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はじめに

 「ラテンアメリカの現在」は、ラテンアメリカ・カリブ海地域での民衆の社会運動を軸に、その背景となる政治・経済的なニュースをピックアップして紹介するページです。

 2000年代以降、この地域では、新自由主義的グローバリゼーションに抗する社会運動の活発化と連動した「左派・進歩派政権」が台頭してきました。しかし2010年代になって次第に、左派政権の政策面での行き詰まりや右派勢力の巻き返しなどが起こり、ラテンアメリカ社会自身がいろいろな意味で分岐してきています。
 とりわけ、米国ではトランプ政権による介入主義的な対応が強まり、各国内でも権威主義的な政治の傾向が顕著になっています。

 こうした情勢の複雑な変化を踏まえつつ、ラテンアメリカ社会が現在から未来にわたってどう変化していこうとしているのかをできるだけ事実を踏まえ、読み解きながら考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

(雑誌『アジェンダ』でも「ラテンアメリカの現在―分岐する世界の中で―」というタイトルの連載記事を書いています。)

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メキシコ、感染症対策と「新しい日常」、サパティスタの声明

(1)メキシコ政府の新型コロナウイルス感染症対策

 メキシコでは新型コロナウイルスの感染者、死者ともに増加傾向が続いています。死者数はラテンアメリカの中ではブラジルに次いで多くなっています。

メキシコの感染状況についての主なデータについて(保健省のデータ。7月5日まで)。
累積感染者数:25万6848人
現在の陽性者数:2万6295人
死者数:3万639人
致死率:11.9%
(メキシコの人口:1億2530万人 2018年 国家人口評議会より)
 致死率の高さが際立っています。その原因の1つと指摘されている医療従事者の不足については後で取り上げたいと思います。

 国内で感染例が初めて公式に確認されたのは、2月27日です。保健省のウゴ・ロペス・ガテル予防健康促進担当次官が2月28日の会見で、前日に2件の感染例が確認されたと発表しました。陽性反応が確認された2名とも、イタリアへの渡航歴があり、旅行中での2人の接触歴が確認されています(2名の居住地域は異なります)。

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キューバ、感染症対策と経済活動の再開

 今回の記事は5月18日投稿の「キューバ、感染症と国際連帯」の続編になります。
 まずここに至るまでの感染症状況について概観した上で、医療面での感染症対策において、キューバに特徴的な対策とはどのようなものであったのかについて振り返ってみたいと思います。さらにすでに始まっている経済活動の再開へ向けた動きがどう進められようとしているのかにも少し触れておきます。

(1)感染状況

 公共保健省のデータより(6月24日まで)
・累積感染者数(陽性者数) 2321人

・入院者数 155人(以下、内訳)
 ①感染が疑われる患者の入院者数 85人
 ②感染が確認された入院者数 63人(そのうち、症状が安定62人 重体0人 危篤1人)
 ③診療監察での入院者数 7人

・自宅での隔離監察者数 170人
・累積退院者数 2171人
・国外へ搬送した患者 2人(米国1名、カナダ1名)
・死者数 85人
・致死率 3.66%
・PCR検査数 15万9571件 陽性率1.5%
・人口10万人あたりの感染者数 20.5 (キューバの人口1132万人)
・累積感染者のうち、1255人が無症状感染者。また、感染源が不明な人数は101人
・県別の感染者数:多い順にハバナ(1282人)、続いてビジャ・クララ(219人)、マタンサス(205人) 

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ペルー、感染拡大から見える社会の矛盾

(1)はじめに

 ペルーで新型コロナウイルス感染者が初めて公式に確認されたのは、3月6日でした。ペルー政府の対応については以下のとおりです。

3月11日、公衆衛生緊急事態を宣言。
3月15日、国家緊急事態を宣言。
この2つの宣言の性格は異なっています。

①国家緊急事態について
 最初に発令された期間は3月15日~3月30日の15日間でしたが、今のところ6月30日まで続く予定です。
 5回延長されています。1度目の延長(3月31日~4月12日)、2度目の延長(4月13日~26日)、3度目の延長(4月27日~5月10日)、4度目の延長(5月11日~24日)、5度目の延長(5月25日~6月30日まで)。

 この宣言は憲法第137条1項に基づいています。同条は「平和や国内秩序の混乱、大惨事、または国民生活に影響を及ぼす深刻な状況の場合」に緊急事態を認めています。その場合「個人の自由と安全に関する憲法上の権利の行使、住居の不可侵性、および領土内での集会と移動の自由を制限または停止することができる」と規定しています。期間は最高政令(Decreto Supremo)によって決められます。

 この発令によって採られている主な措置は、
・陸海空の国境封鎖(3月16日23時59分から)、貨物・物資輸送を除く国内移動の禁止。
・外出規制:外出は生活に必要な物品とサービスの購入など(医療・医薬品、食料品、燃料、金融など)に
 限定される。不要不急の外出は禁止。違反した場合は逮捕・拘禁、罰金など刑事罰の対象になる。
 ※外出時のマスク着用義務化(4月2日から)。日曜日は終日外出禁止(5月3日から)。

・全土での夜間外出禁止(3月18日から。当初は夜8時~翌5時まで)。緊急時は除く。
 (のちに時間帯は変化。現在は午後9時から午前4時まで。一部例外あり)。
・パレードや集会・イベントなどは禁止。
・レジャー・文化施設は営業禁止。
・軍と警察が規制などの対応にあたる。

 また、以下の措置も採られています。
・スーパーマーケット、食品市場、金融機関での顧客対応:受け入れ人数は収容人数の50%以内。入場前の消
 毒、マスクの着用(市場・スーパーでは手袋も)、ソーシャル・ディスタンスの厳守(金融機関では1メー
 トル以上、市場・スーパーでは2メートル以上)(5月11日から)。
・14歳以下の子供について:同居する保護者同伴の下、自宅から500メートル圏内で、2メートル以上のソーシ
 ャル・ディスタンスを保って1日30分以内の散歩ができる(5月18日から)。
 これと並行して、5月以降、4段階に分けて部分的に経済活動を再開する予定になっています。

②公衆衛生緊急事態について
・最高政令第008-2020-SA号:90日間の公衆衛生緊急事態宣言を全土に発令。期間は3月11日~6月8日まで。
 6月初めに9月7日まで延長することを発表。
・立法政令1156号:住民の健康と命への危険の高まり、または被害が存在する場合、公衆衛生の公共サービス
 を保障するための措置を定める。
 新型コロナウイルス対策用の防護装備や物資の購入、人的契約に関することや行動計画の承認と実施が主な内容になっています。

 以上のような措置に関して、イプソス社が行った世論調査(5月)では、80%の人がマルティン・ビスカラ大統領の運営を支持する結果を示しています。(5月14、15日に都市部で実施。18歳以上1020名が回答)
 続いて、ペルーの感染状況について見ておきます。

 厳しい制限措置が始まってから3か月が経過する中、ペルーはラテンアメリカ諸国の中でブラジルに次いで感染者が多く確認されています。ペルーの場合は、ブラジルと違ってかなり厳しい隔離・制限措置が採られているにも関わらず、感染者数がなぜ増加しているのか、その要因について考えてみる必要があります。

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ブラジルの緊急援助とベーシックインカム

(1)ブラジルの緊急援助(社会的脆弱層への現金給付)とは

 ブラジルでは新型コロナウイルス感染症の拡大が依然として続いています。そうした中、4月2日に1つの法律(緊急援助法:法律13982号)が発効しました。
 これは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大を抑えるための社会的隔離措置に伴う経済活動の停滞によって、所得を失うなど最も影響を受けている社会的脆弱層に対して現金給付を行う支援策です。

 この法律が成立・発効するまでの経緯を簡単に見ておきます。
 3月18日、報道された連邦政府の検討案は、非正規労働者への支援として、3か月間、月額200レアルを引き出せるバウチャー(クーポン券)を配布するというものでした。

 これに対して、ベーシックインカム・ブラジル・ネットワークなどを中心に、160を超える団体や運動体が結集して、3月20日から「私たちが望むベーシックインカム」キャンペーンを開始しました。このキャンペーンには、50万を超える市民と、3000人のソーシャルメディアで影響力を持つ人たちの支持が集まりました。キャンペーン団体は政策の提案を国会議員に行い、これを踏まえて法案が作成されました。

 3月25日に野党7党が貧困層の家族のための緊急ベーシックインカム法案を提出。この法案では一世帯あたり最低賃金の2倍(2090レアル)までの額を給付する案が提起されました。議会では、政府が代案として一人あたり最低賃金の半分(522.5レアル)までの給付額を提示し、最終的に600レアルで合意が成立しました。

 3月26日に下院、3月30日に上院で緊急援助法案が可決され、4月1日に大統領が承認して同法が成立しました(4月2日発効)。また、暫定令937号が制定されて財源負担も認められました(国庫負担額は982億レアル)。

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感染拡大が続くブラジル

 (1)ブラジルの感染状況

 5月26日、世界保健機関(WHO)は、米州が新型コロナウイルス感染症の新たな震源地になっているとの見解を示し、とりわけラテンアメリカ諸国での急激な感染拡大を警戒しています。

 同日、汎米保健機構(PAHO:WHOの米州地域事務局)のエティエンヌ事務局長は、「先週ブラジルで報告された新規感染者数がこの7日間で最も高かったことを特に心配している。ペルーとチリでも高い発症率が報告されている」と述べ、「今は制限を緩和したり、予防戦略を縮小したりする時ではない。」と指摘しています。

 とくにブラジルでは感染者・死者ともに急増し、累積感染者数では米国に次いで世界で2番目に多い国となっています(公式に感染者が確認されたのが2月26日)。

累計感染者数:58万4016人
死者数:3万2548人
致死率:5・57%

主な州では、
①サンパウロ州(ブラジル国内で最多)
累積感染者数:12万3483人
死者数:8276人
②リオデジャネイロ州
累積感染者:5万9240人
死者数:6010人
(米ジョンズ・ホプキンス大学調べ。6月4日)

 この2州の累積感染者数の合計は国全体の感染者数の31%超を占めています。なかでもサンパウロ州は群を抜いて多くなっています。

 こうした状況下で懸念されるのが「医療崩壊」です。ブラジル最大の都市であるサンパウロ市(人口約1200万人)のブルーノ・コヴァス市長は、同市の公立病院の病床利用率が90%であると公表しています。国内の専門家も、感染スピードが増していくにつれて、医療システムが非常に厳しい状況になることを心配しており、解決策として人の移動を強制的な隔離も含めてより厳しく制限することが必要であると述べています。

 ここに至るまで、連邦政府、州・都市では感染防止に対してどのような措置が採られてきたのかを少し振り返ってみたいと思います。