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コロンビア くり返される労働組合員・社会活動家への暴力

(1)くり返される労働組合員・社会活動家に対する殺害事件

 少し前になりますが、昨年11月に公表されたコロンビアについての英BBCの記事を紹介します。『なぜコロンビアに労働組合がほとんど存在しないのか(社会的リーダーの殺害とどう関係しているのか)』(2020年11月25日付記事)というタイトルの記事です。

 記事の冒頭で、昨年11月下旬に起こった社会活動家と労働組合員に対する殺害事件を報じています。以下、他の情報と合わせて再構成しています。

 11月20日頃、ジョニー・ウォルター・カストロさん(40歳)が、コロンビア南部のナリーニョ県リナーレス市にある自宅に侵入してきた男たちの銃撃を受けて殺害されました。ウォルターさんは同地区の紛争の犠牲者の代表として社会活動を行っていました。

 11月22日、同じくナリーニョ県トゥマコ市で、教師で労働組合員であったバイロン・アリリオ・レベロさんの遺体が発見されました。バイロン・アリリオ・レベロさんは誘拐されたのちに殺害され、死体が遺棄されていました。

 記事では「殺害の詳細も具体的な動機も解明されていない。この2名は以前から脅迫を受けていた」とし、共通する要因として、2人が社会的な活動家であったために亡くなったことを指摘しています。

 コロンビアにおける社会活動家や労働組合員に対する殺害事件は歴史的に続く構造的な問題となっていて、海外メディアでもこうした事件が頻繁に報道されています。同国では、長年紛争状態にあった政府と反政府ゲリラ組織の「コロンビア革命軍」(FARC)との間で2016年に和平合意が締結されましたが、国連によると、2016年以降で600件を超える同様の殺害事件が起こっているとBBCの記事は報じています(ちなみに現在も、和平合意に反対しFARCを離脱したゲリラグループなどが活動を続けています)。そして、こうした殺害事件の背景には「労働組合に反対する暴力」の問題があることを指摘しています。

 同国のNGO団体である「全国労働組合研究室」(ENS)(※)の調査によると、1973~2019年の間に殺害された労働組合員は3300人に上ると報告しています。国際労働機構(ILO)も、コロンビアが労働組合員であることが危険な国の一つであり、ラテンアメリカ地域で労働組合員が少ない国の一つになっている原因が、この「労働組合に反対する暴力」であると述べています。

 とくに暴力事件が多発する地域は、麻薬密売グループ(ゲリラ組織も行っている)、パラミリターレス(準軍事組織、右派民兵)、反政府ゲリラ組織が勢力争いを行っている地域であり、そこは国家の支配が及んでいない「権力の空白」地帯となっています。

(※)ENS(Escuela Nacional Sindical):1983年設立のNGO団体。学校の教師や組合のリーダーなどによって結成。コロンビアの労働実態の研究、組合指導者の教育に関する知識と経験を提供することが目的。またコロンビアの労働者の利益のために社会的に活動。

(2)「労働組合に反対する暴力」と労働組合運動の特徴

 「労働組合に反対する暴力」は、労働運動の創設期と時を同じく起こっています。例えば、1928年12月、米国企業ユナイテッド・フルーツでの労働者のストライキ(2万5000人)にコロンビア軍が介入した際、1500~3000人の死者が発生したと見られています。

 1930年代以降、工業化の始まりとともに労働組合運動が勃興し、60~70年代に運動は力を増していきました。しかし、労働文化の研究者であるアイーダ・ロドリゲス氏(フランスの社会科学高等研究院の社会学教授)は、「コロンビアの工業化はとても不安定で不均等であった。労働者地区は分散しており、労働者階級の文化は強くならなかった」と語っています。また、コロンビアの労働者の特徴として、社会・文化的には農民層の一部にとどまり続けたことで、政治的代表という意味でははっきりとした集団をなしておらず、こうしたことも集団としての要求をまとめる障害になったと同教授は説明しています。

 さらには、コロンビアがラテンアメリカ地域における米国の主要な同盟国であり、左派政権の成立、あるいは社会革命が起こらなかった点にも言及しています。

 多くの研究者が意見を同じくしているように、80~90年代には、労働組合に反対する暴力と資本主義経済の新自由主義化によって労働組合運動の影響力が小さくなり、現在では労働組合の加入率は4~5%に低下しています(ENSによる)。ILOのデータでも、同地域ではペルーとともに加入率が最も低いと言われています。ほとんどの労働組合が組合員数100人未満(少ない組合は25人程度)であり、教員の組合を除いて小規模で分散化していると説明しています。

 ENSの報告によると、労組加入率が低い要因として、90年代の経済の新自由主義化によって企業と労働組合に加入していない労働者との間で協定が結ばれ、規制の緩い有期雇用が増加していることを指摘しています。

 このほか、ラテンアメリカ地域特有の問題としてインフォーマルな労働の多さもあります。インフォーマルな労働の割合については50~70%にも上ると見られています。つまり、生産年齢人口の半分超が労働契約もなく、労働組合に入るインセンティブもない状況にあることを意味しています。

 また90年代は、麻薬密売によって非合法な武装グループが強化された時代でもあり、反政府ゲリラ組織に対する国家とパラミリターレスの間の悲惨な戦争が激化した時期でもありました。

(3)NGOによる報告について

 ここではBBCの記事から少し離れて、先に紹介したENSの報告の概要について取り上げて補足してみます。

 昨年10月にENSが他のNGOや労働組合とともに『コロンビアにおける労働組合に反対する暴力』という報告書を公表しました。この報告は、反労働組合暴力の特徴やパターン、時期区分などについて分析するとともに、背景説明、被害と影響、暴力に対する取り組み、真実の解明といったテーマでこの問題について多角的にまとめています。

 まず、この国には一種の「反労働組合的文化」が存在していると述べています。そのことが、労働組合に加入する労働者にとって「スティグマ」(汚名、恥辱)を感じさせることになっています。こうした現象は、20世紀から形成され、とくに20世紀後半には、労働組合運動が進歩や発展の「敵」として位置づけられ、労働組合員たちは、「破壊分子」「共産主義者」などと呼ばれたと説明しています。つまり、労働組合による抗議行動が「犯罪」として扱われ、マスメディアによる労働組合運動に対するマイナス・イメージづくりなども加わって「反労働組合的文化」と言うべき風潮が形成されていきました。

 続いて、組合員への暴力に関する統計(1971年から2018年)を示しておきます。

コロンビアにおける労働組合員の命、自由、身体に対する暴力(1971-2018年)
(ENSのホームページより作成)