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コロンビア 米国による圧力強化と深まる対立

今年9月以降、カリブ海で「麻薬密輸船」との疑いのある船舶に対する米軍の軍事攻撃が断続的に続いています。BBCの報道(10月24日)によると、米軍による武力攻撃はすでに10回を数えており、その範囲もカリブ海から太平洋へと拡大させています(7回目までと10回目はカリブ海域での行動)。

10月24日に報じられた10回目の武力攻撃では、6名が死亡しました。これにより一連の武力攻撃による死者の数は少なくとも43人と伝えられています。さらに、ヘグセス国防長官が、原子力空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群を地中海からラテンアメリカ海域に移動するよう命じたことも報じられています。

10月21日から22日にかけて太平洋沖で行われた8回目と9回目の武力攻撃ではそれぞれ2名と3名が死亡した一方で、米軍からは1人も負傷者が出なかったことがヘグセス国防長官から明らかにされました。同長官によると、米国の情報機関は船舶が違法な麻薬密売に関与していたことを認識していたと述べています。

しかしながらメディアの報道によると、これまでのところ、米国当局は攻撃で死亡した人々の身元や、その者たちが所属しているとされる麻薬密売組織についての詳細をほどんど明らかにしていません。

そうした中、10月16日に行われた軍事行動では、攻撃を受けた船舶の乗組員4名のうち2名が生存していたことが明らかになりました(乗組員全員が死亡しなかったのはこれが初めて)。この生存者2名(エクアドル人とコロンビア人)は米海軍に一時的に拘束されたのち、それぞれの国に送還されました(※この経緯については専門家から疑問の声が上がっています)。

この攻撃について、トランプ大統領は自身のSNSで「もしこの潜水艦(※攻撃された船舶のこと)の接岸を許せば、少なくとも2万5000人の米国人が死亡することになるだろう」と、裏付けとなる根拠を示すこともなく述べています。

この2名はそれぞれ身元が特定されていますが、コロンビア人に関しては、「脳損傷」を負っており重体であることが、同国のベネデッティ内務大臣のXで報告されました。この人物について同内務大臣は「麻薬密売の罪で起訴されることになる」と述べています(10月19日)。もう1人のエクアドル人に関しては、係争中も含めて犯罪行為を犯したことを示す証拠がないため釈放されたと報道されています(10月20日)。

この2か月近くで10度に及ぶ武力攻撃を一方的に行っている米国政府ですが、トランプ大統領はこの軍事行動について、国際水域で違法な麻薬組織を攻撃する法的権限があると主張しています。報道によると、トランプ政権の基本的見解は、米国と麻薬組織は「紛争状態」にあり、この密輸組織の構成員を「違法戦闘員」に認定しているというものです。その一方で、陸上での作戦に関しては議会の承認を求める可能性があることをトランプ大統領は示唆しています。

ヘグセス長官は、22日に行った8回目と9回目の武力攻撃についての説明の中で、麻薬組織を「麻薬テロリスト」と呼び、攻撃された船舶は「外国テロ組織(FTO)によって運用され、東太平洋で麻薬密売を行っていた」と述べています。さらに、「アルカイダがわが国に戦争を仕掛けたように、これらのカルテルはわが国境と国民に戦争を仕掛けている」として、9.11を主導した「アルカイダ」に例えています。

しかし法律の専門家からは当然、「麻薬密売人」を司法審査なしに即刻殺害できる「違法戦闘員」として扱うことができるのかという根本的な疑義が出されています。

同じく民主党・共和党議員からも、一連の攻撃についての合法性と大統領の命令権限について懸念する声が上がっています。具体的には、9月10日、民主党上院議員25人が、「乗船者や積荷が米国に脅威を与えたという証拠もないまま」船舶を攻撃したという内容の書簡をホワイトハウスに送ったこと、共和党のランド・ポール上院議員が、このような攻撃には議会の承認が必要だと主張したことが報じられています。

一連の軍事作戦は、トランプ大統領が「ラテンアメリカの麻薬組織」対策のために軍事力の使用を開始する命令に秘密裏に署名したところから始まっています(8月8日の報道)。米国政府は、ベネズエラの高官(マドゥーロ大統領を含む)が、ベネズエラの麻薬組織「カルテル・デ・ロス・ソレス」、犯罪組織「トレン・デ・アラグア」などを率いて米国への麻薬密輸を仲介していると断じています(当然、ベネズエラ政府はこれを否定)。トランプ大統領は、マドゥーロ大統領を「世界最大の麻薬密売人の1人」と非難しており、マドゥーロ大統領逮捕につながる情報提供に対する懸賞金までかけています。※米国政府は、両組織を「外国テロ組織(FTO)」に指定。

8月以降に展開された米軍は、イージス艦(駆逐艦)、ミサイル巡洋艦、原子力潜水艦、強襲揚陸艦などの艦艇8隻と、F35戦闘機10機、約4500名の兵員(うち海兵隊員2200名)という大掛かりなものでした。これには20年以上使われていなかったプエルト・リコの海軍基地が作戦拠点として使われています。

そして最初の武力攻撃が行われたのが9月2日、快速艇を無人機で撃沈し、乗員11名が死亡しました。

この件に関して、米国政府は撃沈の映像のほかには具体的証拠を示しませんでした。これに対しては米国内でも大統領に「麻薬密売容疑者」を殺害する権限は認められていないとする声が上がりました(「外国テロ組織」に指定されたとしても、自動的に殺害できる力の行使は認められてはいません)。また国際法の専門家からは国際海洋法や国際人道法違反の可能性を指摘されています(米国は国連海洋法条約には署名していませんが、米国政府は国際法を遵守してきたと主張)。

なぜトランプ政権はこのような武力攻撃を繰り返し行っているのでしょうか? ベネズエラのマドゥーロ政権への圧力を強め、政権転覆を謀ろうとする意図が働いているというのが一般的な見立てです。そのための口実が「麻薬密輸」の取り締まりです。これは、トランプ政権に限らず、歴史的に米国政府が行ってきた中南米諸国の内政に介入するための常套手段とも言えるものです(1989年のパナマ侵攻によるノリエガ将軍逮捕・米国への連行が有名。この時も麻薬の大量密輸の罪で裁かれました)。

10月15日、トランプ大統領は、米中央情報局(CIA)にベネズエラ国内での秘密作戦の実行を許可したとの報道を認めました。さらにベネズエラ領土への攻撃を検討しているとも発言しています。

米国の軍事行動の主要なターゲットがベネズエラ(マドゥーロ政権)であるのはこれまで見たとおりですが、現在では、ベネズエラに限らず、隣国コロンビアのペトロ政権に対する圧力を強めています。それはペトロ大統領がトランプ大統領に対する批判を繰り返し行っているからであり、広くは中南米の左派政権に対する揺さぶりであるとも言えます。以下、コロンビアとの関係についてまとめてみます。

9月2日、最初の軍事作戦が行われたあとで、ペトロ大統領は、ベネズエラへのいかなる攻撃もラテンアメリカとカリブ海諸国への攻撃に等しいと述べて米国政府を批判しました。

9月15日、米国政府は、コロンビアが麻薬密売対策の義務を「著しく怠った」として、麻薬取引対策パートナーとしての認定を取り消し、ベネズエラなどとともに「国際麻薬対策協定に基づく義務を順守できなかった国」に指定しました(但しこの時は同対策に基づくコロンビアへの軍事・経済援助は継続すると判断)。

9月23日、ペトロ大統領は国連総会で演説し、カリブ海における米国の軍事攻撃について米国が「麻薬密売撲滅」を口実にラテンアメリカにおける支配を強めていると非難し、トランプ大統領を含む米当局者に対する刑事訴訟を開始するよう訴えました(演説中、米国代表団は議場を退席)。

10月18日、ペトロ大統領が、9月16日にカリブ海で麻薬密売組織に対する米軍の軍事作戦が行われている最中、漁に出ていたコロンビア人の船が攻撃を受け、コロンビア人漁師1人が家に戻っていないと非難、「(その船は)おそらくコロンビアの海域にいたと思われる」として、米国政府がコロンビアの領海における主権を侵害したと批判しました。

※メディアの報道などでは、この「コロンビア人漁師」については過去に犯罪歴があったことが明らかにされていますが、これらの麻薬組織との関係など詳細は不明です。

翌19日、これに対してトランプ大統領はペトロ大統領を「違法な麻薬組織のリーダー」と呼んで非難し、麻薬生産を「止めるための措置を一切講じていない」として、コロンビアに対する補助金などの支援を打ち切ると表明しました(2024年に米国議会が認めたコロンビアへの対外援助は3億7750万ドル)。

10月21日に行われた武力攻撃はコロンビアの近海で実施されたと報じられています。

10月24日、米国政府が、ペトロ大統領、大統領夫人とその長男、ベネデッティ内務大臣らを麻薬密売に関与した疑いのある人物として制裁対象に指定しました。

このように、9月以降、米国とコロンビア両国政府の政治的対立により緊張関係が高まっています。その中でトランプ政権による一方的な軍事力の行使が、ラテンアメリカ・カリブ海地域の平和と安全を著しく損なうことになっていることは明らかだと思います。すぐにでもこうした軍事行動・戦争を挑発する行為をやめるべきです。

もちろん、麻薬密売対策が必要であるとしても、事の詳細を明らかにすることなく、また一切の司法プロセスを欠いた形で、強大な軍事力を行使することがこの問題を解決することにつながらないことは、これまでの両国の取り組みの歴史を見ても明らかだと言えます。

※この記事を作成するにあっては、BBCの配信記事、CNNの配信記事などを参照してまとめています。その他には、週刊金曜日(No.1537)「マドゥーロ政権打倒を目指す 麻薬組織中枢の制圧口実に」(伊高浩昭)、月刊「地平」(2025年11月号)「緊迫するベネズエラ トランプ政権による軍事挑発の背景」(新藤道弘)を参照しました。

2025年10月27日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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