はじめに
前回は「キューバの労働事情(就労編)」でしたが、今回はその続き「賃金編」です。ここでも国家情報統計局の統計と国営メディア「クーバデバテ(Cubadebate)」(「キューバ討論」という意味)の記事を見ながら進めていきたいと思います。
1.キューバの平均賃金について
昨年(2019年)、キューバの平均賃金(月額)は102ペソ増加して、879ペソとなりました。このアップは最近5年間で最も大きな上昇となっています。
なお、ここで示されている「平均賃金」とは、国営部門、つまり国営企業(外資との合弁企業も含む)と予算付き機関での賃金(月額)のことです。単位は国内ペソ(CUP)です。
(注)国営部門は、国営企業と予算付き機関とに大きく分かれます。予算付き機関とは国家予算からの財政で運営される営利を目的としない機関のことを指します。具体的には、病院や学校、行政や防衛機関、文化・スポーツ機関などが含まれます。
ちなみに、キューバの昨年の国営部門の就業者数が307万8600人、非国営部門を合わせた全就業者数が458万5200人ですので、この「平均賃金」の対象となる就業者の割合は、約67%になります。
9月4日付記事では、このアップでも「不十分である」と述べつつ、777ペソ(2018年の平均賃金)から879ペソ(2019年の平均賃金)への上昇は、昨年6月に決定された予算付き機関における賃金引き上げ(7月から実施)を反映したものと述べています。この時、同機関の最低賃金を400ペソに引き上げることも決定されました。
国家情報統計局の報告「数字に見る平均賃金 キューバ2019」によると、平均賃金は2015年から連続して上がっています(上記のグラフ参照)。それぞれ前年と比べて、2016年は53ペソ、2017年は27ペソ、2018年は10ペソの上がり幅です。これらと比べると、昨年の上がり幅が大きかったことがわかります。
2.業種別の平均賃金の動向
次に業種別の平均賃金を見てみます。
平均賃金が1000ペソを超えている業種は、金額の高い順に、建設業(1597ペソ)、鉱山採掘・採石(1481ペソ)、金融仲介(1206ペソ)、科学・技術イノベーション(1036ペソ)、電気・ガス・水道供給(1016ペソ)の分野になります。
増加した額の大きさでは、予算付き機関の分野が最も大きく、2018年に比べて200ペソ以上増加しています(公共保健・ソーシャルケアは除く)。その中でも行政・防衛・社会保障の平均賃金は800ペソで、2018年より273ペソのアップ(すべての業種で最大の上げ幅)です(2017年は549ペソ、2018年は527ペソ)。
ただ、額を大きく伸ばしたとは言え、予算付き機関の平均賃金はそれでも全体の平均額(879ペソ)を下回っています。上回っているのは公共保健・ソーシャルケアの965ペソのみです(2018年は808ペソ)。他にも漁業(843ペソ)、商業・所持品修理(655ペソ)、ホテル・レストラン(529ペソ)、輸送・倉庫保管・通信(868ペソ)、その他の公共・団体・個人サービス(692ペソ)といった業種が全国平均を下回っています(上記のグラフ参照)。
2019年7月から実施された予算付き機関における賃金の給与の引き上げは、147万736名の労働者とその家族に利益をもたらしています。この措置に伴う年間コスト(国家予算)は70億5000万ペソと算出されています。
国営企業の平均賃金は、524ペソ(2013年)から891ペソ(2019年)へと継続的に増加してきたと記事は述べています。また、企業収益の分配金の労働者への支払いは平均1500ペソを上回り、中には13CUC(兌換ペソ)の奨励金を支払う企業も存在していると報じています。
(注)キューバは二重通貨制度の下にあります。国営部門で受け取る所得の通貨は国内ペソ(CUP)ですが、その他に兌換ペソ(CUC)と呼ばれる通貨があります。CUCとCUPの交換レートは1:25となっています。
3.地域による平均賃金の差
情報統計局のデータを見ると、県の間の平均賃金の格差についても示されています。
但し、首都ハバナは市、イスラ・デ・フベントゥ(青年の島。本島の南に位置する)は特別行政区です。