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ベネズエラ 大統領選挙に向けた動き

ベネズエラの選挙管理委員会(CNE)は3月5日、次期大統領選挙を24年7月28日に実施することを発表しました。

その中でCNEのエルビス・アモロソ委員長は選挙までのプロセスを次のとおり公表しました。

有権者の選挙人登録の特別期間は3月18日~4月16日

候補者の申請書提出は3月21日~25日

選挙運動期間は7月4日~25日

投票日は7月28日

(1)大統領選に至るまでの動き

今年行われる大統領選挙の内容については、23年10月17日にカリブ海のバルバドスで与野党対話が行われて双方が合意に達しました(ノルウェーが進行役)。

公表された「合意文書」には、2024年下半期の大統領選挙の実施、EU・国連などの国際的な監視団の受け入れ、候補者の安全保証、選挙資金の透明性の確保、公平な報道などが含まれていました。

これに基づいて、候補者の指名・選定がそれぞれの政党グループ間で行われてきました。

まず与党勢力ですが、現職のニコラス・マドゥーロ大統領が出馬を表明し指名を受けています。3月16日にベネズエラ統一社会主義党(PSUV)は、マドゥーロ氏を大統領選の正式な候補者として発表しました。マドゥーロ大統領は3期目を目指して選挙を戦うことになります。

一方の野党勢力の候補者選定ですが、主な野党連合である「民主統一プラットフォーム」(PUD)は4月19日、エドムンド・ゴンサレス・ウルティア氏を大統領選の統一候補者として「全会一致で」承認したことを明らかにしました。

エドムンド・ゴンサレス・ウルティア氏に決まるまでには紆余曲折がありました。

まず昨年10月に行われたPUD内の予備選挙の結果、マリア・コリーナ・マチャド氏が候補者に選出されました。

しかし同氏は、23年6月に会計検査院から「資産申告に誤りと記載漏れがある」ことを理由に公職就任資格の停止処分(15年間)を受けており、立候補が認められるかどうかは当初から不透明な状況にありました。

同氏の公職就任資格の停止措置の撤回を求める申し立ては、今年1月26日に最高裁が「不適とする」判断を下したことで退けられました。

マチャド氏は自らの立候補の届け出ができなくなる前に、代替の候補としてコリーナ・ヨリス氏を指名しました。しかしヨリス氏の立候補については、立候補のための電子登録の途中で専用ウェブサイトへのアクセスがブロックされてできなかったと主張する事態になります。選挙管理委員会(CNE)はこの主張を否定しています。

こうした動きの中で、PUDは、3月の時点でエドムンド・ゴンサレス・ウルティア氏を候補者として「暫定的に登録すること」を決定しました。その理由として「統一候補が登録できるまでの間、我々の政治組織に属する政治的権利の行使を保持するため」と説明しています。

ゴンサレス氏の登録が認められていたことは、3月26日に選挙管理委員会が会見で確認していました。

PUDがゴンサレス氏を正式に候補者として承認したのは4月19日でした。選挙のプロセス上では「候補者の変更が認められる期限」(4月20日まで)の前日のことでした。

ゴンサレス氏は、「選挙を通じて変化を望むすべての人々の候補者であるという計り知れない栄誉と責任を私は引き受ける。ベネズエラ国民に愛をこめて」と、自身のXアカウントに投稿しました。

PUDのオマール・バルボサ事務局長は、ゴンサレス氏が選挙管理委員会に「登録されている」ことを確認した上で、「選挙戦には勝利を収めるだろう」と述べました。

PUDの予備選で勝利していたマチャド氏は、公開した録画ビデオの中で「我々は自由に向けて再び大きな一歩を踏み出した」とコメントしました。

また、野党にはすでに「すべての人たち、すべての政党、善良な市民たちから支持されている候補者」がいることをアピールしました。

登録ができなかったコリーナ・ヨリス氏もXアカウントで「我々には候補者がいる。何よりも団結だ」と呼びかけています。

ゴンサレス候補は現在74歳、外交官として1991年から1993年まではアルジェリア大使を務め、ウーゴ・チャベス政権初期にはアルゼンチン大使も務めています。

野党勢力の一員としては、2013 年から 2015 年までの期間に「民主統一円卓会議」の国際代表を務めました。

(2)米国政府による緩和していた制裁措置の再開

4月17日、米国政府は、ベネズエラのマドゥーロ政権が、予定している大統領選挙についての野党側との約束を履行していないとして、ベネズエラの石油事業に対する制裁措置を再開することを明らかにしました。

これは、前述した野党候補の登録を巡る一連の動きをベネズエラ政府による「妨害」と判断して、圧力をかけるために実施することを意味しています。

米財務省は、昨年10月に実施した期限付き(6カ月間)の制裁緩和措置の期限日となる4月18日の数時間前に自身のウェブサイトで、石油・ガス事業についてベネズエラ国営企業との取引を「解消」する目的で、取引企業に45日間の猶予を与える代替のライセンスを発行したと発表しました。

米国政府はここ数カ月の間、もし「自由で競争的な」選挙を実施するために野党側と合意した昨年10月の約束をマドゥーロ大統領が履行しなければ、同国の石油・ガスといったエネルギー事業に対する制裁措置を再開すると、繰り返しベネズエラ政府に対して圧力をかけてきました。この時の合意によって昨年10月には米国政府による制裁措置が部分的に緩和されていました。

ベネズエラの石油企業に対する制裁措置(米国企業による取引停止)は、2019年にトランプ政権時に初めて科されました。これは、2018年の大統領選挙が不正の疑いがあるとして、米国政府を筆頭に多くの西側諸国が無効であり、マドゥーロ政権を正式な政府とは認めないという判断に基づくものでした。

米政府高官らは、4月17日、マドゥーロ大統領は昨年の合意に基づく約束を一部は履行したものの、大統領選に野党が自ら選んだ候補者の擁立を認めないなど、その他の約束を反故にしたと述べました。

「(合意が)履行がなされていない分野には、専門的な事柄による立候補者や政党の資格剥奪、野党や市民社会の人物に対する嫌がらせと抑圧の継続的なパターンが含まれている」と米国の当局者はコメントしています。

今回の制裁措置の再開は、野党勢力のみならず米国政府との対話の流れを逆転させるものではあるものの、完全な方向転換や、19年に「暫定大統領」を一方的に宣言した野党のフアン・グアイドー氏を正当として承認したドナルド・トランプ前大統領が実施した「最大限の圧力」に匹敵するものとは言えないと指摘されています。

その根拠の1つが、先の米財務省の発表の中に、ベネズエラ国営企業との取引については、ケースバイケースで検討するという趣旨の内容が含まれていることです。つまり一律、全面的に禁止しない姿勢を示しています。

また、アナリストたちの分析によれば、仮にベネズエラのエネルギー部門に対する厳しい制裁を復活させれば、バイデン大統領が11月の米国大統領選の再選に向けて選挙活動を行っている期間に、世界的に原油価格が上昇したり、メキシコ国境へのベネズエラ人移民の流入が増加したりする可能性があると懸念されており、これらの懸念材料が今回の決定に影響していると見られています。

とは言え、ベネズエラ政府は、今回の米国政府の決定はベネズエラに対する米国の「新たな侵略」とみなされる行為だとして非難しました。

ニコラス・マドゥーロ大統領は、「いかなるものも我々を止められない。我々は誰の植民地でもないからである」と明言しました。

また、同国のラファエル・テレチェア石油相は、石油部門は今後も成長すると述べています。

「我が国は、エネルギー開発を停止させるための攻撃を受けてきたが、その間においても、違法な制裁の有無にかかわらず前進し続けることを我々は示してきた」と発言しました。

BBCの配信記事では、大統領選について、「多くの世論調査ではマドゥーロ氏を支持する割合は低いとの予想が出ている」が、「著名な野党政治家の候補者登録に障害が出ている」ことなどから、「政治的変化の可能性は低い」としています(4月17日付)。

大統領選には、与党と主な野党候補の2名のほかにも登録している候補者が11名おり、その中で選挙戦が繰り広げられることになっています。大統領の任期は2025年1月から2031年1月までの6年間です。

2024年4月30日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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