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キューバ 来年1月から通貨・為替レート統合を開始

(1)通貨・為替レートの統合開始の発表

 12月10日、キューバのディアスカネル大統領は、テレビ・ラジオの放送を通じて、来年1月1日から通貨・為替レートの統合を開始することを伝えました(放送には、ラウル・カストロ共産党第1書記が同席)。通貨はキューバペソ(CUP)のみとなり、これまで流通していた「外貨兌換ペソ」(CUC)は廃止となります。為替レートは「1米ドル(USD)=24ペソ(CUP)」に統一されます。このレートは、住民に対しても企業に対しても同じく適用されます。(以前は異なるレートが使われていました)

「対応する必要なすべての法律の作成とチェックが終了したので、1月1日から通貨・為替統合を開始することを通知できる条件が整ったとみなす」とディアスカネル大統領は述べました。

 この統合に伴い、新しい為替レートの設定、外貨兌換ペソ(CUC)の流通中止、過度な補助金や不適切な無償措置の廃止、所得分配における修正などが実施されることになります。

「この“タスク”によって、我々の社会・経済モデルの現代化が求める変革を実現するためにより良い条件をもたらすことができるだろう」と大統領は今回の措置の意義を語っています。また、「このタスクは、それだけでキューバ経済が現在抱えているあらゆる問題を魔法のように解決するものではない。にもかかわらず、より着実な形で進んでいくために必要な条件を作り出すものでもある」と述べています。

 通貨・為替レートの統合は、以前のキューバ共産党大会で確認されていた措置の1つであり、経済全体にわたって大きなインパクトを持つものです。一方で、この措置の実施により避けられないリスクの1つが、「想定されている以上のインフレになることである」と述べるとともに、「法外で投機的な価格の上昇は認められない。社会的に、抑制措置と規則を守らない者への厳格な制裁措置をもって対応していく」との厳しい姿勢を示しました。同時に「国民に反するショック療法はけっして用いられない」ことを繰り返し強調しました。

(2)通貨・為替レート統合による影響と実施される具体的な措置

 通貨・為替レートの統合によって大きな影響を主に受けるのは国営企業になります。とくに企業向けの為替レートが現在の公式レート「1USD≒1CUC=1CUP」から「1USD=24CUP」へと大幅な通貨切り下げとなるため、これまで安かった輸入財の価格上昇などによってコスト負担が大きくなり、製品価格が値上がりすることになります。また、実際の小売価格も今後は製品に対する補助金を削減していくため、値上がりすることになります。

 これまでのように安い輸入品に依存した企業経営では利益が上がらなくなるということを意味します。その一方で、為替レートが大幅な切り下げとなるため、輸出業者(企業)にとっては大きな収益をもたらすチャンスとなります。

 今回の統合措置は、キューバ政府が考えている新しい経済戦略に沿うものです。それはつまり、現在の輸入に依存した経済構造(そのための外貨が必要)からの脱却を目指すために、輸出を刺激・拡大(結果として外貨を獲得する)して、輸入を抑制する(輸入代替、国内生産の増大と効率化)ことを図ろうとしています。

 しかしこの措置の実施に伴い、様々な悪影響(大きいのは、国営企業の収益悪化やインフレによる国民生活への負担増)が予想されるため、政府機関はその緩和策の準備や国民向けの説明を強化しています。

 ここでは、マリーノ・ムリージョ・ホルヘ委員長(指針の実行と発展のための常設委員会)が行った説明を参照していくつかのテーマを取り上げてみます。(※指針とは、2011年キューバ共産党第6回党大会で採択された『党と革命の経済・社会政策の指針』のことを指します。)

①外貨兌換ペソ(CUC)の取り扱いについての措置

 外貨兌換ペソ(CUC)の流通が停止されるまでの期間は、少なくとも6か月間は確保される予定であると説明しています。この期間にCUCを所持している人は、CUPに両替するか、あるいは市場での物品の購入で使い切ることになります。店側は使用されたCUCを受け取り、それをCUPに両替します(この措置はすでに実施されています)。

「銀行では、現在の交換レート(1CUC=24CUP)が維持される」と説明しています。つまり、キューバ市民は、来年の1月1日以降180日間は、現行の1CUC=24CUPの交換レートで、銀行や両替所でCUCをCUPに交換することができます。

 その他には、
・銀行のATMでは、カードと紐づけされた口座の通貨とは関係なく、CUPが使用されます。
・CUCの口座と紐づけされた磁気カードは、発行銀行が期限を決めるまでの間は有効ですが、実際の取引はCUPで行われます。

 キューバ中央銀行の説明によると、CUC口座、貯蓄口座、定期預金口座、譲渡性預金(証書)などは、180日間はCUCで維持される。この期間に、所有者は預金残高の全額または一部を、CUP(レートは1CUC=24CUP)か、米ドルあるいはユーロに交換することができます。

 また、臨時官報(10日公示)によると、CUC口座の所有者が来年1月1日以降180日の間に変更しに銀行に行かなかった場合、口座の預金は、自動的にCUPに変えられることになっています(その場合のレートは1CUC=24CUP。元々の契約期間と様式は変更なし)。この時点での「対応するレートでのCUPによる利息」は付くことになっています。

 さらに、所有者がCUC口座の残高を全額または一部を米ドルあるいはユーロに交換した場合、その銀行が該当する通貨預金の証明書を発行すると中央銀行は説明しています。

「米ドルあるいはユーロ預金の証明書の所有者は、(証明書が)作られた後、その残高を増やしたり、その通貨を現金で引き出したりすることができない。また、外貨での他の銀行商品にそれを移すこともできない。国がこれらの証明書を保証するための外貨準備を用意することができる場合にその条件を修正することができる」とされています。つまり、CUC預金を米ドルやユーロ預金に変えることはできるものの、その使用に関しては制限が課せられることになります。

 これとは別に、今年に入って、キューバ国内では認められた国営店舗に限定した形で米ドルやユーロ口座にリンクした磁気カード決済での物品購入が認められてはいます。この場合も現金の支払いは認められていません。あくまでも口座引き落としという形での決済になっています。先ほど説明したように、CUCから米ドルやユーロに交換した口座についてもこうした形式での使用が認められることになるのか、この点に関してはもう少し調べてみる必要があります。

 また、外貨が保証される以前に所有者が口座の資金を引き揚げることにした場合、証明書は無効となり、現金の引き出しはCUPで行われる(元本+利息)ことになります。レートは操作が行われる日のレートが適用されます。

 基本的に、キューバ国内で行う通貨取引の銀行口座は法人や私人であれ、「外貨での操作が明確に許可された場合を除いて」はCUPになります。CUPの対外貨レートは固定相場制が採用されます(対米ドルレートは、1USD=24CUP)。

②住民の所得に関する対策について

▪最低賃金の引き上げ

 まず12月に最低賃金の引き上げを図ります。本来の実施は来年1月からですが、12月23日から賃金の前倒し支給を始めると説明しています。これは先に説明した物価上昇を見込んだ措置です。投機的な商品の値上げは認められないとは言え、企業向けの為替レートが引き下げられることから輸入品を中心に製品の価格上昇は避けられません。

 最低賃金は月額2100CUPに引き上げられます(ここで言う最低賃金は主に国営部門の労働者に適用されるものです)。これは、基準となる財とサービスの組み合わせ(バスケット)の費用に基づいて算出された額です。1バスケットは、金額にして1528CUPで、内容としては1日2100kcal+その他の必要とされているものを満たすと説明しています。

 先の最低賃金額は、1.3バスケット分(1986CUP)+社会保障費(約5%=105CUP)の合計2091ペソを繰り上げて2100CUPと算出しています。1バスケット(1528CUP)の割合を見ると、食料分が799CUP、その他の財・サービス分が729CUPとなっています。また、この1528CUPにおける「配給品目分」に相当する額は282CUPとなっています。(配給品目の対象になっている食料品には鶏肉、米、卵、ハム、豆類などがあり、その他に石鹸、歯磨き粉などの洗浄・衛生用品などが含まれています)

 マリーノ・ムリージョ・ホルヘ委員長は、配給品目以外の食料品については値段が高く、入手するには多大な努力が必要とされることはわかっているが、すぐに解決できるものではないとも述べています。

▪年金増額について

 現在キューバには167万1000人の年金生活者がいますが、各人が受け取っている年金額も今回の通貨・為替レート統合に際して、引き上げられることになっています。これまで月額280~300CUPだった人は、1528CUPを受け取れることになります。(これは先の1バスケットに相当する金額)

臨時官報第69号より筆者作成 ※単位はCUP