1月2日夜から1月3日早朝にかけて、ベネズエラに対する米軍の軍事侵攻「断固たる決意作戦(Operation Absolute Resolve)」が実行されました。その過程でニコラス・マドゥーロ大統領とシリア・フローレス夫人が身柄を拘束(逮捕)され、訴追されるためニューヨークに移送されました。
中南米の多くの国が今回の米国の行動をベネズエラの主権侵害、侵略行為として非難する声明を出しています。また米国内を含めた世界各地でも米国による軍事侵攻と主権侵害に抗議する行動が起こっています。
1月2日深夜から3日早朝の軍事作戦の概要とその後の事態について、現時点(1月4日午後)までに報道されていることを中心にまとめてみます。
(1)1月2日深夜から始まったベネズエラへの軍事侵攻
ベネズエラ当局によると、米軍による攻撃は首都カラカスと近隣のアラグア州、ミランダ州、ラ・グアイラ州で行われました。攻撃を受けた対象には、ラ・カルロタ空軍基地(カラカス)、ラ・グアイラ港、フェルテ・ティウナ(軍事施設)、エル・ボルカン・アンテナ施設、イグエロテ空港などが含まれていたことが確認されています。攻撃に伴い、カラカスのいくつかの地域では停電が発生している旨が報告されています。今回の作戦は数か月前から準備されていたことが確認されています。
米統合参謀本部のダン・ケイン議長の説明によると、作戦はベネズエラの防空システムに対する攻撃から始まり、航空機約150機が参加したとのことです。マドゥーロ大統領の逮捕には陸軍のデルタフォースと第160特殊作戦航空連隊(通称「ナイトウォーカーズ」)が参加、現地時間の午前2時頃に大統領のいる施設に侵入し、作戦全体は約2時間20分を要したとのことです。
トランプ大統領は、この任務で米軍関係者の死者は出ていないと主張しましたが、一部負傷兵が出たとの報道もあり、現時点では米軍側の負傷あるいは死者の数は不明です。一方ベネズエラ側では、民間人を含めて少なくとも40人が死亡したとニューヨーク・タイムズが伝えています。
拘束されたマドゥーロ大統領夫妻は、ヘリコプターでカリブ海に展開する米軍の強襲揚陸艦「イオー・ジマ」に移送されました(その後、船内で撮影されたとされるマドゥーロ大統領の写真が公表)。身柄はニューヨークに移送され、マンハッタンの連邦裁判所で起訴されました。米国のパム・ボンディ司法長官は、容疑は「麻薬テロの陰謀とコカイン密輸の陰謀」などと説明しています(シリア・フローレス夫人もコカインの密輸共謀などで起訴)。
トランプ大統領は、3日に記者会見を開いて、今回の軍事作戦についての説明を行いました。その中で、そのような事態は起こりそうにないとしながらも、必要と判断すればベネズエラに対してさらに大規模な第2次攻撃を仕掛ける用意がある考えを明らかにしています。
その一方で今後のベネズエラについては「安全かつ適切で賢明な政権移行」が行われるまで米国がベネズエラを「統治する」と述べましたが、その具体的な期限や移行のやり方については説明していません。
また、昨年ノーベル平和賞を受賞したマリア・コリーナ・マチャド氏に対しては、「国内で支持も尊敬も得ていない」として、「リーダーになるのは非常に難しいだろう」と否定的な見解を示しています。
さらにベネズエラの原油資源については、米国企業が運営を引き継ぐことを望んでいる旨を公言しました。ベネズエラのエネルギー産業のインフラ再建に米国企業が資金を出すことで、石油生産の収益性が回復するようになると述べています。
「我々は国を適切に統治するつもりだ。優れた判断力と公正なやり方で統治されるだろう。そして、多くの利益も得られるだろう」とトランプ大統領は、米国資本による植民地主義的な野心を明らかにしています。
今回の行動については、1989年12月に中米パナマで行われた軍事侵攻との類似が指摘されています。このときパナマの軍事独裁体制の統治者であったマヌエル・ノリエガ将軍が、米国への麻薬密輸容疑で米海軍特殊部隊「SEALS(シールズ)」によって身柄を拘束され(本人が投降)、米国内で裁判にかけられました。身柄が拘束された日付が今回と同じ1月3日でした。ノリエガ氏は米国内で40年の懲役を言い渡されましたが、その後減刑され、米国で17年服役しました(2017年死亡)。
(2)ベネズエラ政府の対応
今回の軍事侵攻が始まった際、マドゥーロ大統領は、ベネズエラ全土に非常事態を宣言する文書に署名し、すべてのベネズエラ国民に対し、結集し、米国による攻撃に対抗するよう呼びかけました。また拘束される前の最新のインタビューの中で、マドゥーロ大統領は米国がベネズエラの石油と鉱物資源のすべてを欲していると述べていました。
当初デルシー・ロドリゲス副大統領が「マドゥーロ大統領と大統領夫人の生存証明」を求めました。国営テレビを通じて「我々は国際法の尊重を要求し、我が国民に対するこのような残虐な侵略行為を非難する」とのメッセージを出しました。
にもかかわらず、トランプ大統領は先の記者会見の中で、マルコ・ルビオ国務長官がベネズエラのロドリゲス副大統領と会談して、ベネズエラの再建に必要なことを行う用意があることについて確約したと発言しました。
こうしたトランプ大統領の発言があったのちも、ロドリゲス副大統領は、ベネズエラ人は「諦めず、屈服せず、古代の帝国であろうと、新しい帝国であろうと、衰退している帝国であろうと、誰の植民地にもならない国民である」と主張し、あくまでも抵抗する意思を示しました。
ベネズエラの最高裁判所は、3日夜、マドゥーロ大統領不在の間、ロドリゲス副大統領が大統領代行を務めるべきとの判断を下しています。
最後に、1月3日付で公表されたベネズエラ政府の声明の抜粋をあげておきます。
ベネズエラ政府の声明(2026年1月3日)
「ベネズエラ・ボリバル共和国は、現在のアメリカ合衆国政府が、共和国の首都カラカス、およびミランダ州、アラグア州、ラ・グアイラ州の民間および軍事施設において、ベネズエラの領土と国民に対して行った極めて重大な軍事攻撃を、国際社会に対して拒否し、非難し、告発する。この行為は、主権の尊重、国家の法的平等、武力行使の禁止を規定した国連憲章、特にその第1条および第2条に対する明らかな違反である。このような侵略は、国際的な平和と安定、特にラテンアメリカおよびカリブ海地域の平和と安全を脅かし、何百万人もの人々の生命を深刻な危機にさらしている。」
「この攻撃の目的は、ベネズエラの戦略的資源、特に石油や鉱物を奪い、武力によって国家の政治的独立を破壊することにある。しかし、彼らは成功しないだろう。(中略)ファシスト的な寡頭政治と結託して、共和制政府を破壊し、政権交代を強制しようとする植民地戦争の試みは、これまでのすべての試みと同様に失敗に終わるだろう。」
「ボリバル政府は、国内のあらゆる社会的・政治的勢力に対し、動員計画を発動し、この帝国主義的攻撃を非難するよう呼びかける。」
「我々は、ラテンアメリカ、カリブ海地域、そして世界中の国民と政府に対し、この帝国主義的侵略に対抗して積極的な連帯行動を起こすよう呼びかける。」
今回の米軍による一方的な軍事侵攻とベネズエラに対する主権侵害行為は到底許されるものではなく、これを強く非難します。事態がどのように推移するかも含めて今後とも状況を注視していきたいと思います。今回の行動に対する各国政府(主に中南米地域)の対応については、回を改めてまとめてみます。
2026年1月4日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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