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キューバ 国会で報告された最近の経済状況

7月20~22日、首都ハバナで第10期第1回通常期国会(人民権力全国議会)が開かれました。通常、全国議会は年2回(7月と12月)に開催されます。

今年3月に選挙が行われて474名の議員が選出されています(任期は5年)。なお議員数は、2019年の選挙法改正(同年の憲法改正に伴う法改正)に伴い減少しています(以前は605名)。

本会議に先立って、18~19日に常設の作業委員会(11の分野)で報告・討論が行われました。

今回は、そこでの報告も含めて国会で明らかになったキューバ経済の現状についてまとめてみます。

(1)GDPの回復は徐々に

まず経済成長率についてです。昨年(2022)の成長率について報告がありました。経済問題の作業委員会での報告(経済計画省のレティシア・モラレス第1副大臣)によると、22年初の予測では4%のプラス成長、年末にプラス2%に再調整されましたが、実際にはそれも下回るプラス1.8%であったことが明らかになりました。

コロナ禍で落ち込みが激しかった2020年の成長率はマイナス10.9%(2019年比)でした。続く2021年の成長率はプラス1.3%でしたので、昨年のプラス1.8%と合わせて、2年間でプラス3.1%は回復したことになります。

しかし20年のマイナス分が大きいので回復分を考慮に入れても、コロナ禍前の2019年の水準よりもまだ8%近く(7.8%)落ち込んだ状態にとどまっていることがわかります。

GDP(国内総生産)の総額は、522億4500万ペソ。こちらでもコロナ禍前の2019年の数字には届いていない現状が浮き彫りになっています。

GDPの増大に寄与した分野は、観光業(+193%)、教育(+52%)、輸送(+21.6%)、通信(+31.6%)、文化・スポーツ(+12.5%)ですが、反対に落ち込んだ分野は、農畜産・林業(−5.3%)、製造業(−6%)、商業・日用品の修理(-4.9%)、電気・ガス・水の供給(-13.2%)、公的医療・社会扶助(-16.6)です。

これを見ると、日常生活により密着した分野の経済活動の落ち込みが気になるところです。

(2)外貨収入と通貨事情

経済活動を支えるのに必要不可欠なのが外貨収入です。しかし、外貨収入がマイナスであることが最終日(22日)の本会議で報告されました(アレハンドロ・ヒル・フェルナンデス経済計画相の報告)。

外貨収入を確保する上で大きいのは輸出によるものですが、この点については、計画予想を下回っており、今年前半期の輸出(財・サービス)による外貨収入は12億8200万ドルで、計画より9400万ドル少なく、年間計画の総額(35億8700万ドル)の35.7%となっています。

この点について、ヒル・フェルナンデス経済計画相は、「外貨を必要とする経済活動に直接的な悪影響がある」こと、「経済計画で予測された活動を保証するためには輸出を実現する必要がある。外貨収入を実現するために後半期には多大な努力が求められる。」と述べています。計算上、今年の後半期で23億500万ドルを稼ぐ必要があります。

輸出品目別で見ると、プラスなのが、たばこ、ラム酒、バイオ医薬品、海産物などで、予想を下回っているのが、ニッケル、砂糖、蜂蜜、石炭となっています。

また輸出ではないですが、大きな収入源の1つである観光業については、現在までに130万人の観光客がキューバを訪れており、これは計画の約80%に上るものの、2019年同時期に記録した数字と比べるとその約51%であると報告しています。

その上で、「パンデミックで深刻な影響を受けた観光業の回復を迅速に進める必要がある。」と述べています。

こうした外貨事情を背景に、キューバの通貨価値は、インフォーマルな市場で下落し続けています。7月22日の時点で、1ドル=220ペソで取引されています。対ユーロではそれよりも安く1ユーロ=225ペソを記録していると報じられています。

なお、このレートは、さまざまなデジタルプラットフォームや Web サイトでの取引を元にしています。

※非公式の対ドルレートはその後も下がり続け、8月初めに1ドル=240ペソを記録しています。

公式の為替レートは、法人の場合、1ドル=24ペソ、一般の人と小売部門では、1ドル=120 ペソとなっています。ただし銀行や両替所(Cadeca)を介して取得できるドルの額は1人あたり100ドルまでに制限されています。

こうした厳しい外貨事情の下で、期待されているのが外国資本による直接投資案件の増加です。

ヒル・フェルナンデス経済計画相の報告によると、今年前半で新たに15の事業(総額4億3700万ドル)が認可されたこと、事業内容としては観光業と食料生産が4事業ずつで最も多いと報告されています。

(3)続く物価高、農業生産の低迷

続いて、7月19日に行われた経済問題の常設作業委員会での財政・価格省のウラジミール・レゲイロ・アレ大臣の報告を取り上げます。

まずは、物価高ですが、昨年末の時点で消費者物価指数は39%上昇しています。今年初めから物価は約18%上昇しており、昨年と比べて年率45%の上昇となると報告しています。こちらも近年上がり続けています。

インフレ要因については、主に国際的な経済危機(注:コロナ禍による影響+ウクライナ戦争による影響と思われる)、米国の経済制裁・封鎖による影響を指摘していますが、それに加えて国内的には、収入以上の支出による国家予算を賄うための多額の財政赤字を挙げています(赤字分は国債を発行して賄っています)。

レゲイロ・アレ大臣は、物価高に対する住民の不満が多いことを認めており、具体的かつ明確な解決策が必要だと述べています。とくに心配されるのは、生活必需品とサービスの消費における国民の購買力の低下です。

政府がとっている措置としては、価格の統制(国民の需要がとくに高い品目について)が際立っており、その他にも、基本的なサービス分野についての安定供給と価格についての調整や、売り上げとサービスに関する税の改善措置などがとられているとしています。

その一方で、エステバン・ラソ国会議長が「供給と生産がなければ、効果的な価格のコントロールは実現しない。」と指摘しているように、需給バランスの不均衡(とくに輸入を含めた供給不足)が改善されないと、この傾向は改善されていかないと考えられています。

次に、キューバでネックとなっている農業生産について、農業・食品委員会での報告から見てみます。

この分野については、2021年に63の改善措置がパッケージとして承認されましたが、報告では、今年5月までの主要生産品目の結果は芳しくないものだったとされています。22年の同時期と比べると、計画の未達成、あるいは減少となっています。

計画で予想された生産量の水準に到達していない品目には、根菜類や野菜、豆類、トウモロコシ、果物類、米、さらに、豚肉と牛肉、卵と牛乳、コーヒー、ココア、蜂蜜など日常生活に欠かせないものが多数挙げられています。

同じく報告書では、肥料、殺虫剤、燃料、動物用飼料、その他の基本的な投入財に制限があることや、組織上および管理上の問題について指摘しています。これらは生産拡大にとってのネックとして挙げられています。

例えば、肥料については、今年5月末までに農業用に輸入・生産が予定されていた2万8900トンのうち、受け取ったのはわずか168トン(0.6%)。ちなみに、昨年の同時期に受け取ったのは1万4700トンでした。また、予定されていた国内生産量の9600トンは生産されていないと報告されています。

ディーゼル燃料については、5月末までに計画の68%しか準備できず、これは昨年同時期よりも8500トン少ない数字です。

主要品目の状況がいくつか説明されています。(報告は主にその品目を生産する企業グループの代表)

豚肉の生産については、昨年の同じ時期より生産量も出荷量も多くなっているけれども、国内需要を満たす水準にはなく、市場価格は依然として高騰していると述べています。その背景には飼料の不足が影響していると指摘しています。

牛肉・牛乳についても同様で、飼育に必要な投入財の入手が難しく、生産者に損失をもたらしていると述べています。

日常的に必要な配給品では、とくに小麦とコーヒーの生産に問題が見られると報告されています。

小麦については、昨年半ばから小麦の確保が非常に難しくなり始め、今年前半にはその状況が悪化していることを認めています。

これは小麦の買い付けがうまくいっていないことが要因となっていますが、その一方で、国営企業以外の経済アクターが一定レベルの小麦粉を輸入して、サプライチェーンに参加していることも報告されています。

小麦の供給不足によるパンの生産への影響については、代替の原材料として、キャッサバやサツマイモのでん粉を使用していることなどを報告しています。

コーヒーについても、国内生産では賄えず、今後もどれだけ輸入できるかにかかっていると述べています。

イダエル・ペレス・ブリト農業相は、「危機の時には中小規模農業が強化されるべき」との見方を示しています。一方、マヌエル・ソブリノ・マルティネス食料産業相は、食品加工の分野での新しい経済主体として食品加工に従事する800を超える零細中小企業の存在に期待を寄せる発言をしています。

今回の報告からは、ようやくコロナ禍による経済の落ち込みから立ち直りつつあるキューバ経済の実情が見えてきますが、長年の経済システムの改善(経済主体の多様化や経済活動の分権化など)によって、それを持続可能なものへとつなげていけるのかが引き続き課題になっています。

2023年8月11日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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