアを見捨てた旧右派への便宜だ」としてモラレス氏のキャンペーンに反論していました。

同時にロドリゲス氏は、現在のボリビアの経済危機に対する責任はアルセ政権にあるとしてアルセ大統領も批判しています。

こうしたMASに代表される左派勢力の分裂と影響力の衰退が今回の結果に如実に表れていると言えます。

分裂したのは与党側だけではありませんでした。野党勢力の間でも昨年末の時点では候補者の一本化を図ることで合意していましたが、最終的に一本化の調整がうまくいかずに破綻して選挙戦を戦うことになりました。

選挙前の世論調査では、実業家のサミュエル・ドリア・メディナ氏(61歳)と前述のキロガ氏が20%台の支持率で争っていました(メディナ氏の方がやや優勢)。

メディナ氏は「統一同盟」から立候補しました。政治家のキャリアとしては、ハイメ・パス・サモラ政権(1989~1993年)の下で計画大臣を務めました。2005年、2009年、2014年には大統領選に出馬しましたが、いずれもエボ・モラレス氏に敗北しています。2020年の選挙では世論調査の結果がよくなかったため撤退しています。政治的な姿勢としては、キロガ氏よりも穏健派と見られているため、MASに幻滅した層からの支持を得られると見られていました。

今回の選挙では、メディナ氏は第3位で決戦投票には進めませんでした。選挙後の会見の中で、メディナ氏は、決選投票では第1位のロドリゴ・パス・ペレイラ氏を支持する考えを表明しています。

最後に、今回の選挙に大きな影響を与えた経済状況について簡単に触れておきます。

今回のMASの敗北は、MASの分裂もさることながら、「経済危機、インフレ、ガソリンを求める行列、そしてタイムリーに調整されなかった経済政策の結果」であるとの見方が一般的です。コロナ禍以降、ボリビア経済は非常に良くない状況にあります。

ボリビア国立統計研究所(INE)が2025年7月のボリビアのインフレ率を公表しました。それによると、2025年7月の消費者物価指数(CPI)は2024年と比較して25%もインフレとなっています。また今年1月から7月までの累計インフレ率は17%(前年同期比で14%の上昇)、2025年7月単月では1.20%(6月からはやや鈍化)となっています。

その要因ですが、これまでボリビア経済の好調を支えてきた天然ガスの輸出が減少していることにより、外貨(ドル、金)不足、自国通貨の価値下落が生じて、ドル高による持続的な物価上昇と、ディーゼル燃料およびガソリン不足を招いていると指摘されています。

そのような中で、市民が日々、食料品の値段をチェックしたり、ガソリンスタンドのWhatsAppグループ(LINEグループのようなもの)で、燃料がいつ入荷されるかをチェックすることに多くの時間を費やしていると報じられています。

こうした経済の危機的状況、「低成長(昨年のGDP成長率は0.7%)とインフレ」に対してアルセ政府が有効な対策を打ち出せていないことが、将来不安を高め、人々の怒りと不満を強めています。こうした状況が人々の投票行動に影響を与えることは選挙前から予想されていました。

第1位につけたパス氏(キリスト教民主党)は、MASの国家主導型の経済モデルに対して、「経済は国家のものではなく、人々のものだ」と言って問題視するとともに、キロガ氏のエリート主導の新自由主義政策も疑問視しています。その中で、パス氏は自らの立場を「第三の道」として、「少数者のためではない、すべての人のための資本主義」を掲げています。

いずれにしても、次の政権としては、この危機にあるボリビア経済と人々の生活基盤をどのように立て直していくのか、その手腕が問われることになります。

2025年8月29日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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