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はじめに

 「ラテンアメリカの現在」は、ラテンアメリカ・カリブ海地域での民衆の社会運動を軸に、その背景となる政治・経済的なニュースをピックアップして紹介するページです。

 2000年代以降、この地域では、新自由主義的グローバリゼーションに抗する社会運動の活発化と連動した「左派・進歩派政権」が台頭してきました。しかし2010年代になって次第に、左派政権の政策面での行き詰まりや右派勢力の巻き返しなどが起こり、ラテンアメリカ社会自身がいろいろな意味で分岐してきています。
 とりわけ、米国ではトランプ政権による介入主義的な対応が強まり、各国内でも権威主義的な政治の傾向が顕著になっています。

 こうした情勢の複雑な変化を踏まえつつ、ラテンアメリカ社会が現在から未来にわたってどう変化していこうとしているのかをできるだけ事実を踏まえ、読み解きながら考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

【記事一覧】
キューバ 圧力を強めるトランプ政権と緊急対策の実施(2026年2月27日)
ベネズエラ 米国の軍事侵略に対する中南米地域の反応(2026年1月6日)
ベネズエラ 米国の軍事侵略と民主主義の危機(2026年1月4日)

チリ 右派大統領の誕生 「右傾化」が進む南米(2025年12月19日)
チリ 11月大統領選挙の結果(2025年11月29日)
コロンビア 米国による圧力強化と深まる対立(2025年10月27日)
ボリビア 大統領選・決戦投票の結果(2025年10月26日)
アルゼンチン 州議会選挙での与党の敗北(2025年9月25日)
ボリビア 8月大統領選挙の結果(2025年8月29日)
アルゼンチン 深まる政府と議会の対立(2025年7月29日)
チリ 先住民の権利を認める制度改正への動き(2025年6月28日)
キューバ 苦境が続く観光業(2025年5月27日)
キューバ 回復の兆しが不透明な経済状況(2025年4月27日)
アルゼンチン 退職した年金生活者の闘い(2025年3月23日)
アルゼンチン ミレイ大統領と「投資詐欺」疑惑(2025年2月24日)
メキシコ 「トランプ2.0」に備える経済発展プラン(2025年1月27日)
メキシコ 「トランプ2.0」への対応(2024年12月23日)
ブラジル 先住民による「土地の権利」を守る闘い(2024年11月27日)
アルゼンチン 増加する貧困層(2024年10月23日)
アルゼンチン ミレイ政権による新自由主義改革の行方(2024年9月25日)
ベネズエラ 大統領選挙をめぐる動向(2024年8月18日)
キューバ 苦境が続く経済状況(2024年7月26日)
メキシコ 大統領選とジェンダー平等(2024年6月25日)
アルゼンチン 公立大学を守る歴史的意義(2024年5月31日)
ベネズエラ 大統領選挙に向けた動き(2024年4月26日)
キューバ 経済状況の悪化と社会的不満の高まり(2024年3月26日)
チリ 昨年12月の憲法改正国民投票の結果について(2024年2月29日)
アルゼンチン ゼネストに立ち上がる労働者(2024年1月30日)
アルゼンチン ウルトラ・リベラリズム政権の始まり(2023年12月12日)
チリ 新憲法案が抱えるジレンマ(2023年11月17日)
アルゼンチン 大統領選挙は決選投票へ(2023年10月25日)
チリ 軍事クーデターから50年の今(2023年9月23日)
キューバ 国会で報告された最近の経済状況(2023年8月11日)
ブラジル ボルソナーロ前大統領に被選挙権停止の判決(2023年7月22日)
チリ 軍事クーデターから50年、人々の評価(2023年6月27日)
チリ 憲法審議会選挙と右派の優位(2023年5月29日)
キューバ 国会選挙と第二期ディアスカネル政権の成立(2023年4月27日)
キューバ 今年の経済見通し(2023年3月29日)
ペルー 継続する抗議行動(2023年2月26日)
チリ 新憲法制定のための改正法が成立(2023年1月28日)
チリ 憲法改正へ向けて再始動(2022年12月20日)
ペルー 大統領の罷免と「政治的危機」(2022年12月12日)
ブラジル 大統領選と民主主義の再生(2022年11月22日)
キューバ 改正家族法の成立(2022年10月24日)
チリ 新憲法案否認についての左派の見方(2022年9月28日)
チリ 新憲法案を否決(2022年9月13日)
コロンビア ペトロ左派政権の始まり(2022年8月17日)
チリ 新しい憲法案について(2022年7月13日)
コロンビア 史上初の左派政権の誕生へ(2022年6月22日)
コロンビア 大統領選の行方(2022年6月9日)
〈ロシア軍によるウクライナ侵攻〉中南米各国政府の見解(2022年5月29日)
ペルー 高まる政治的・社会的危機の中で(2022年4月28日)
チリ ボリッチ大統領の初演説(2022年3月28日)
キューバ 家族法の改正へ向けて(2022年2月27日)
チリ 新しい政権の顔ぶれ(2022年1月31日)
チリ 大統領選での左派候補の勝利(2021年12月30日)
チリ 大統領選が映す社会の実像(2021年11月30日)
人工妊娠中絶合法化への動き(2021年10月31日)
メキシコ 人工中絶を罰するのは「違憲」(2021年9月30日)
コロンビア 「全国スト」の継続した闘い(2021年8月31日)
キューバ 抗議行動の社会的背景を考える(2)(2021年8月21日)
チリ 憲法制定議会が始まる(2021年7月29日)
キューバ 抗議行動の社会的背景を考える(1)(2021年7月20日)
チリ フェミニズム運動がもたらしたこと(2021年6月30日)
チリ ジェンダー平等からみた制憲議会(2021年6月20日)
チリ 制憲議会選挙とジェンダー平等(2021年5月29日)
キューバ 経済的苦境の中の党大会(2021年5月18日)
ペルー 大統領選挙から見た政治的課題(2021年4月29日)
エクアドル 大統領選の結果と今後(2021年4月20日)
キューバ 通貨・為替の整備について(2021年3月22日)
エクアドル 大統領選挙の行方(2021年3月7日)
コロンビア くり返される労働組合員・社会活動家への暴力(2021年2月2日)
ベネズエラ マドゥーロ大統領の年次報告(2021年1月20日)
キューバ 来年1月から通貨・為替レートの統合を開始(2020年12月16日)
ペルー 大統領の辞職と政治的危機の構図(2020年12月1日)
チリ 憲法議会選挙をめぐって(2020年11月26日)
ボリビア 新大統領の就任演説(2020年11月18日)
チリ、憲法改正の是非を問う国民投票(2020年10月31日)
ボリビアの総選挙について(2)最終結果の公表(2020年10月25日)
ボリビアの総選挙について、左派勢力の勝利へ(2020年10月23日)
キューバの「二重通貨問題」について(2020年10月15日)
キューバの労働事情(賃金編)(2020年9月29日)
キューバの労働事情(就労編)(2020年9月27日)
コロナ禍のキューバ社会(2020年9月16日)
コロナ禍、債務問題に苦しむアルゼンチン(2020年8月31日)
コロナ禍のラテンアメリカ・カリブ地域(2020年8月18日)
〈危機〉の中のベネズエラ(2020年8月4日)
ベネズエラ、増加する感染者と経済状況(2020年7月27日)
スペインの最低生活所得とベーシックインカム(2020年7月21日)
メキシコ、感染症対策と「新しい日常」、サパティスタの声明(2020年7月6日)
キューバ、感染症対策と経済活動の再開(2020年6月26日)
ペルー、感染拡大から見える社会の矛盾(2020年6月19日)
ブラジルの緊急援助とベーシックインカム(2020年6月12日)
感染拡大が続くブラジル(2020年6月4日)
「コロナ禍」のラテンアメリカ(2020年5月28日)
キューバ、感染症と国際連帯(2020年5月18日)
ボリビアの行方とパンデミック(2020年5月11日)
キューバ、憲法改正から1年(2020年5月4日)
抗議するチリ、そしてパンデミック(2020年4月27日)

(雑誌『アジェンダ』でも「ラテンアメリカの現在―分岐する世界の中で―」というタイトルの連載記事を書いています。)

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キューバ 圧力を強めるトランプ政権と緊急対策の実施

2月6日(金)、キューバ政府は、必要不可欠なサービスの継続を保証するための全般的な緊急措置(エネルギー、交通、教育、医療、労働など)を講じると発表しました。これは、米国のトランプ政権が今年に入ってからさらに強めている圧力に対処するものです。

(1)トランプ政権による圧力強化

トランプ大統領による圧力の強化は、まず1月3日に実行されたベネズエラへの軍事侵攻とそれによるキューバへの原油供給の停止でした。トランプ大統領は1月11日に「キューバには石油も資金も一切供給しない。ゼロだ」「キューバには手遅れになる前に取引を強く勧める」と自身のSNSに投稿しました。

さらに1月29日には、キューバに石油を供給する国からの輸入品に追加関税を課すための大統領令に署名しました。この時、米国政府は、キューバが米国の国家安全保障と外交政策にとって「異例かつ並外れた」脅威であると一方的に決めつけています。

この措置により、ベネズエラとともに原油供給を行っていたメキシコがキューバ向けの原油供給を停止したことを明らかにしました(2月3日)。メキシコ政府は代わりに食料などの生活物資の援助を行うとしました。

その後、12日にメキシコ海軍の船2隻が、食料や個人衛生用品など約800トンの物資を積んでハバナに到着しました。数日中にさらに1500トンの粉ミルクと豆類を送る予定となっています。

こうした圧力強化に対して、キューバのディアス=カネル大統領が、2月5日、現在の困難な状況と今後に関しての質問に答える記者会見を行いました(全国で生中継)。

その中で、トランプ大統領の措置をキューバに対する「最大限の圧力」政策であると指摘、米国政府の言う「キューバ崩壊論」を批判しつつも、「米国と対話する用意がある」と述べました。また「深刻な燃料不足に対処する」計画を政府が準備していることも明らかにしました。

トランプ政権によるキューバへの圧力強化に対する国外からの批判についてですが、例えば、チリのボリッチ大統領が次のようなコメントを発表しています。

「米国がキューバに対して課し、ここ数週間で強化してきた封鎖は犯罪であり、国民全体の人権に対する侵害である。キューバとの間に意見の相違があることは承知の上だが、罪のない子どもたちや市民に危害を加えることを正当化するものは何もない」(2月12日、自らのXに投稿)。

チリ政府は、ユニセフを通じてキューバに100万ドルの人道支援を行うと発表しました(2月13日)。但しボリッチ大統領自身は、トランプ政権の圧力(米国による長年の経済封鎖)に対してだけ批判したのではなく、キューバの体制についても「独裁政治」(「一党制であり、表現の自由がない」)であるとして批判的な考えを明らかにしています。

(2)キューバ政府の緊急措置

キューバのディアス=カネル大統領が会見を行った翌日(2月6日)に、政府から全般的な緊急措置が講じられることについての発表がありました(措置の実施は翌週から)。

この措置については、6日に行われた閣僚評議会で承認されたのち、テレビなどの各種メディアを通じて内容が説明されました。その中で、ペレス=オリバ・フラガ第一副首相兼外国貿易・外国投資大臣は、今回の措置の目的は「国民のための基本的サービスを守り、確保すること」にあると強調しました。

実施される具体的な措置としては、燃料販売の制限(配給制)、県間の長距離バスと鉄道の運行削減、ホテルの一部閉鎖、公共部門(公共機関や国営企業)の週4日勤務(月曜日から木曜日)への短縮、テレワークの実施などが含まれています。

空の分野では、当面2月10日から3月11日までの間、ホセ・マルティ空港(ハバナ)を含むキューバ国内9つの国際空港すべてにおいて商業便への燃料供給が一時停止されるとしています。運行する場合は往復分の燃料をあらかじめ積んでおくか、別の場所で給油する必要があります。

キューバへの観光客の主な2つの供給先であるカナダとロシアの航空会社は、それまでにキューバに足止めされている自国民を出国させた後は、ハバナ行きのフライトを一時的に停止する措置をとることを決めました。

また、キューバにおけるスペインのホテルチェーンであるメリア社は、キューバにあるホテル30軒のうち3軒を閉鎖し、設備が充実して稼働率の高いホテルに観光客を集中させることを発表しました。

これらにより、今後の観光客の激減が予想されており、国の主な外貨収入源である観光業にとって大きな痛手となります。

エネルギーの分野では、太陽光など再生可能エネルギーへの投資を継続し、エネルギーの生産量を増やすとしています。

教育分野では、授業時間の短縮、大学ではハイブリッド学習(オンラインと対面の併用)が実施されます。

医療分野では、病院は原則として緊急手術のみの対応となり、職員の削減、医療機関に近い住民への対応を優先する(移動と燃料節約のため)など、大きな影響が出ています。

19日(木)には、ミランダ保健相が、手術を延期せざるを得なくなっている状況について報告しています。キューバ保健省は、緊急および急患の治療の場合の救急車搬送が限られていると報じています。

ペレス=オリバ・フラガ副首相は説明の中で、「既存の燃料供給は、国民のための必要不可欠なサービスの保護と、不可欠な経済活動に充てられている」と述べています。

キューバ革命以降、60年以上にわたり米国政府による経済封鎖下にあるキューバは、1991年のソ連崩壊時以来の深刻な経済危機に陥っていると言われています。海外の報道を見ると、深刻な燃料不足とエネルギー危機の中で家庭では炭と薪を使って調理している状況にあることなどが報じられています。

「我々は困難な時代を生き抜くことになるとわかっている」と、ディアス=カネル大統領は、2月5日に行われた記者会見の中で述べました。

(3)その後の動き

2月20日、米国の連邦最高裁判所が、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて大統領が関税を課すことはできないとの判決を下しました。この違憲判決を受けてトランプ大統領は、IEEPAに基づいた関税の徴収を終了する大統領令に署名しました(2月24日より停止)。

これにより、キューバに石油を供給する国からの輸入品に追加関税を課すとした1月29日の大統領令は事実上無効となりました。

しかしトランプ政権が、キューバを「異例かつ並外れた」脅威であると一方的に決めつけた「国家非常事態」宣言は撤回されていないため、新たな措置の可能性が残っているとの報道もあります。

さらに2月25日、米国財務省は、ベネズエラ産原油と派生品のキューバへの販売について一定の条件付きながらこれを認める決定を行いました。今回の措置は、キューバ政府に関係しない、同島での商業的および人道的使用のための輸出を含む「キューバ国民を支援する」取引を許可するものとしています。

キューバに販売するにはライセンスの申請と承認が必要です(認められれば、制裁の対象外となる)。その条件として、売却代金を米国政府が管理する口座に入金するなど、販売・取引に課せられたいくつかの制限を遵守する必要があります。申請する企業は米国以外の企業も可能としています。

一部緩和されたとは言え、あくまでも米国主導の措置であり、それに従わなければならないことには変わりがありません。今まで以上に国際社会が強く働きかけ、トランプ政権の圧力強化を一刻も早くやめさせる必要があります。今後とも事態を注視していきたいと思います。

2026年2月27日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
©2026アジェンダ・プロジェクト

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ベネズエラ 米国の軍事侵略に対する中南米地域の反応

前回の記事で載せられなかった中南米地域の反応についてまとめておきます。

①コロンビア

「コロンビア共和国政府は、ベネズエラ・ボリバル共和国でここ数時間の間に記録された爆発と異常な航空活動の報告、およびそれに伴う同地域の緊張の高まりを深い懸念をもって注視している」とコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、攻撃があった直後にSNSに投稿しました。

さらに以下のようにコメントしました。

「コロンビアは地域の平和維持を志向する立場をとっており、緊張緩和を緊急に呼びかけるとともに、関係各国に対し、対立を深める行動を控え、対話と外交ルートを優先するよう求める。」

「コロンビア政府は、状況を悪化させたり、民間人を危険にさらす恐れのある、いかなる一方的な軍事行動も拒否する。」

「コロンビア共和国は、いかなる形態の武力衝突よりも、平和、国際法の尊重、生命と人間の尊厳の保護が優先されなければならないという信念を改めて表明する。」

②キューバ

キューバのミゲル・ディアス=カネル大統領は、「キューバは、これらの行為を国家テロ行為、平和地帯である『我らのアメリカ』に対する犯罪的攻撃、独立・尊厳・団結の象徴である国家の主権侵害、そして国際法に対する容認できない攻撃であると宣告し、非難する」と述べました。

またキューバ政府は声明の中で以下のように主張しました。

「これは、モンロー主義に根ざした『我らのアメリカ』に対する米国の覇権主義的野望を復活させ、ベネズエラとその地域の天然資源への無制限のアクセスと支配権を獲得することを目的とした、支配を目的とした露骨な帝国主義的かつファシスト的な侵略行為である。また、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の政府を脅迫し、従属させることも狙っている。」

「キューバ革命政府は、世界のすべての政府、議会、社会運動、国民に対し、ベネズエラに対する米国の軍事侵略を非難し、国際平和と安全を脅かし、世界、特にラテンアメリカとカリブ海地域において米国帝国主義による新たな支配原理を押し付けようとするこの国家テロ行為に立ち向かうことを呼びかける。」

③チリ

チリのガブリエル・ボリッチ大統領は、「ベネズエラの危機は暴力や外国の干渉ではなく、対話と多国間主義の支援を通じて解決されなければならない」こと、「チリは武力行使の禁止、不介入、国際紛争の平和的解決、国家の領土保全といった国際法の基本原則の遵守を再確認する」と訴えました。

④メキシコ

メキシコのクラウディア・シャインバウム大統領は、国連憲章第2条を引用し、「この組織の加盟国は、国際関係において、いかなる国の領土保全や政治的独立に対する武力による威嚇や武力の行使も、また、国際連合の目的と矛盾するいかなる他の方法による武力の行使も慎まなければならない」と述べました。

⑤ブラジル

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、「ベネズエラ領内での爆撃と大統領の拘束は容認できない一線を越えている」とし、「これらの行為はベネズエラの主権に対する非常に重大な侮辱であり、国際社会全体にとってもう一つの極めて危険な前例となる」と発言しました。

また「国際法に著しく違反して諸国を攻撃することは、暴力、混乱、不安定の世界への第一歩である」とし、米国の行動は「ラテンアメリカとカリブ海諸国の政治への介入の最悪の瞬間を思い起こさせ、この地域の平和地帯としての維持を脅かすものだ」と述べています。

⑥アルゼンチン

これらの反応とは対照的に、トランプ大統領の同盟者であるアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、「自由は前進する。自由万歳」とXに投稿し、事実上米国の軍事侵攻を支持するコメントを発しました。

⑦スペイン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ウルグアイの6カ国による共同声明

4日、上記6か国が連名で米国のベネズエラへの軍事攻撃を非難する共同声明を発表しました。

1.我々は、ベネズエラ領土において一方的に行われた軍事行動に対し、深い懸念と非難を表明する。これらの行動は、国際法の基本原則、特に国連憲章に定められた武力行使及び武力による威嚇の禁止、並びに国家の主権及び領土保全の尊重に違反するものである。これらの行動は、平和と地域の安全保障にとって極めて危険な前例となり、民間人を危険にさらすものである。

2.ベネズエラ情勢は、外部からの干渉なしに、国際法に基づき、対話と交渉、そしてベネズエラ国民のあらゆる意思の尊重を通じた平和的手段のみによって解決されなければならないことを我々は改めて強調する。ベネズエラ国民主導の包摂的な政治プロセスのみが、人間の尊厳を尊重する民主的で持続可能な解決につながることを改めて確認する。

3.我々は、ラテンアメリカ・カリブ海地域が相互尊重、紛争の平和的解決、そして不介入の上に築かれた平和地帯であることを再確認するとともに、地域の安定を脅かすいかなる行動に対しても、政治的相違を超えた地域の結束を呼びかける。同様に、国連事務総長と関係する多国間機関の加盟国に対し、緊張緩和と地域平和の維持に貢献するために尽力するよう強く求める。

4.我々は、国際法に反し、地域の政治的、経済的、社会的安定を脅かす、天然資源や戦略的資源に対する政府による管理、運営、または外部からの不当な取得を企てるいかなる試みに対しても懸念を表明する。

最後に、ベネズエラ側の被害や政府の対応などについて触れておきます。

今回の攻撃による負傷者・死者についてですが、ベネズエラのウラジミール・パドリーノ・ロペス国防相が、マドゥーロ大統領を警護していたボディーガードの大半が米軍によって「殺害された」ことを報告していますが、それ以外の詳細は明らかにされていません。

これとは別にキューバ政府が、ベネズエラ側の要請に従って協力・防衛任務を遂行していた「キューバ人32名が戦闘中に命を落とした」ことを明らかにしています。

次にベネズエラ政府の動きですが、マドゥーロ大統領に代わり、大統領代行を担うことになったデルシー・ロドリゲス氏が初めての閣僚会議を行い、その後、以下の内容の「ベネズエラから世界と米国へのメッセージ」を公表しました。

ベネズエラは平和と平和的共存をその使命としていることを再確認する。我が国は、尊重と国際協力の環境下で、外部からの脅威を受けることなく生きることを望んでいる。全世界の平和は、第一に各国の平和を保障することによって築かれると信じている。

我々は、米国とベネズエラ、そしてベネズエラと地域諸国との間で、主権の平等と不干渉に基づき、バランスのとれた敬意ある国際関係を築くことを最優先事項と考えている。これらの原則は、我々が世界各国と外交を行う上での指針となってきた。

我々は米国政府に対し、国際法の枠組みの中で共通の発展を目指し、永続的なコミュニティの共存を強化するための協力計画に共同で取り組むよう呼びかける。

ドナルド・トランプ大統領:我が国民と我々の地域は、戦争ではなく平和と対話に値する。これはニコラス・マドゥーロ大統領が常に説いてきたことであり、今、すべてのベネズエラ国民が呼びかけていることでもある。これこそが私が信じるベネズエラであり、私が人生を捧げてきたベネズエラである。私の夢は、ベネズエラが、善意あるすべてのベネズエラ国民が共に集える偉大な国になることである。

ベネズエラには平和、発展、主権、そして未来への権利がある。

デルシー・ロドリゲス、ベネズエラ・ボリバル共和国大統領代理

5日、国会においてロドリゲス氏は暫定大統領に就任するための宣誓式を行いました。

2026年1月6日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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ベネズエラ 米国の軍事侵略と民主主義の危機

1月2日夜から1月3日早朝にかけて、ベネズエラに対する米軍の軍事侵攻「断固たる決意作戦(Operation Absolute Resolve)」が実行されました。その過程でニコラス・マドゥーロ大統領とシリア・フローレス夫人が身柄を拘束(逮捕)され、訴追されるためニューヨークに移送されました。

中南米の多くの国が今回の米国の行動をベネズエラの主権侵害、侵略行為として非難する声明を出しています。また米国内を含めた世界各地でも米国による軍事侵攻と主権侵害に抗議する行動が起こっています。

1月2日深夜から3日早朝の軍事作戦の概要とその後の事態について、現時点(1月4日午後)までに報道されていることを中心にまとめてみます。

(1)1月2日深夜から始まったベネズエラへの軍事侵攻

ベネズエラ当局によると、米軍による攻撃は首都カラカスと近隣のアラグア州、ミランダ州、ラ・グアイラ州で行われました。攻撃を受けた対象には、ラ・カルロタ空軍基地(カラカス)、ラ・グアイラ港、フェルテ・ティウナ(軍事施設)、エル・ボルカン・アンテナ施設、イグエロテ空港などが含まれていたことが確認されています。攻撃に伴い、カラカスのいくつかの地域では停電が発生している旨が報告されています。今回の作戦は数か月前から準備されていたことが確認されています。

米統合参謀本部のダン・ケイン議長の説明によると、作戦はベネズエラの防空システムに対する攻撃から始まり、航空機約150機が参加したとのことです。マドゥーロ大統領の逮捕には陸軍のデルタフォースと第160特殊作戦航空連隊(通称「ナイトストーカーズ」)が参加、現地時間の午前2時頃に大統領のいる施設に侵入し、作戦全体は約2時間20分を要したとのことです。

トランプ大統領は、この任務で米軍関係者の死者は出ていないと主張しましたが、一部負傷兵が出たとの報道もあり、現時点では米軍側の負傷あるいは死者の数は不明です。一方ベネズエラ側では、民間人を含めて少なくとも40人が死亡したとニューヨーク・タイムズが伝えています。

拘束されたマドゥーロ大統領夫妻は、ヘリコプターでカリブ海に展開する米軍の強襲揚陸艦「イオー・ジマ」に移送されました(その後、船内で撮影されたとされるマドゥーロ大統領の写真が公表)。身柄はニューヨークに移送され、マンハッタンの連邦裁判所で起訴されました。米国のパム・ボンディ司法長官は、容疑は「麻薬テロの陰謀とコカイン密輸の陰謀」などと説明しています(シリア・フローレス夫人もコカインの密輸共謀などで起訴)。

トランプ大統領は、3日に記者会見を開いて、今回の軍事作戦についての説明を行いました。その中で、そのような事態は起こりそうにないとしながらも、必要と判断すればベネズエラに対してさらに大規模な第2次攻撃を仕掛ける用意がある考えを明らかにしています。

その一方で今後のベネズエラについては「安全かつ適切で賢明な政権移行」が行われるまで米国がベネズエラを「統治する」と述べましたが、その具体的な期限や移行のやり方については説明していません。

また、昨年ノーベル平和賞を受賞したマリア・コリーナ・マチャド氏に対しては、「国内で支持も尊敬も得ていない」として、「リーダーになるのは非常に難しいだろう」と否定的な見解を示しています。

さらにベネズエラの原油資源については、米国企業が運営を引き継ぐことを望んでいる旨を公言しました。ベネズエラのエネルギー産業のインフラ再建に米国企業が資金を出すことで、石油生産の収益性が回復するようになると述べています。

「我々は国を適切に統治するつもりだ。優れた判断力と公正なやり方で統治されるだろう。そして、多くの利益も得られるだろう」とトランプ大統領は、米国資本による植民地主義的な野心を明らかにしています。

今回の行動については、1989年12月に中米パナマで行われた軍事侵攻との類似が指摘されています。このときパナマの軍事独裁体制の統治者であったマヌエル・ノリエガ将軍が、米国への麻薬密輸容疑で米海軍特殊部隊「SEALS(シールズ)」によって身柄を拘束され(本人が投降)、米国内で裁判にかけられました。身柄が拘束された日付が今回と同じ1月3日でした。ノリエガ氏は米国内で40年の懲役を言い渡されましたが、その後減刑され、米国で17年服役しました(2017年死亡)。

(2)ベネズエラ政府の対応

今回の軍事侵攻が始まった際、マドゥーロ大統領は、ベネズエラ全土に非常事態を宣言する文書に署名し、すべてのベネズエラ国民に対し、結集し、米国による攻撃に対抗するよう呼びかけました。また拘束される前の最新のインタビューの中で、マドゥーロ大統領は米国がベネズエラの石油と鉱物資源のすべてを欲していると述べていました。

当初デルシー・ロドリゲス副大統領が「マドゥーロ大統領と大統領夫人の生存証明」を求めました。国営テレビを通じて「我々は国際法の尊重を要求し、我が国民に対するこのような残虐な侵略行為を非難する」とのメッセージを出しました。

にもかかわらず、トランプ大統領は先の記者会見の中で、マルコ・ルビオ国務長官がベネズエラのロドリゲス副大統領と会談して、ベネズエラの再建に必要なことを行う用意があることについて確約したと発言しました。

こうしたトランプ大統領の発言があったのちも、ロドリゲス副大統領は、ベネズエラ人は「諦めず、屈服せず、古代の帝国であろうと、新しい帝国であろうと、衰退している帝国であろうと、誰の植民地にもならない国民である」と主張し、あくまでも抵抗する意思を示しました。

ベネズエラの最高裁判所は、3日夜、マドゥーロ大統領不在の間、ロドリゲス副大統領が大統領代行を務めるべきとの判断を下しています。

最後に、1月3日付で公表されたベネズエラ政府の声明の抜粋をあげておきます。

ベネズエラ政府の声明(2026年1月3日)

「ベネズエラ・ボリバル共和国は、現在のアメリカ合衆国政府が、共和国の首都カラカス、およびミランダ州、アラグア州、ラ・グアイラ州の民間および軍事施設において、ベネズエラの領土と国民に対して行った極めて重大な軍事攻撃を、国際社会に対して拒否し、非難し、告発する。この行為は、主権の尊重、国家の法的平等、武力行使の禁止を規定した国連憲章、特にその第1条および第2条に対する明らかな違反である。このような侵略は、国際的な平和と安定、特にラテンアメリカおよびカリブ海地域の平和と安全を脅かし、何百万人もの人々の生命を深刻な危機にさらしている。」

「この攻撃の目的は、ベネズエラの戦略的資源、特に石油や鉱物を奪い、武力によって国家の政治的独立を破壊することにある。しかし、彼らは成功しないだろう。(中略)ファシスト的な寡頭政治と結託して、共和制政府を破壊し、政権交代を強制しようとする植民地戦争の試みは、これまでのすべての試みと同様に失敗に終わるだろう。」

「ボリバル政府は、国内のあらゆる社会的・政治的勢力に対し、動員計画を発動し、この帝国主義的攻撃を非難するよう呼びかける。」

「我々は、ラテンアメリカ、カリブ海地域、そして世界中の国民と政府に対し、この帝国主義的侵略に対抗して積極的な連帯行動を起こすよう呼びかける。」

今回の米軍による一方的な軍事侵攻とベネズエラに対する主権侵害行為は到底許されるものではなく、これを強く非難します。事態がどのように推移するかも含めて今後とも状況を注視していきたいと思います。今回の行動に対する各国政府(主に中南米地域)の対応については、回を改めてまとめてみます。

2026年1月4日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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チリ 右派大統領の誕生 「右傾化」が進む南米

12月14日、大統領選挙の決選投票が行われ、1回目の投票で2位だった右派のホセ・アントニオ・カスト氏が、左派のジャネット・ハラ氏を破って当選を果たしました。

※11月に行われた1回目の投票については前回(11月29日)配信の記事(チリ 11月大統領選挙の結果)をお読みください。

(1)決戦投票の結果

最終的な結果は以下のとおり。

ホセ・アントニオ・カスト 得票数(7,254,850) 得票率(58.16%)
ジャネット・ハラ     得票数(5,218,444) 得票率(41.84%)

投票率85.06% 白票165,355(1.23%) 無効票783,001(5.83%)

この結果、現在のガブリエル・ボリッチ大統領率いる左派政権から右派政権へと政権交代が行われることになります(新しい大統領の任期は2026年3月11日から2030年3月11日までの4年)。

チリでは大統領の連続再選が認められていないこともあり、近年は大統領の任期ごとに左派と右派が交互に大統領の地位を占めてきました(ボリッチ大統領の前は、2006年から左派のミシェル・バチェレ氏と右派のセバスティアン・ピニェラ氏が交互にそれぞれ2回大統領に就任)。

今回、両者の得票率の差は16.32ポイントであり、大きく差をつけられました。またチリの全ての地域でカスト氏の得票率がハラ氏を上回っており、得票数でも「過去最高」を記録しました。

※「得票数」の多さについては、登録選挙人(有権者)の人数が増えていること、また以前(任意投票制)と違って、今回初めて「義務投票制」(法律上投票が義務付けられている)の下での選挙になったことが影響している部分があることも指摘されています。

前回2021年の大統領選の登録選挙人の数は15,030,973人で、今回は15,779,102人。前回の投票率ですが、この時も決選投票となり、任意投票制の下で55.64%でした。今回の投票率とかなり差があることがわかります。

事前の選挙予想でもカスト氏が「勝つ」と見込まれていましたので、この結果に「驚きはなかった」と言われています。

(2)カスト氏が勝利した要因

3度目の挑戦でカスト氏が勝つことができた要因はどこにあったのか、BBCの記事などを参考にまとめてみたいと思います。

勝因の1つとされているのが、多くの国民が抱いている「恐れ」「不安」の感情に強く訴えたことです。それは「組織犯罪」と「不法移民」に対する「恐れ」です。しかもこの2つは関連したものと考えられています。つまり、流入する「不法移民」が「組織的に犯罪行為」を行っている、そのため社会の治安や平穏が脅かされているという考えです。

事実、カスト氏が提案する政策も「犯罪組織の摘発の徹底」や「不法移民対策の強化」など、この点にクローズアップしたものとなっています。例えば、30万人と言われる「不法移民」の国外追放などです。

カスト氏は勝利した直後の演説の中で、「恐れを抱くことなく生きるという希望が勝利した」と述べ、自らが掲げる「変革の道が支持された」ことを強調しました。

その上で、「安全がなければ平和はない、平和がなければ民主主義はない。民主主義がなければ自由はない。そしてチリは再び犯罪、苦悩、恐怖から解放されるだろう」と訴えました。

その一方で、「ここには魔法のような解決策はない」「一日ですべては変わらない」、「我々に奇跡を求めるのではなく、エネルギーを求めてください」と述べて、結果が出るには時間がかかることを強調しています。

さらに、左派と右派という分断の克服と協調を呼びかけるとともに、自らを「すべての人の大統領」として押し出しています。

勝因の2つ目として指摘されているのは、これまでは「極右」のイメージが強かったのに対して、今回は「穏健派」に徹したことが「中道」的な立場の人々からの支持を得ることに成功したという点です。

とくに決選投票にあたっては、リベラル寄りの右派や中道的な立場を意識したメッセージを発することで、1回目の投票で3位につけた「中道」のパリシ氏を支持した票や、中道左派連合の右派寄りの票のそれぞれ一部を獲得したと評価されており、これらが「大勝」に結びついたと分析されています。

例えば、中道左派連合内のキリスト教民主党に属していたエドゥアルド・フレイ元大統領が、決選投票を前にしてカスト氏と会談しています(但し、フレイ氏はカスト氏への明白な支持は表明しなかったとされています)。

前回ボリッチ大統領に敗れた2021年の選挙の時には、カスト氏は保守的なカトリック教徒として、性的マイノリティの権利や中絶の権利に対して否定的な考えを示すとともに、独裁者であったピノチェトを称賛する旨を公言していました。

それに対して、今回の選挙戦では、そうしたテーマについては、チリの国民にとっての優先事項ではないと回避して、専ら先に挙げたテーマ(治安回復など)について取り上げることで「極右」というイメージを薄めようとしていました。

今回の選挙で「極右」的な役回りを演じたのが、国民自由党のヨハネス・カイザー候補でした(1回目の投票では第4位)。カイザー氏は、ピノチェト軍事政権下で人権侵害を行った人物の恩赦を提案していました。

結果的に決戦投票はカスト氏の「圧勝」となったわけですが、これがそのままカスト氏への全面的な支持につながっているかについては疑問視する向きもあります。

というのも、1回目の時のカスト氏の得票率は23.92%でしたが、これは前回(2021年)の時の1回目の得票率だった27.91 %を下回っているからです(2021年は7名で争われました)。先に見たように登録選挙人数と投票率が上がっているにもかかわらず、カスト氏自身への支持が増えているとは単純に言えないと見られています。

(3)「右傾化」が進む南米地域

カスト氏の勝利に対して海外からは、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領が「中南米の自由を守る一歩」と祝意を表明し、米国のマルコ・ルビオ国務長官が、チリと治安改善や貿易促進での協力を期待する旨の声明を発表しました。

※アルゼンチンでは10月26日に上下院議会の「中間選挙」が行われ、「苦戦」という事前の評価とはうらはらに、上下院ともミレイ大統領率いる与党連合が40%以上の得票率を獲得して勝利しました。

早速、カスト氏は16日(火)、アルゼンチンのブエノスアイレスでミレイ大統領と会談しました。今後の両国関係について「かつてないほど良好な関係を築いていくだろう」と報道陣に語りました。また、「独裁政権を終わらせるあらゆる状況」を支持すると述べて、ベネズエラへの米国の介入に対する賛同を表明しました。

その一方で、コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、カスト氏が勝利した後、SNSで「ファシズムが進んでいる」とカスト氏を批判するコメントを発しています。

また、敗れたハラ氏はSNSを通じて「民主主義は力強く、そして明確に語りかけた。私は今、次期大統領のカスト氏と話をして、チリの利益のために彼の成功を望んでいることを伝えました」とコメントしました。

2019年秋の大規模な社会運動から生まれた左派のボリッチ政権でしたが、ピノチェト独裁時代の影響が残る憲法を改正しようという試みが2度に渡って失敗したことで、顕著な成果を残すことができなかったと言えます。今回の敗北から何を学び、中道派を含めた左派勢力の立て直しを図っていくのかが問われています。

さらに、来年はコロンビアとブラジル、ペルーで大統領選挙が行われます。南米地域でより一層の右傾化に拍車がかかるのか、それを押し留めるのかが注目されます。また現在の米国トランプ政権によるベネズエラへの戦争挑発の動きがどう展開されていくのか、戦争反対の意思を示しつつ、事態を注視していきたいと思います。

2025年12月19日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
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チリ 11月大統領選挙の結果

11月16日(日)、南米チリで次期大統領選挙と国会(上下院)議員選挙が行われました。その結果についてまとめてみます。

(1)大統領選の結果

大統領選挙は8名の候補者で争われました。結果(数字は得票率)は以下のとおりです。

①ジャネット・ハラ候補(共産党)26.85%
②ホセ・アントニオ・カスト候補(共和党)23.92%
③フランコ・パリシ候補(人民党) 19.71%
④ヨハネス・カイザー候補(国民自由党)13.94%
⑤エヴリン・マテイ候補(独立民主同盟)12.46%
⑥ハロルド・メイネ-ニコルズ候補(無所属)1.26%
⑦マルコ・エンリケス-オミナミ候補(無所属)1.20%
⑧エドゥアルド・アントニオ・マルテス候補(無所属)0.66%

白票:1.06% 無効票:2.68%  投票率:85.26%(チリは義務投票制)
※チリの大統領は再選を認めておらず一期のみ。次の任期は2026年3月11日から2030年6月11日までの4年間。

いずれの候補者も過半数に届かなかったため、上位2名による決戦投票が12月14日(日)に行われることになりました。

現在の与党であるボリッチ政権を含めた中道左派勢力は早くから候補者を共産党のハラ氏に一本化し(6月29日)、選挙直前の世論調査でもトップに立っていました。

一方、カスト氏に代表される右派勢力からは、3名(カスト氏、カイザー氏、マテイ氏)が立候補しました。その中でカスト氏が「勝利」(全体では2位)したことで、12月の決戦投票は左派のハラ氏と右派のカスト氏の一騎打ちとなります。

12月の決戦投票に向けては、多くのメディアが、カスト氏「有利」・ハラ氏「苦戦」と報じています。というのも、今回の投票での他の右派候補(4位のカイザー氏と5位のマテイ氏)の得票率の合計が26.4%で、これをそのままカスト氏の得票率と合計すると50.32%の過半数となるからです。

そこでカギと見られているのが、今回3位につけたハリシ氏を支持した票の行方です。仮にハリシ氏の得票率19.71%がそのままハラ氏の得票率に上乗せされたとしても46.56%で過半数には届きません。当初からハラ陣営は1回目の投票で30%台の得票率を目標にしていましたが、思ったようには支持が伸びませんでした。

上記のことはあくまでも単純な計算上のことであり、12月14日までの限られた時間の中で両陣営、とくにハラ候補がどのような訴えをして有権者の支持を獲得していくのかが注目されます。

ハラ氏は、今回の結果を受けて、「わが国には未来があり、それは子どもたちの中にあります」と述べました。「民主主義は守られ、尊重されなければなりません。私たちは民主主義を取り戻すのに多くの犠牲を払ったにもかかわらず、今、民主主義は危険にさらされています」と呼びかけました。

他方、カスト氏は「チリの利益のため、そして私たちが直面している危機を乗り越えるためには、団結が不可欠です。チリという大義のために、私たちは団結しなければなりません」と訴えました。こう訴えるカスト氏の傍には5位のマテイ氏の姿があり、4位のカイザー氏もカスト氏への支持を表明しました。

カスト氏本人は「3度目の正直」と語っています(今回が3度目の挑戦。前回はボリッチ現大統領に敗れた)。今回の選挙でカスト氏が掲げている政策は、米国のトランプ大統領の政策と同じように、「不法移民」対策と称した国境取り締まりの強化や、組織犯罪に強硬な対応を取ることなどを提案しています。

カスト氏は、弁護士出身で保守的なカトリックと言われています。「極右」と言われることには否定的な態度を示していますが、過去には、軍事独裁を敷いたアウグスト・ピノチェト氏を支持する発言をするなど、物議を醸してきました。

他方、事前の予想を上回って全体の3位につけたパリシ氏は「街頭で支持(票)を獲得せよ」と、ハラ氏にもカスト氏にも呼びかけて、どちらの候補に対しても支持を表明しませんでした。中道右派と言われるパリシ氏は、それぞれの候補を「極左」と「極右」と規定して、「イデオロギー」よりも「国民」を優先するよう訴えました。

自らを既存勢力の「アウトサイダー」として押し出し、左派も右派も国民を利用してきた、その悪弊を終わらせるというのがパリシ氏が演説で強調している点です。選挙戦では自らを、「怒り」を持った中間層の代表と位置づけてきました(※パリシ氏は、経済学者として米国の大学で教鞭をとってきました。大統領選への出馬はカスト氏と同じく3度目)。

パリシ氏の3位「躍進」は、こうした訴えが一定の支持を得たことの表れです。あとで見るように、下院議会ではパリシ氏の率いる「人民党」が14議席を獲得したことで「キャスティング・ボード」を握っていると見られています。

カスト氏が「有利」な中、ボリッチ現政権を支えてきた左派勢力がハラ氏のもとで引き続き政権を継承し維持できるかどうかの岐路に立っていると言えます。

(2)国会(上下院)議員選挙の結果

続いて、政党連合別(現在の与野党)の国会議員選挙の結果は以下のとおりです。

▪下院(改選:全155議席)

与党(左派)
①「チリのための統一」(Unidad por Chile:共産党・社会党・拡大戦線など7政党)(61議席)
②「緑、地域主義、人道主義」(Verdes, Regionalistas y Humanistas:緑の地域主義・社会連盟)(3議席)
③「無所属」(現与党支持)(1議席)

野党(右派)
①「偉大で統一したチリ」(Chile Grande y Unido:独立民主同盟・民主党など4政党)(34議席)
②「チリのための変革」(Cambio por Chile:共和党・国民自由党など3政党)(42議席)

※「人民党」(14議席):現時点で議決の際に野党に加わるか不明

▪上院(改選23議席 全50議席)

与党(左派)
①「チリのための統一」(Unidad por Chile)(改選11+非改選9 計20議席)
②「緑、地域主義、人道主義」(Verdes, Regionalistas y Humanistas)(改選1+非改選2 計3議席)
「無所属」(現与党支持)(改選0+非改選2 計2議席)

野党(右派)
①「偉大な団結したチリ」(Chile Grande y Unido)(改選5+非改選13 計18議席)
②「チリのための変革」(Cambio por Chile)(改選6+非改選1 計7議席)

人民党は獲得議席0

※( )内は獲得議席数

この結果、下院では野党の右派勢力は合計76議席を獲得しましたが、過半数の78議席には2議席及びませんでした。しかし態度を明確にしていない人民党の対応如何では右派が過半数を制することになります。

上院では、改選・非改選を合わせて右派勢力が25議席を獲得、一方、与党支持と見られている無所属を含めた左派勢力も25議席となり、同数で拮抗する結果となりました。

(3)大統領選挙での大きな争点

再び大統領選にもどって、今回の大統領選挙の争点の一つが、犯罪の増加による治安対策と急増する移民への対応と言われてきました。とくに組織犯罪の増加への対応が有権者の大きな関心事となっています。

移民の増加については、国立統計局(INE)のデータによっても近年急増していることが明らかになっています(2024年の調査では160万人超、人口比約8.8%、2017年~24年の間で倍増)。来ている国で多いのはベネズエラ(全体の41.6%)で、続いてペルー(14.5%)、コロンビア(12.3%)となっています。

この移民の急増に関して多くの人が「不安」を抱くようになっていることが世論調査でも顕著となっています。公共研究センター(CEP)の調査では、自分の地域に外国人がいることについて「非常に心配している」と答えた人の割合が約44%、「ある程度心配」が約22%、「ほとんど、あるいは、まったく心配していない」が約34%となっています。

そして、移民と犯罪の増加との関連についてですが、移民の増加が犯罪率を高めている(国内の治安が悪化している)と考える国民の割合が増えています。チリのカトリック大学が行った調査(2023年)では、犯罪増加の原因は移民にあると考えている人が9割にも達しています。

しかし、統計上の分析ではその関連性が薄い(移民が増えていても、外国人の犯罪がとりわけ増えているわけではない)ことが指摘されています。

但し、外国人の犯罪種別で多いのが薬物関連の犯罪(麻薬密売)、組織犯罪(強盗)であることや、殺人事件でも犯人が外国人だった場合にメディアの報道が頻繁に行われていることなどにより、人々の認識がそのように(移民が増えたことで外国人による犯罪が増えたと認識)作用しているのではないかと分析されています。

(4)決戦投票に臨むハラ候補の経歴

先にも少し触れましたが、右派で反リベラルと見られているカスト氏に対して、ハラ氏は自らを「民主主義の守護者」としての立場をより積極的に打ち出す必要があると見られています。

ハラ氏が共産党員であることから、共産党に対する抵抗感を持たれている側面のほかに、現与党の左派連合からの候補でもあることで、国民が関心を持っている治安や移民問題に対する現政権の対応が不十分であると考えている有権者からの支持を得られていないという面があります。

つまり決戦投票に臨むにあたって、国内治安への人々の不安や移民の増加といった問題に十分な関心を示すことで、ハラ氏が現政権に批判的な立場をとる有権者の間でどれだけ支持をのばすことができるのかが勝負の分かれ目と見られています。

ハラ氏(51歳)は、首都州サンティアゴ北部の低所得地域である旧コンチャリ(現在はインデペンデンシア)の出身で、父親が工場の機械工で労働組合の活動家、母親が主婦で、5人きょうだいの長女として育ちました。きょうだいの中で大学に進学したのは彼女だけだったとのことです(大学では行政学と法学を学び、学費は働いて賄っていた)。

1989年(10代半ば)にチリ共産主義青年団に参加し、チリ共産党には1990年に入党し活動しています(ピノチェト独裁から民政移管の時期)。職業上のキャリアとしては、行政官と弁護士になっています。政治家としては、第2期ミシェル・バチェレ政権(2014~2018年)時に社会保障次官に就任し、現在のボリッチ政権では労働・社会保障大臣を務め(2022年3月から2025年4月まで)、労働時間の短縮や最低賃金の引き上げ、年金改革などに尽力してきました。

来月半ばの決戦投票によって、2030年に向けてのチリの政治と社会の方向性が決せられることになります。引き続き状況を注視していきたいと思います。

2025年11月29日 西尾幸治(アジェンダ編集員)
©2025アジェンダ・プロジェクト